3-7 レナ、「初めての淫夢」を操る
「……きてよ」
どこか遠くから声が聞こえてきた。
「起きてよ、ご主人様。ねえったら」
ふと目を開くと、レナが見えた。
「なんだレナ。もう朝か。昨日はムカつく同期会でウチで飲み直したから、ちょっと飲み過ぎたな」
「朝じゃないよ」
「だって随分明るいぞ。まだカーテン引いててこれだからな」
「違うよ」
焦れたような声だ。
「ここはご主人様の夢の世界だよ」
「夢? 夢の世界って……」
起き上がって見回してみた。たしかにここはあの狭いアパートじゃない。なんか知らんが、真っ白くてだだっ広い部屋だ。窓も照明もないのに、明るい。寝てたのもベッドじゃない。床から立ち上がった白いハンペンみたいな床――というか構造物だ。といって堅くはない。それに――。
「なんだレナ。お前、大きいじゃないか」
今気づいた。そういやレナ、いつもの身長四十センチじゃない。プラス一メートルくらいはある。
「へへっ驚いた?」
「お前、もしかして俺の夢に出てきたのか」
「うん」
頷いた。
「夢の中では、ボクだって人間サイズになるし」
「ということは……」
寝ぼけが薄れ、ようやく頭が回り始めた。
「レナお前、レベルアップして、淫夢できるようになったんだな」
「まあね」
「そうか……」
なんだか急に恥ずかしくなってきた。
なんたって等身大のレナは新鮮だ。これまではドールサイズだったからあんまり女子を感じなかったが、もう文句なしに美少女じゃん。そんでまた、例の刺激的な服着てるし。
胸だってちゃんと出てて、なんだか俺に触ってほしそうに見える。
「まあ……良かったな。成長して」
「へへっ」
俺の隣に、すとんと座り込んだ。大人としてはちょい小さいので、なんだか中一くらいの女子と並んでるような、妙な感じさ。
「うれしい? ご主人様」
「ま、まあな」
「エッチなことしたいんでしょ。レナと」
「それはその……。お前、今日は意地悪だな」
「なんかうれしくてつい。……でも実はさ、まだエッチなことはできないんだ」
「さっきできるって言ってたぞ」
「淫夢構築はできるって言ったんだよ。といっても、ボクはまだレベル不足でエッチなことはできない。だから正確には、ご主人様の夢に出て、いろいろすることができるようになったってこと」
「はあ」
つまり、夢の中でもエッチなことはできないってことか。
「お前に触れはするんだろ」
「うん」
「服だって脱がせられる」
「そうだね」
にこにこしてる。
あっさり認めるな。低レベルとはいえ、さすがサキュバス。
「裸のレナにいろいろしたら、それはもうエッチも同然な気が」
「あんまりそっち方面に進むと、多分ご主人様がペナルティーを受けるかと」
「なんだよそれ」
「とんでもない痛みで絶叫しながら目が覚めるとか」
「はあ」
「エッチ方面にもっとやりすぎると、心臓が破裂して死んじゃうとか」
「おいおい、勘弁すれや」
微笑んだまま、レナは手を振った。
「ボクがやってるんじゃないよ。神様の決めることだから」
「神様だぁ? 暇な野郎だなあ。こんまい男の夢を監視するなんてよ。もっと他にやることいっぱいあるだろ、神様ならさ」
「ボクに言われても」
ほっと溜息をついた。
「それに神様といっても全能の世界の創造主ってわけじゃなくて、一種のゲームマスターみたいなものだからさ」
「へえ。お前、神様のこと、知ってるのか」
「うん。ご主人様だって、そのうち会えるようになるよ」
「適当なこと言うな。……まあいいか。んじゃあこの夢の世界、どうなってるか教えてくれよ」
「うん」
うれしそうに、レナは解説を始めた。夢だからなんでもやり放題。今は白い部屋だけど、世界を変容させれば、原っぱのハイキングだの雪山をスノボで滑り降りるとか自由自在になんでもできる。南国ビーチでキンキンに冷えたビール一気とか、魅力的だ。
