8-6 ハイエルフ自慢の爆発矢

「よしっ」


 三体めを倒した。この世界のモンスターと微妙に異なる、虹色の霧となって消えていく。


「なんとかなりそうだな。平」

「ああ」

「トリム様様だ」

「へへっ」


 自慢気に、トリムが弓を高く掲げた。


「あたしの弓矢、たいしたもんでしょ」

「ああ」


 とはいえ、こっちも無傷というわけじゃない。近衛兵ひとりとスカウトひとりが重症で、もう戦力にはならない。


 幸い、連中、戦力外になった奴に興味はないのか、ほったらかしでこっちばかり追ってくる。多分事情を知る俺達を無力化した上で、本格的な世界侵攻に移るつもりなんだろ。知らんけど。


 俺達の戦略は、とりあえずここまではなんとか機能していた。一度に来られたら厳しいので、矢や剣で牽制しながら移動して、一体ずつ孤立させてから倒す作戦で。


 とにかくトリムの矢が超強力。なんせ以前、連中と戦ったので弱点がわかってる。あんときは俺が表面を削って、トリムの矢で命のコアみたいなところを破壊したんだけどさ。あの後トリム、こいつら専用の矢を開発してたんだと。


 なんての、やじり――つまり矢の先端――に爆薬が仕込んであって、着矢と共に爆発するって特別な矢。つまり装甲破壊と弱点攻撃が一度にできる。なんせトリムの矢の照準は正確だし、連中、動きだけはのろいから狙いを外すことはまずなく、ほぼ一撃。


「これならなんとかなりそうだな」


 アーサーも安堵の声色だ。


「そうとは限らないぞ」


 大剣を振りかざしたまま、ミフネが身構えた。


「見ろっ。動きが変わった」


 こちらを追う動きが止まると、連中が集まり始めた。とある一体の周囲に。寄り添った部分が、融け合うようにくっついて……。


「ご主人様。融合してる……」


 俺の胸から、レナが身を乗り出した。


「ああ。なんだこいつら。普通のモンスターと、マジ、全然違うな」

「異世界から来たからねー。人間の妄想ベースとは違う原理なんだよ多分」

「だからこの世界で『混沌神』なんて名付けられたんだな」

「多分ね」


 融合した部分がみるみる増えたかと思うと、連中、ただ一体の姿になった。もちろん、これまでよりはるかに大きい。しかも全体の形まで変わって。


 合体が終わると、一瞬、静止。それから、これまでのように俺達に向かってにじり寄り始めた。


「形が違う。もう弱点がわからん」


 タマが叫ぶ。


「なんの。むしろ一体だけ倒せばいいから楽勝じゃん。そうだよね。平」

「ああ、そうだな。……俺もそう思うぞ、トリム」

「へへーっ」


 トリムはいっつも楽天的だな。俺もさすがに焦ってたけど、なんか救われたわ。


「弱点だってさ。きっと多分メイビーここだよ」


 素早く弓を引き絞ると、矢を放った。


 空気を斬る音と共にきれいな放物線を描いた矢が、敵の中央上部、これまでの敵の弱点に似た盛り上がりの部分に着弾、爆発した。


「やったっ」

「ダメだっ。びくともしてない」


 アーサーの言うとおりだ。にじり寄る速度すら、まったく落ちなかったからな。


「だめかー……」


 笑いながら、トリムが舌を出した。


「じゃあ、残りの特製矢、ぜえーんぶ行っくよーっ」


 目にも留まらぬ早業で、例の矢を次々射ち出す。すべての矢がまったく同じ軌跡を描くと、ピンポイントで同じ場所に向かう。しかも微妙に速度を変えているらしく、全部まったく同時に例のポイントに着矢した。


 恐るべき弓の技術だ。さすが社畜スマホに「戦闘能力が高い」と書かれるだけあるな。ハイエルフって奴は。


 轟音が響き、重なった爆煙で、一瞬視界が遮られた。


「やったか!」


 近衛兵のひとりが歓喜の腕を振り上げた。


「いや、全然だ」


 ヒューマンよりはるかに目が利く獣人のタマが唸った。たしかに、煙が散っていくと、着矢点には傷どころか焦げのひとつもありゃしない。


 なんだ硬いな。ゲームのラスボスだって、もう少しダメージの愛想見せてくれるもんだけどな。


「やばっ!」


 トリムが青くなる。


「もうないよ、あの矢」

「他に手はないのか」

「通常の矢はまだまだあるから、牽制くらいはできるけど……」


 楽観的なトリムでさえ、言葉に詰まったか……。

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