4-4 「直感的に、好きって感じた」<謎告白でトリムが自爆w

「失礼なことを言うな、小娘」


 グリーンドラゴンのイシュタルは、トリムを睨んだ。


「誰がこんな木っ端ヒューマンの使い魔だ。我はドラゴンだぞ」

「じゃあなんで平が珠持ってて、願い事まで聞いてくれるのさ」

「それはな、ふみえが我のドラゴンライダーだからだ」

「ド、ドラゴンライダー……」


 またしても絶句したな。


「エルフどころか、ハイエルフの歴史でだって、ドラゴンライダーなんてほとんどいないのに」


 俺と吉野さんの顔を、交互にわたわた見つめてきた。


「平にふみえ、……あんたたち何者?」

「ご主人様はね、この世界、そしてあっちの世界一の男だよ。口のうまさにかけてだけは」


 例によってレナの「謎上げ」が出たな。


「それよりグリーンドラゴン。頼みってのはあれさ」


 谷を指差した。


「ほう。これはまたたくさん繁殖しているのう……。よほど陽当たりがいいと見える」


 ドラゴンの冗談、割とオヤジっぽいな。まあエルフ以上に長生きとはいえ、体感年齢としてオッサン(かオバハン)なのかもしれないけど。


「あれ、遠くからお前の炎で焼き尽くせないかな」

「ふむ。ふみえの願いとあらば、やってもいいか。契約しているマハーラー王家のためにもなるし。だが……」


 瞳を細めて、ドラゴンはモンスターの群れを見つめた。多分見積もってるんだろう。


「少し数が多過ぎるな。我ひとりだけの炎では、途中までしか焼けないだろう」

「途中まで焼いたら、近づいて先をまた焼いてもらえればいいの。何度かやればいいのよ。ねっお願い」

「ふみえ、お前の頼みは聞いてやりたいが――」


 困ったような瞳で、ドラゴンは吉野さんに首を振った。


「ドラゴンライダーといえども、我を家畜扱いしていいわけではない」

「そこをなんとか」

「平、お前に頼まれるのはそもそも筋違いだ」


 むっとした声だ。


「あんまり無理を言うなら、我は帰ってもいいんだぞ」

「それは困る」


 アーサーが叫んだ。


「平お前、もっとドラゴンにぺこぺこしろ」

「そうだそうだ。とにかく下手に出て、なんとか頼むんだ」


 そんな言い方、丸聞こえなんだから逆効果と思うんだが。


「あーもう。よせ、醜い」


 どこからともなく、大音声が響いた。多分空はるか高くから。


「平お前、余が見ていることも忘れているのか」

「あっ」


 そういえば……。


「お前は……」


 グリーンドラゴンが鎌首をもたげた。高い空に向かって。


「もしや……」

「待ってろ。余も行く」


 声がして、こちらも一瞬だった。あっという間に、イシュタルの横に、もう一体、ドラゴンが着地した。もちろん、俺の使い魔候補にして俺を食い殺そうとした、ドラゴンロードだ。さっき以上に大地が激しく揺れたせいか、トリムが尻餅をついたな。


「やはりドラゴンか……」


 グリーンドラゴンのイシュタルが呟いた。


「それも上位種たるドラゴンロードとか。平はよくよく我らドラゴン族と縁があるのだな」


 俺を見つめて。


「そうか。初めて会ったとき、平からドラゴンの匂いがした。あれは、このドラゴンロードだったのだな」

「まあね。謎が解けてすっきりしたろ」

「懐かしいのう、グリーンドラゴンよ」


 ドラゴンロードは瞳を細めた。


「上位種に無礼して悪いが、我は初見と思うが」

「覚えておらんのも無理はない」


 ドラゴンロードは笑った。


「余が会ったのは、まだお前が小蛇くらいの大きさのときだ。そう、あれはいつであったか――」

「ちょっとちょっと待ってよ」


 トリムが割って入った。


「あんた、よりにもよってドラゴンロードじゃん。なにしてんのよこんなところで。ちょこちょこ出てきていいキャラじゃないでしょ。ラスボス級なんだから。……まさかとは思うけど、今度こそ、平の使い魔?」

「失礼なことを抜かすな、ハイエルフの娘よ」


 ドラゴンロードは鼻で笑っている。


「平のような小物が、余の主のはずはないではないか」

「じゃあなんで出てきたのよ。平の窮地を知って来たわけでしょ。平、あんたってもしかして、本当の本当に、とんでもない力を持ってるとか」


 俺に向き直った。


「あたし実は、召喚されて最初にあんたを見て、直感的に好きって感じた。あれもしかして、やっぱりあんたの潜在力を感じ取って」


 とんでもない告白を、トリムが始めた。


「俺の潜在力を感じ取った? それはないんじゃないか、トリム」

「おかしいと思ったのよ。胸がこうどきどきして顔が赤くなって。相手はたかが低レベルヒューマンなのに、ハイエルフのこのあたしが――」


 なんかヘンな勘違いしてる気もするが、まあいいか。


「だ、だから平に冷たく当たってきたのに。なのに……なのにこんな――」

「なにを口走っておるのだ、この娘は」


 ドラゴンロードがほっと息を吐いた。


「貴族種たるハイエルフなのに、自分より低レベルの平民ヒューマンに一目惚れした。だから混乱しておるのだ、ドラゴンロードよ」


 訳知り顔で、イシュタルが解説を入れた。


「ち、ちょっと、なに簡単にまとめてんのよ、グリーンドラゴン。そんな単純な気持ちじゃないんだからねっ」


 トリムが腕をぐるぐる回した。なんやら知らんが、必死に「違う」アピールしているらしい。


「そんなことないもんっ。あたしハイエルフなのに、た、平みたいな、平みたいな――」


 顔が急速に赤くなってきた。なんか面白いな、トリム。ひとりで勝手にパニクってて。

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