もちろんレナ以外の登場人物も出せる。といっても本物じゃなく、あくまで夢の中劇場の人形キャラとしてだけどな。ただ今はまだレナのレベルが低くて、他のキャラは出せないんだと。
俺が朝起きても、この夢のことは覚えてるらしい。曲がりなりにも、サキュバスの淫夢だから。
「ねえご主人様。なにがしたい? ボクとふたりで。今晩は同期会で怒らずに我慢したんだし、ご褒美だよ」
レナは目をキラキラ輝かせている。
「そうだなあ……」
考えた。サキュバスから「ご褒美」とか言われると、どうしてもそっち方面が頭に浮かぶ。――といっても、下手に触れ合い方面に進むと俺のエロ欲求が発動して、ややこしくなりそうだ。エッチなことするとペナルティーがあるって話だし。
とはいえこうして話すだけだと、普段と変わらないな。体のサイズが違うだけで。それじゃあつまらない。
「うーん……」
「けけっ悩んでる。かーわいい」
「気持ち悪い笑い方すんな。前も言ったろ」
思いついた。
「――おう、そうだ。耳掻きがいいな。膝枕で」
「へえ。ご主人様、意外にかわいいとこあるんだね」
くすくす笑ってる。
「いいだろ。そんなの子供の頃しかしてもらってないしさ」
「これまでの人生で彼女いなかったもんねー。もう全っ然」
余計なお世話だ。
「……嫌な使い魔だなー。俺の記憶を探るなよ」
「ごめんごめん。こうして夢で話せるのうれしくて、つい。――じゃあえいっと!」
レナが手を振ると、白い部屋は、緑の大草原に姿を変えた。真ん中に、ふわふわした黄色のソファー。レナが座ってて、俺は膝枕してもらってる。
「どう、いい感じでしょ」
「まあな」
とは答えたが、どえらく気持ちいい。そよ風は陽に暖められた草や花の香りがするし。
「ご主人様、だーい好き」
耳元に囁くと、なにか柔らかな棒を、レナがそっと耳に入れてきた。
「どう。気持ちいい?」
「ああ。とっても」
耳の奥で、棒が優しく動くのが痛かゆいようで気持ちいい。レナの太腿は温かく、柔らかい。なんだか、花とは違う、いい香りがする。多分これ、レナの匂いだな。おしろいのような、クリームのような。
「ふふっ。くすぐったいよ、ご主人様」
気がつくと俺は、レナの太腿を撫でていた。
「まあ、これくらいならペナルティーもないと思うからいいんだけど。なんだかボクがコーフンしちゃうかも……」
「悪い」
外そうとした手を、レナがそっと握ってきた。
「でもいいよ。もっとして。ボクもご主人様に触ってほしいし」
「そうか……」
太腿の奥に手を導かれ、俺はそっと撫で始めた。
「ほらご主人様、今度は逆の耳だよ」
「でも、寝返り打つと――」
「いいから」
促されて反転すると、目の前はもうレナの短いスカートだ。
「はい。レナの腰に腕を回して」
「うん」
腰を抱くようにすると、体が密着する。
「もっとくっついていいよ。ほら」
スカートに顔をうずめるようにして、レナの腰を抱いた。
「ふふっ。ご主人様の息がくすぐったいよ」
体を震わすと、レナが耳掻きを始めた。
「あんまりおいたはしないでね。くすぐったいと耳掻きできなくなっちゃうから」
「そうだな……」
しばらく耳掻きが続いた。
「駄目だよご主人様。じっとしてたら」
なぜか怒られた。
「少しはおいたしてよ。そういう意味なんだから」
「わかった」
女心は複雑だな。
レナに導かれるまま、抱いたり撫で回したり。なんか微妙にエッチなことをしながら耳の奥を掃除されると、どんどん気持ちよくなってきた。
いつの間にか周囲の風の音とかが気にならなくなっていって、どうやら俺は、そのまま夢の中で寝落ちしたようだ。ささやくようなレナのとりとめない話を聞きながら。
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