2-10 四人+レナで裸ジャグジーって、マジすか

「お風呂だよっ平。早く入ろうよ」


 きれいな裸身を惜しげもせず晒したまま、トリムは俺の腕を引っ張った。


「お風呂上がりに、また飲み直せばいいよねっ。なんちゃってビールは風呂上がりこそ最高だし」

「わかってるじゃないかトリム」


 てか、どこの裏町の居酒屋おっさんだよトリム。本当に高貴なハイエルフか、お前。


「はい、お風呂お風呂ーっ」


 もう素っ裸だからなあ……。なんちゃってビール結構飲んでたし、やるとは思ってたけど。幸い吉野さんはあんまり驚いてないみたいだから、まあいいか。


「それ行けーっ」


 そのままバルコニーに飛び出すと、ジャグジーに飛び込んだな。ジャグジーには湯が満ちていて、泡の上に盛んに湯気を立てている。


「気持ちいーいっ。みんなも早く来なよ」


 手を振ってやがる。いつもいつも能天気な奴だ。


「じゃあ行くか」


 マタタビを――じゃなかった魚を食べ終わって満足したらしいタマも、立ち上がった。服をかなぐり捨てる。


「おいおいタマ。風呂場じゃなくてジャグジー入るなら、水着くらい着ろよ。トリムは仕方ないけどさ」

「あたしは気にしない。あっちの世界で泊まるとき、いつもそうだったろ」

「まあ……」


 たしかにそれはそうだ。タマ、あんまり恥ずかしいとかは感じないみたいだしな。てかそもそも男女のどうこうは気にしないタイプだ。男子校部活のシャワールームで恥ずかしがる奴ぁいないよな、たしかに。


「まあいいじゃない平くん。みんな仲間だし。……恥ずかしいの?」


 吉野さんが、俺の腕に手をかけた。


「いえ恥ずかしくはないんですが……」

「ならいいでしょ。水着もちろん何着も持ってきてるけど、私も着替えるの面倒だし、このまま入っちゃおうかな」


 立ち上がるとシャンパンの入ったバスケットを手に、バルコニーへと向かう。ジャグジーの脇で脱ぐと、服を丁寧に畳み始めた。白い裸体が、背中を見せて動いている。


「平くん。悪いけどみんなの分のグラス持ってきてね」

「は、はい」

「さて、ボクも行こうかなっと」


 俺の目を見て、レナがにやにやしている。


「ご主人様も早く来なよ」

「レナ、お前ならわかるだろ」

「なにが」

「なにがって、あのジャグジー、大きいとはいうものの、五人というか四人とレナが入ると、割とくっつかざるを得ないというか」

「いいじゃんそれで。ボクや吉野さんとはすでに関係持ってるんだし、トリムの裸にも、もう慣れてるでしょ」

「そうはいってもだなー」


 吉野さんに言うかどうか迷って結局言わなかったが、ジャグジーはしっかり照明で照らされてるし、みんなの裸がくっついたりするのは充分考えられる。吉野さんは俺の隣に位置取って寄り添ってくるだろうし。


 となるとだ、俺の謎棒の不随意反応が怖い。俺がいくら理性にグリップ利かせても、本能には逆らえないからな。泡が出てるったって、もしガン見されれば、水中で立ってるのはバレるかもしれん。そりゃ恥づい。


「へへっ。まあいろんな意味で楽しみだよ、ボク」


 ふわふわ飛んで、レナもジャグジーへと向かったわ。


「ねえ平、早く来なよ」

「うるさいトリム。今考え中だ」

「早く背中洗ってよ。いつもみたいに」

「そんな狭いとこでできるか。てか吉野さんかタマに頼め。石鹸だってないだろ」

「夕方にここに置いておいたから、あたし。シャンプーも」


 あの野郎w こんなときだけ、どんだけ準備いいんだよ。それにそもそも、ジャグジーで石鹸だのシャンプー使うな。


「わかったわかった。行けばいいんだろ」


 俺は腹を決めた。これもパーティー親睦のためだ。なに立てなければいいだけの話。俺様の鋼の自制心をもってすれば、謎棒制御くらい楽勝だろ。俺はドラゴンロードのドラゴンライダーだぞ。


