6-7 魔剣と対話してるとこですけど、「大事な話」ってなんすか、吉野さん
俺の頭の中だけに、魔剣の声が響いた。
――汝、知覚の扉を開く資格ありと認める。今世ふたりめの鍵は与えてある――
――それは聞いた。てかふたりめってことは、ひとりめは王女なのか――
――然り――
――禁断の通路を通ったんだな――
――然り。一年前のことだ――
――どこに行った――
――自ら望む地平へ――
――地平? 具体的にはどこよ――
――自ら望む地平だ――
――どこか遠くに行ったのか――
――自ら望む地平へだ。我は関せず――
「うーん……」
どうにもなあ……。どうやら、魔剣にもわからないらしい。本人が好きなとこに行ったってことだけはわかった。城暮らしに飽き飽きしてたおてんば姫だったらしいから、冒険が待つ蛮族の地とやらに行ったんじゃないかな。
――そもそもお前。なんで魔剣がこんな通路のこと知って……というか管理してるんだよ――
――我はバスカヴィルと契約せし者。バスカヴィルの望みに従う――
――なんだお前、バスカヴィルの魂とかじゃないのか――
俺はてっきり、バスカヴィルっておっさんが、この魔剣に転生だか憑依だかしてるんだと思ってたわ。でも違うみたいだな。
――我はバスカヴィルと契約せし者。バスカヴィルは滅びた。我を使ったために――
前もそんなこと言ってたけど、不吉なことを言う。魔剣を使うと使い手が死んじゃうとか止めてもらいたいんだがなあ。
それになんやらわからんが、どうやら魔剣自体は前からあったのかもしれんな。それをバスカヴィルが入手して、魔剣の精だかなんだかと契約した。おそらく、この空間を管理するために。
そういや、バスカヴィルはなんの研究をしてたんだっけ。
「なあレナ。バスカヴィルの研究対象はなんだった? あの図書館の、エルフ大好きヴェーダ館長が言ってたろ」
「シャイア・バスカヴィルは古代の賢者。図書館にあったのは著書の『智慧の泉』。古代魔法の禁じられた術式について、抽象的なヒントが暗号でずらずら書き記されるらしいって、エロい人が言ってたよ、ご主人様」
「エロいとか言うな。かわいそうだ」
「ご主人様が言ったんじゃん」
「あいつはエルフスキーだって言っただけだろ。――まあエロいのも確かだが」
初めての精通を延々語ったヴェーダ館長の顔を、俺は思い浮かべた。知識豊富な知識人のくせに、エロいんだよなあ。……まあ男なんて、みんなそんなもんだとは思うけどさ。
「王女は失踪前、その本を調べていた。失踪後、その本はなくなっていた」
「持ち出したのか、平」
「多分ね」
「平。それよりどうだったんだ」
「焦るなアーサー。もうちょっと待ってくれ」
俺はまた目を閉じた。
――なあ魔剣の精だかなんだかさんよ。あんた、古代の禁じられた術式と関係あるのか? バスカヴィルが研究していた――
――我は混沌の世界から来たり――
――どうやって来たんだ――
――呼ばれた。
――輩?――
――……――
――んじゃあお前も、俺みたいな異世界人なのか――
――汝がそう思うなら、そうかもしれん――
うーん。まだるっこしいw
その後もあれこれ尋ねてみた。こうした言い方なんではっきりとはわからないが、要するに異世界からこの世界に、誰かに召喚されたらしい。呼ばれた他の連中がどこに行ったかは教えてくれなかった。
こいつは長いこと眠っていたらしいが、バスカヴィルに起こされ、「契約」して、この剣に自らを封じ込めた。その後は魔剣としてバスカヴィルと共に旅をし、世界の謎を解いて回っていたらしい。バスカヴィルが死ぬと、その遺言に従い、この通路の管理を請け負った。
――という長い話らしい。そいつがなんで俺の剣として顕現した経緯も、教えてくれなかったけどな。きっとそこにもなんらかの理由があるんだろうさ。現れた理由と、教えてくれなかったわけが。
「わかったぞ、アーサー。王女はこの通路を通った」
「おうっ」
歓喜のどよめきが広がった。
「どこに行ったんだ」
「それはわからん。残念だが……」
「まあいいじゃないか」
ミフネは安心したような声だ。
「さっそく行くぞ」
「おう」
「ちょっと待って」
吉野さんが入ってきた。真剣な表情だ。
「平くん。大事な話があるの。こっちに……」
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