8-10 専門の包帯? ナースプレイかよw

 俺が攻撃を決意すると、バスカヴィル家の魔剣は、輝きを増し始めた。


 声が告げてくる。


 ――泉門せんもんは頂の背後、蜂体ほうたいなり――

 ――はあ? 専門がなんだって? 包帯? 敵が巻いてるのか? ナースプレイかよ――


 なんやらわからん。よくよく聞いてみると、泉門とは致命的弱点のこと。蜂体ってのは六角形のことらしい。時々古語みたいなの持ち出すから困るよな、この魔剣。


 ――それにしても、弱点はあの頭みたいな奴じゃないのか――


 そりゃ、トリムがいくら攻撃しても倒せないはずだ。頭みたいな頂点の後ろに六角形の鱗かなんかがあって、そこを貫けば大きなダメージを与えられるらしい。


 頂は頭のように見えるから、こっちからは弱点に思える。おまけにそこから攻撃が飛んでくるから、なおのこと、あそこから潰したくなる。


 その実、真の弱点は別にある。「頭」の背後なら、こっちからは陰。攻撃だって当たりにくい。敵ながらよく考えてるよな。人間にたとえれば後頭部の下にある延髄みたいなもんか。人間だって延髄やられたら死ぬ――ってか、運動機能は少なくとも停止するよな。


 よし。


 ――機会は一度。夢々外すまじ――

 ――わかった――


「ご主人様、なにを――するの!?」


 レナが目を剥いている。時間が戻ったんだ。


「使うしかないだろ。今ここで」

「でもそれ危険な魔剣じゃん。多分諸刃の剣だよ。ご主人様だって大怪我するかも」


 大怪我どころか、ジジイ決定だけどな俺w


「なんてことないだろ。平気さ」

「だって――」

「今全員死ぬよりマシだろ」

「でも――」

「任せろレナ。――おいみんな」


 抗議を続ける使い魔を無視して呼びかけた。


「聞いてくれ。俺が突撃する。頼む、援護してくれっ」

「おうっ」


 アーサーが叫んだ。


「全力で援護する」

「俺も突撃する」


 ミフネが剣を振りかざした。


「いや、今回は俺だけじゃないと無理だな」

「なぜ。俺達近衛兵は――」

「説明の時間が惜しい。いい案があるんだ。――タマっ、お前、俺を敵のあの頭みたいな奴のちょうど後ろまで蹴り飛ばすんだ。高ーく放物線を描いてな」

「なに?」

「俺はもうまともに歩けない。それしかないんだ」

「わかった。ボスのボスに従う」

「イシュタルは、俺が動いたら噴炎を止めてくれ」


 炎を噴きながら横目で俺を睨むと、グリーンドラゴンは微かに頷いた。


「平君、危険よ」

「平気です、吉野さん。こいつに弱点を聞いたんで」


 魔剣を振ってみせた。


「やだそれ、輝いてる。まさか使う気。だってそれ――」


 ドラゴンから降りようとしたのを、俺は止めた。とにかくドラゴンと一緒にいるのが一番安全だからな。


「やれっタマ」


 なにか大声で気合を入れると、タマが俺を横抱きにして砲丸投げばりにぐるぐる振り回し、思いっきり放り投げた。多分、蹴るよりいいって判断だろう。


「うおーっ」


 タマ、どえらい怪力。火事場の馬鹿力ってのもあるんだろうけど、俺、高速洗濯機に放り込まれたみたいにぐるぐる回転してる。頭の上にあるのが空だったり地面だったり一秒ごとに変わるくらいで。周囲で鋭い風切り音がしてるのは多分、トリムが大量に矢を放って敵の攻撃を牽制してるんだろうし。


 目をつぶってジェットコースターに乗ったらかくやと思われるくらい、目が回る。それでも敵の赤黒い体躯が急に大きくなったと思ったら、狙い通りの場所――つまり「頭」の背後あたりに、俺は着地した。


「ってー……」


 着地の衝撃で、息が詰まった。そのまま転がり落ちそうになるのを、短剣を突き刺して、なんとかこらえる。


「くそっ」

「ご主人様、しっかり」


 胸からレナが見上げてきた。


「俺は大丈夫だ。レナお前は?」

「平気。ご主人様の胸に守ってもらってるから」

「良かった」


 ――急げ。好機は今のみ――


「わかってるって。人使いの荒い魔剣だな、お前」


 見ると、たしかにひとつだけ、周囲の鱗だか甲羅だかと違う、きれいな六角形の場所がある。ここだな。


 一瞬見下ろすと、こいつの周囲に群がったアーサーやミフネ、トリムやタマが攻撃してる。俺から注意を逸らし、牽制してくれているんだ。


 噴炎を止めたドラゴンも接近戦を仕掛けている。噛みつきこそしないものの、鋭い爪で攻撃して。跨った吉野さんはけなげにも、大太刀で魔物の鎧に斬りつけている。その周囲だけ傷のようなものが見えているのは、――さすが魔剣――なんとか斬り裂けるってことだろう。


「てめえ見てろよ。異世界の化け物めっ(まあ俺も異世界人だがw)。死ねっ!」


 黄金の輝きを強めた魔剣を、全体重を乗せ、思いっ切り六角形に突き立てた。




「キインっ」




「なにっ!?」


 剣が弾き返された。


「駄目じゃん。どうなってるんだ、ええ」


 ――守りが堅い――


 魔剣の声すら困惑しているように、脳内に響いた。


 ――バスカヴィルのときは、大軍勢で装甲を削っていたからな――


「それじゃ詰みだろ俺達。俺はすでに命を削った。もう一撃は無理だろ」


 ――まだだ。装甲に食い込まなかったから、汝はまだ生命力を失ってはいない――


 食い込んでから内部を破壊するのに力を使うのだと、魔剣は教えてくれた。


「なるほど。……ならもう一度試してみるまでだな」

「ご主人様。真上からのしかかるようにやってみて。一番力が入るから」

「レナ任せろっ」


 魔剣を逆手に構え直した。そのままクソ野郎のクソ鱗に、全力で突き落とす。


「あっ!」


 レナの叫び声が聞こえた。


「かわしてっ。ご主人様っ」


 絶叫に一瞬横目を使うと、周囲にいつの間にか触手が何本も立ち上がっており、鋭い爪を四方八方から突き立ててきていた。三六〇度、取り囲まれてる。かわすもクソも、俺、死ぬじゃんw

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