8-7 吉野さん、プレス攻撃を受ける

 これまでなんとか敵を倒してきたトリムの爆発矢は尽きた。


 俺達はいったいどうしたら、この厄介な敵を倒せるんだ……。


「いよいよ最後の肉弾戦だな。腕が鳴るぞ」


 大口を開けて、ミフネが大笑いしてる。哄笑って奴だな。さすが歴戦の勇士。命を懸けての戦いが楽しくて仕方ないって感じだ。


「とにかく装甲を叩き割る。話はそれからだ。いいなっ」

「おうっ」


 近衛兵とスカウトが口々に叫ぶ。


「トリムと吉野さんが、矢や爆薬で牽制する。俺とタマはみんなと一緒に突撃だ」

「わかったボス」


 タマは猫目を見開いている。戦闘に興奮しているんだろう。


「ご主人様。後ろに回ったほうがいいよ。正面に向けてないってことは、多少なりとも装甲が弱いはずだから」

「レナさすがだな。俺の参謀だ」

「えへっ」


 褒めてやったら喜んでいる。心強いわ。


「――みんなもいいなっ」


 ミフネ以下、全員頷いた。


「突撃ーっ!」


 俺の合図で、全員駆け出した。二手に分かれ、敵の左右から回り込む。風切り音と共に、トリムの矢が敵の動きを牽制した。続いて後方から爆発音がした。吉野さんが敵の正面に爆発ポーションのボトルを投げつけたんだろう。


「うおーっ」


 獣人らしく誰よりも早く後方に回り込んだタマ。信じられないほど高く跳ぶと、敵の背後に連続で蹴りを入れた。続いて、抜剣した俺と近衛兵、スカウトが、敵の「裾野」をざく切りにする。


「これならどうだ。なます斬りにして徐々に弱らせてやる」


 休む間もなく、アーサーは短剣を振るってる。リーチこそ短いものの、軽い短剣は、攻撃回数を増やせる利点がある。俺も短剣を使いたいが、あれは例の危険な魔剣なんでやむなく長剣で攻撃している。


「うおっ!?」


 敵の体から、激しいガスが噴き出して、全員ふっとばされた。


 岩場で体が擦れて痛む。多分あちこち切れてるだろう。なんとか体を起こした。


「レナ。大丈夫か?」

「ボクは平気。ご主人様が腕で守ってくれたから」

「良かった」


 アーサーが首を振った。


「なんだこれ」

「奴の防御手段なんだろう。おそらく」


 鎧を纏っているから、近衛兵達に傷はなさそうだ。獣人で皮膚の丈夫なタマも。俺とスカウトはそこここ怪我したけどな。続いて噴出してこないので例のガス、頻繁には出せないようだ。それは僥倖だ。とはいえ俺達の戦い方だと、どうしても長期戦になる。となれば何度か浴びるだろう。その度にひとり脱落するとすれば、徐々に追い込まれてしまう。


「どうやら、長期の接近戦は難しそうだ」


 ミフネが顔をしかめた。


「隊長、ではどうしたら」


 近衛兵のひとりが絶望的な声を上げた。


「ご主人様」


 レナが敵を指差した。


「攻撃来るよ。頂点が赤熱してる」


 言われるまでもない。敵は頭らしきものを伸ばした。


「気をつけろっ」


 誰かが叫んだ瞬間、目の前が真っ赤になって、俺はまた吹っ飛ばされた。


「くそっ」


 またどこか傷ついた。どうやらビーム的ななにかの攻撃だったらしい。トリムが瞬時に反応して例の結界矢を射って全員を囲んでくれたんで、どうやら致命傷にはならなかったといったところだ。


 だが今全員が広く散会している。結界のカバーが遅れたのか、軽装のスカウトがまたひとり倒れたままになっている。動いてはいるから、命は大丈夫だろう。だが戦力からは脱落したと判断するしかない。


 敵はすでに動き出していた。手薄になった正面に向かって。そこには吉野さんとトリムがいる。直接攻撃は防げるので、今度は間接攻撃要員を排除しようというのか。


「危ない。吉野さんっ!」


 凄まじい速度で走り込んだタマが、もうふたりの前に立って後ろにかばい、身構えている。トリムが次々矢を射ち出すものの、ひるむ気配すら見せず、敵は加速した。これまでののろのろとした動きとは全く違う。短距離走者の全力疾走くらいの勢いだ。


「逃げるんだ、みんなっ」


 まだ敵に向かうタマの手を吉野さんが後ろから引いて、三人は走り始めた。だが敵はあの速度だ。


「逃げろっ!」


 誰もが叫んだ。そのとき、あの姿からは想像もできなかった跳躍を敵が見せ、三人の上にのしかかる。


 ――ごおんっ――


 着地の衝撃が、地面を揺らした。

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