ep-2 レナの提案に救われる
その晩、俺達異世界組は王宮の貴賓客室で寛いだ。アーサーやミフネ達も別室をあてがわれてたよ。
「ねえご主人様」
例によってふたりで風呂に漬かってると、レナが俺を見上げてきた。
「なんだ、レナ」
あー今日はトリムは風呂場にいない。いつもならなんちゃってビールで酔って風呂に乱入した挙げ句、「体洗え三助よ(大意)」やる奴だが、なんせ今日は酔ってないし、吉野さんとタマもいる。
洗いっこできる女子がいるってことで、男の俺は三助さんお役御免みたいだ。まあ俺もそのほうが落ち着いて風呂入れるからな。謎棒の不随意反応を気にする必要ないし。気楽だ。
「その……。さっき王宮に着いてからのご主人様、なんかヘンだよ」
「そうか?」
「うん。はしゃいでたかと思うと、難しい顔で急に黙り込んだり」
「そんなことないだろ」
「そうだもん」
「脚を傷めたからな。そのせいだ」
「嘘っ」
眉を寄せてやがる。
まあ心が不安定になってるのは、実は自分でも感じてる。
だって戦ってるときは夢中だったけどさ、すべてが終わり王宮に戻って一服してたら、やっぱ怖くなってきた。……俺、五十年分も命使ったんだぜ。いくら見た目は変わらないったってさ、今後どうなるかわからないじゃん。
七十五歳だって老衰や病気で死ぬ奴なんかいっぱいいる。もう立派な「後期高齢者」だぞ。日本人の平均寿命が八十いくつってだけだからな。平均ってことは、それより若く死ぬ奴なんて星の数ほどいるってことさ。
俺、明日――いや今晩にも、心臓麻痺かなんかでぽっくり逝くかも。老衰w
「ねえ、ドラゴンロードが口走った、魔剣を使う代償ってなんなのさ。ご主人様だって、命を削ったとか独り言してたじゃん」
レナはやっぱ賢いな。よく覚えてやがる。見つめてくる小さなふたつの瞳から、俺は目を逸らした。
「敵の命を削るために、命懸けで魔剣を使ったってことさ。それが代償だ」
「嘘っ。ならこんなに動揺してるわけないもん。この……いい加減なことでは天下無双のご主人様が」
うーむ……。例によって、褒められてるのかけなされてるのかわからん。
「黙ってないで本当のことを話してよ。ボクはご主人様第一の使い魔。ボクとご主人様の間に秘密はなしだよ。ボクだって、エッチなことなんだって教えてるじゃん」
それとこれとは話が別だw
だがまあ俺も考えた。どうにも、レナはごまかせそうもない。このまま白を切り続けると、レナの奴、吉野さんに相談したりなんかして、騒ぎがもっと大きくなりそうだ。吉野さんを悲しませるのだけは、避けなきゃならん。
俺は覚悟を決めた。
「レナは俺の第一の使い魔。それは確かだな」
「そうでしょ、なら――」
「俺と一心同体、第一の使い魔なら、俺の秘密は誰にも話さない。いいな」
「う、うん……」
いつになく真剣な俺の口調に、レナは息を呑んだ。
「なら話してやる。……ただし秘密だ。シタルダ王家の連中やタマゴ亭さんだけでなく、吉野さんやタマ、トリムにも。わかったか」
「……わかった」
湯に浮かぶレナをそっと摘むと、浴槽の縁、俺の正面に座らせてやる。俺は話し始めた。
「バスカヴィル家の魔剣には秘密があった。その力を使うと、使い手に悪影響があると」
「それは知ってる。前、魔剣の精が教えてくれたじゃん」
「はるか昔、混沌神を封じ込めたとき、大魔道士シャイア・バスカヴィルはその力に頼った。それも最大限度で。マキシマムパワーって奴さ」
「それで混沌神を封じ込めたんだよね」
「そうさ。力に頼った代わりに、バスカヴィルは廃人同然となった」
「……」
レナは黙ってしまった。
「そして、俺も同じ力を使った。今日、あの場で」
「それが……代償?」
「ああ。俺は命の力を魔剣に差し出した。五十年分」
「ご、五十年……」
絶句した。
「ヒューマンの寿命五十年分ってことだよね。それって……」
俺は頷いた。
「ここにこうしてる俺は、もう七十五歳同然ってことさ」
「そんな……」
レナの瞳が潤むと、涙が次々に溢れてきた。
「そんなのってないよ。ご主人様。ボクようやく成長できて、ご主人様とこれから楽しい毎日が待ってるっていうのに。……それに吉野さんの幸せ、どうするのさ」
「仕方ないだろ」
あのとき力に頼らなかったら、俺達は全滅してた。俺も死んだに違いない。それよりは長生きできてるってことさ。いいほうに考えるしかない。
そう説明すると、レナはようやく涙を拭った。まだ潤んでいる瞳で、きっと俺を見据えてくる。
「とにかく全部教えて。ご主人様が魔剣となにを話したか。一言一句全て。ボクも考える。なにか……なにか解決策があるよ絶対」
「そうだな」
思わず笑っちゃったよ。さすがレナ。いっつも前向きで明るい奴だ。
微に入り細に入り、思い出される限り、俺は全てをレナに話した。魔剣がなにを言い、俺がどう考え、なんと返事したかを。
頷きながら真剣に聞いていたレナは、すべてが終わると、ほっと息を吐いた。
「それでかあ……」
もう悲しんではいない。俺の苦境を何度も救ってくれた、頼りになる使い魔の表情に戻っている。
「わかったよ。ボクと一緒に考えよ。ねっ」
「もちろんさ」
それがレナの希望になる。当然、俺にとっても。
「まず前提ね。ご主人様は若いから、今にも死ぬって呪いじゃない。もちろん死のリスクが高まったのは確かだけど」
「そうだな」
「バスカヴィルがすぐ亡くなったのは、大魔道士ってくらいだから、かなり齢が行ってたからだよ」
「俺もそう思う」
「ならボクたちは、これからの地図作り、全部ご主人様の命を回復させる情報を求める旅にしちゃえばいいんだよ」
「えっ……」
考えもしなかった。そんな手があるのか……。
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