4-5 ドラゴン二体の饗宴
「とにかく平のことはなんとも思ってないから。ホントよ」
図らずも俺に謎告白をしてしまい、トリムは真っ赤になった。つと、俺から瞳を逸す。
「そ、それより、ドラゴンロードはなんで来たのさ」
おっ。やばいと思ったのか話を変えたな。
「さっき聞いたじゃん。平の窮地だからかって」
「余にもいろいろあってのう……」
ドラゴンロードは遠い目をした。
「初めて平に会ったとき、こんな小物相手というのに、少し冷たくあしらいすぎた。ドラゴンロードたるもの、民草にはもっと優しく接するべきであった。……それが喉に刺さったトロールの小骨のように、あれから気になっていてのう」
俺に向き直った。
「ちょうどいい機会だ。余とグリーンドラゴンが同時に噴炎すれば、相乗効果ではるか遠くまで高温の炎で焼き尽くすことができる。こんな谷など、屁でもない。――どうだ平。これで借りを返すぞ」
「それはいい。平、今すぐ頼め」
アーサーが、俺の頭をぐいぐい押し付けた。お辞儀させるつもりらしい。もちろん俺に反対する気などない。願ったりだ。
「頼むよ、ドラゴンロード、それにグリーンドラゴン。俺と吉野さん、それにタマやレナ、そしてトリムのためだ」
意外そうに、トリムが俺を見た。
「もちろん、アーサーやミフネたち、そしてマハーラー王家のためでもある」
「よし。――いいか、グリーンドラゴン」
「おうよ。ドラゴンロードと並び噴炎できるなど、名誉の喜びだ。炎の種が尽きるまで、最大最高、一生一度の噴炎をお見せしよう」
のしのしと並ぶと、谷に向かい、二体のドラゴンが顔を突き出した。緑のグリーンドラゴン、そして金のドラゴンロード。荘厳な眺めだ。
「危ないので、皆は百メートルほど離れておれ」
「近寄るでないぞ。ドラゴン同時噴炎は、かなりの相乗効果を発揮する。とてつもない熱が出るから、体が焼けるどころか、熔けるやもしれん」
人体ロウソクは嫌なので、全員、さっきの岩陰に避難した。そこから覗く。
口を大きく開くと、二体は同時に火炎を噴射した。グリーンドラゴンは紅蓮の炎。ドラゴンロードは、いかにも高温そうな、青く透明な炎。螺旋を描きながら絡み合うように一直線に進むと、炎は瞬時に谷に達した。
谷の真ん中を炎が通過しただけなのに、両側に迫る山肌にびっしり密集したモンスター共は、一瞬にして発火した。直接炎に触れてもいない。よほど高温なのだろう。
決着はあっという間。モンスターはどうみても全滅。妄想が解放された大量の虹が立ち上っている。見たこともない量だ。マジ、数万体いたに違いない。谷は真っ黒に炭化している。俺達の立っているところまで、焦げ臭い異臭が漂ってきていた。
「さて。片がついたか」
ドラゴンロードは、ほっと息を吐いた。
「久しぶりに全力で噴炎して、余も気持ちよかったぞ、平よ」
「ドラゴンロードよ、いずれまた、こうして並びたいものだな」
「余らは孤独に生きる種族。こうした機会でもないと、なかなか一緒には動かないからのう」
「その意味で、平には感謝しないとならないか」
二体は、俺を見つめてきた。
「平、そして我の魂の乗り手、ふみえよ。また会おう。……そろそろマッサージしてもらいたい頃合いだし」
「ええ。今度きちんと伺います」
「ありがとうふみえ。それを聞けてよかった」
グリーンドラゴンのイシュタルが微笑んだ。
「平、これで余は借りを返したからな」
「ああ。ドラゴンロード、ありがとうな。使い魔でもないのに」
「お前の使い魔になど、そう簡単にはなるものか」
ドラゴンロードに、またしても鼻で笑われた。
「だがまあ、成長は楽しみにしている」
「俺達の冒険を、今後も見ていてくれよな」
「退屈を癒やす慰安にはなっている。機会があれば、また顔を見に来てやってもいいぞ」
「感謝するよ。返す返すも」
ふっと浮かぶと、二体は、ものすごい速度で消えた。音速の壁を超える轟音と突風を後に残して。
「平、あたし……」
トリムが袖を取ってきた。
「どうしたお前。なんかヘンだぞ」
「あんた凄いんだね。ヒューマンだからって、これまで馬鹿にしててごめん――」
「もう言うな。お前は俺の大事な仲間だ。使い魔だって、上下関係があるわけじゃないぞ。レナだってご主人様とは呼んでくれるが、俺の奴隷ってことでもない」
地面を見つめたまま、トリムは黙ってしまった。
「谷を抜けるのは明日にしよう」
アーサーが提案してきた。
「冷えるのを待ちたい。それに途中で野営などせず、なんとか一日で一気に抜けたいからな」
「モンスターが大量に発生していたということは、土地のマナが悪い証拠だ。長居したくないからさ」
スカウトが解説してくれた。
「わかった。じゃあ明日は時間が惜しいから、俺と吉野さんは、今晩も野営に付き合う」
「いい判断だ」
笑うと、アーサーはスカウト連中で野営場所を決めるべく議論を始めた。
「悪いけど吉野さん、今夜もこっちです」
「平気。仕事だもんね。また宿泊申請だけ上げておくから」
「頼みます」
弁当はもうないので、現地組の糧食にトリム持参のレンバスブレッドで晩飯にした。正直、レンバスブレッドだけで十分って感じだったけど。腹いっぱいにはならないんだけど、栄養摂った感と満足感が凄いんだわ。元気にもなるしさ。
夜はいつもどおり、焚き火を囲んで雑魚寝さ。
そして深夜。トリムに起こされて、俺は連れ出された。熟睡中のみんなから隠れて、洞窟に。
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