 ――などと自分に暗示をかけながら、ジャグジーへと向かった。


         ●


「平、遅ーいっ」


 トリムに文句言われた。


「男はな、風呂に入るときに準備が必要なんだ」

「嘘っ。あたしと毎日すぐ入るじゃん」

「やだふたりで入ってるの、平くん」

「いえ吉野さん。こいつ、エルフは自分で体を洗わないからとかで、俺に洗わさせるんですよ。人のこと三助扱いしやがって」

「そういえば、あっちの世界だと私やタマちゃんと洗いっこするわね、トリムちゃん」

「そう。それです」


 とにかくなるだけこっそりと、服を脱ぐ。


「平はあたしの隣ね」


 トリムが宣言w


「ほらここ」


 少し脇に詰めると、俺を招く。


「仕方ねえなあ……本当に」


 やむなく、トリムの隣に入る。まあくっついてこないだけマシだ。あのエルフ体型でくっつかれたら、俺の理性がな……。


「おう。思ったよりあったかいな、このジャグジー」

「そうね。熱すぎもしないし泡が体を包むから、気持ちいいかも」

「そうですね吉野さん」

「ボクはここだよ」


 俺の胸の定位置に、レナが収まった。


「ねえご主人様。上を見てみて」

「上? なんで」

「いいからさ」


 促されて天を見上げると、満点の星空だった。


「すげ……」

「異世界はともかく、東京じゃあ星空あんまり見えないもんね。街が明るいし空気も淀んでるから」

「夏は特にな。……冬だと東京も割と澄んでるんだが。おっ――」


 星が流れた。こりゃマジ、きれいな空気だ。


「平くんもお酒どう?」

「ええ吉野さん、ぜひ……って!」


 グラスをふたつ持って、吉野さんが俺の隣に来た。いくらでっかいジャグジーだとはいえ、トリム・俺・吉野さんと並ぶと狭い。裸のふたりと密着せざるを得ない。


「わあ。じゃあ三人で乾杯しよっ。ねえ平」

「わかったからあんまり動くな、トリム」

「どうしてよ」

「なんでもだ」


 胸を感じるからな、左右から。動かれると特に。


「じゃあ乾杯」

「かんぱーいっ」


 俺の目の前で、缶を持ったトリムとシャンパングラスの吉野さんが乾杯した。もちろん両側から裸の胸を感じる。


「か、乾杯」


 多分高いと思われるシャンパンを、俺はごくごく煽った。もういいや、とりあえず飲みで気を散らす。でないと自分がアブない。


 向かいのタマは、俺の様子を面白そうに眺めている。瞳がとろんとしてるから、マタタビに気持ちよく酔ってるってとこだろう。


 まあタマの腿が、俺の足を両側から挟んでるんで、こっちはそれも割と困ってるんだがな。なんたってタマは脚長さん。俺の下半身に触れそうなくらいまで近づいてるし、俺の足だって伸ばせばタマの下半身に多分当たる。


 もちろん俺はそんなことしないがな。したら謎棒が勝手に反応しちゃって自分が困るの、火を見るより明らかだしさ。


「ねえ平くん」

「な、なんです吉野さん」

「私、このままここに住んでもいいな」


 吉野さんは、とんでもないことを言い出した。


「ここに?」

「うん。このホテルに一生住んでたって、お金はなんとかなるでしょ」

「まあ多分」


 そりゃあな。猫田自動車買収できるくらいあるんだから、使う気になれば割となんでもできるのは、見えてる。


「そうしたら私、毎日平くんにおいしいご飯、作ってあげる。みんなにも。タマちゃんにはもちろん、マタタビ入り」


 水中の俺の腕を取ると胸に抱き、肩に頭をもたせかけてきた。俺の手が下半身に触れたが、吉野さんは気にしてないみたいだ。むしろ優しくそっと、腿で挟んできたくらい。


「毎日面白おかしく遊んで、いつか平くんの……」

「吉野さん……」


 なんて素敵な提案なんだ。俺だってそうしたい。ただそのためには、なんとしても延寿の秘宝を手に入れないと。それには異世界でまだ見ぬ世界に進まないとならない。それに……。


 それに俺、それがなくても、やっぱ異世界が好きだわ。こっちみたいな煩わしいことがないからな。嫌な奴の陰謀に巻き込まれたりとかさ。異世界なら、俺は自由だ。命の危険は、自由の代償ってことさ。代償を払ってでも、俺はあそこにいたいんだ。


「……なんてね」


 吉野さんが顔を起こした。


「今のは冗談。平くんを縛るつもりはない。平くんはあっちの世界でこそ輝く人。そう思うし、そんな平くんが好き」


 水の中、泡で隠された俺の手に触ると、そっと自分の下半身に導いた。そこは、お湯より熱くなっていた。


「昨日の夜、話したよね晩ご飯食べながら。私もあっちの世界、とっても気に入ってるから」

「吉野さん……」


 なにか言おうとしたが、無理だった。複雑な気持ちが溢れたってのもあるし、正直、雄としてそれどころじゃなかったってのもある。みんなの前だから露骨にはあれこれはしないけど、ちょっと触るだけで、吉野さん、敏感に反応したからな。体がぴくっと震えたり、熱い吐息を吐いたり。


「ねえ平。そろそろ洗ってよ」


 トリムが反対側の手を取った。


「ほら、もうソープ泡立てといたからさ。これでまず背中ね」


 くるっと背を向ける。一本筋がきれいに通ったエルフの背中だ。


「ねえ早くぅ」

「わかったわかった」


 仕方ない。泡を手に塗ると、背中に置く。俺の手が動くとまたぞろトリムが敏感に反応するだろうけど、もう知ったこっちゃない。吉野さんもタマも、特になんも言わんだろ。


 とはいえどうせ胸も洗わさせられた上、トリムは俺の背中と腹も洗いたがるだろう。うーん……。そこが問題だ。なんとかお互い背中だけってことで誤魔化すか。ジャグジーだと狭いからとかなんとかいう理屈で。


 ……だがそれは当然というか願い空しく、やっぱりとんでもないことになったわけさ。

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