5-5 跳ね鯉村、タマゴ亭異世界支店の朝にエロトーク
「さて、今日のお仕事始めますか」
朝、異世界に転送されると、タマゴ亭さんは体をぐっと伸ばした。
「転送のときって、あたし、妙に肩凝るんですよ」
「それ、私も」
「吉野さんもですか。あれ、なんなんですかねー」
「そりゃ多分……」
「多分、なに? 平くん」
「いえ、なんでも」
女子は胸があるからなー。きっとそれだ――と言いそうになって、俺は口をつぐんだ。
「ここ村外れだから、あたし食堂まで歩くけど、平さんと吉野さんはどうするの」
「俺達も付き合います。朝の作業を手伝ってから村長んとこに顔を出すんで」
「助かる。朝は仕込みが大変でね。……でも、遺跡へは行かなくていいの?」
「今日はあっちはお休みです」
「へえ」
探索チームの食料が尽きそうということで、今日はアーサーたちスカウトがキャンプ周辺で食料を採取する予定だ。採取して日持ちするよう加工するのに一日はかかるということで、その間、俺と吉野さんは久しぶりに跳ね鯉村に顔を出すことにしたわけだ。
「食料足りないなら、ウチのお弁当出したのに。どうせ毎朝平さんたちの分、届けてるんだし」
「そう言ったんですけど、連中は基本、自分たちの食料でやりたいみたいなんで」
「タマゴ亭さんのお弁当、おいしいって大好評なんですよ」
吉野さんが続けた。
「でも美食に慣れちゃうと、スカウトの厳しい任務がかえって辛くなるとか」
「そうか。今回の案件で終わりってわけじゃないもんね。スカウトの人って。街道周辺でモンスターの動向探ったりするわけだし」
「よくご存知ですね。額田さん」
「村のお母さんたちは、なんでも噂するんで」
笑ってる。
「おはようございまーす」
食堂には、もうスタッフが揃っていた。みんな野菜の皮むきしたり出汁を取ったり、下ごしらえを始めている。窓や扉を開け放っているので朝の光が入って気持ちいい。出汁のいい匂いで、さっき朝飯食ってきたばかりというのに、俺はもうなんか腹減ってきた。
「じゃあ……そうねえ」
スタッフに手早く指示すると、タマゴ亭さんは、俺と吉野さんにも簡単な仕事を割り振ってくれた。
「額田さん、あの……」
吉野さんが、テーブルセッティングの手を止めた。
「タマちゃんとかも呼んで、手伝ってもらおうか」
「そう言えば、今日はまだ使い魔の子、呼んでないのね」
タマゴ亭さんは、一瞬、考えた。
「じゃあ頼めますか。助かります」
「うん。……平くん」
「わかってますって」
俺と吉野さんが呼びかけると、ぼわーんとかちりりりりんとか例の効果音が鳴って、使い魔たちが姿を現した。
「おはようご主人様。今日も頑張ろうねっ」
「ふみえボスに平ボスのボス、今日もよろしく」
「た、平……。おはよう……」
「なあに、トリムちゃん。今日はおしとやかね」
吉野さんに笑われると、トリムは赤くなった。
「別に……なんでも」
トリムの奴、俺の前で泣いたりしたのが恥ずかしいんだな、きっと。俺のこと呼び捨てにするのもなんか抵抗があるみたいだし。
「トリムちゃんね。はじめまして。あたし、タマゴ亭の額田です」
タマゴ亭さんは、トリムに手を差し出した。
「あっ。もしかしてお弁当の人?」
トリムは手を握り返した。
「あれ、すごくおいしいです。あの……とっても」
「わあ、かわいい娘。さすがハイエルフ。……あれよねー、平さんと吉野さんの使い魔、みんなかわいすぎ。戦いなんかしなくても、いてくれるだけでいいよね。平さん、男として最高でしょ。トリムちゃんみたいなかわいい使い魔があれこれ面倒見てくれるんだから」
「いえそんな」
トリムが赤くなった。
「あれー? もしかして『あっち系』も? あらやだ」
「違うもんっ!」
飛び上がってるな。別にそんな全力で否定しなくてもいいのに(がっかり)
「平のことなんか、なんとも思ってないもん」
「なあに、トリムちゃん」
吉野さんが笑い出した。
「なんか今日、感じ違うね」
「平ボス、お前もしや……早々と……」
タマにまで睨まれた。
「別になんもないし」
思わず視線を逸してしまったわ。
「それよりタマ、お前早く肉さばけ。カツはな、肉をスライスしたらすぐに揚げないと味が落ちる」
「うるさいな。今やってるだろ」
なにか愚痴ると、タマは作業に戻った。あいつ無骨なくせに、妙に鋭かったな。やっぱタマも女子ってことか。これは気を付けないとならないかもw
「ご主人様はトリムに手を出してないよね」
俺の胸元で、レナが囁いた。
「一瞬、微妙な雰囲気になっただけで」
「なんで知ってんだよお前。あんとき焚き火の脇で寝てたじゃんか。みんなと一緒に」
「ボクはサキュバスだよ。ご主人様のエロ――じゃなかった女子関連とか、ぜえーんぶ筒抜けだし」
瞳が輝いてやがる。嫌な使い魔だ。
「思ったよりモテるね、ご主人様。これはご主人様の今後、すごーく期待できるかも。エロ沼に堕ちてくるのが楽しみ。けけっ」
「だからその、気味悪い笑い方やめれ」
「ご主人様、エッチだよねー。ボクのことだって、夢の中であれこれ……。ふふっ」
「それは内緒だ。誰にも話すなよ」
「ごめんごめん。ボク、あれこれしてもらってうれしくって、つい」
通常サイズのレナは、かわいい相棒って感じなんだけど、夢の中で等身大になると妙に色っぽいんだよな。低レベルとはいえ、さすがサキュバスって感じ。
通常サイズだと体洗えだの裸で添い寝しろだの駄々こねられても軽くスルー安定なんだが、等身大で迫られるとさすがに俺のストッパーも外れちゃうわ。サキュバスのエロ攻撃に逆らえる男なんていないだろ。向こうはプロだw
俺の初キスは遊園地デートの吉野さんだったけど、ディープなのはレナだけだ。胸を揉んだのも服越しとはいえレナが初体験だし。……まあ夢の中の行為を「エロ体験」に含めていいならの話だけどなー。現実の俺は、二十五歳、フェロモンばりばりの男なのに、修道女みたいに清らかだ(泣)
「それで、遺跡調査は順調なの?」
厨房で並んで作業しているとき、タマゴ亭さんが声を掛けてきた。
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