6-12 バンシー、死の叫び

「タマっ」

「わかってるっ」


 俺とタマは、タマゴ亭さんを背後に守る、近接防御のフォーメーションを組んだ。


「くそ雑魚モンスターがっ。かかってこいやっ」


 叫んだ俺に向かって、ゴブリンが殺到する。もうほんの三メートル先。十体はいる。


「うおーっ!」


 俺の隣で、タマが吠えた。聞いたこともないような大声。ケットシーの戦いの叫びだ。


 気圧されて一瞬、ゴブリンが立ち止まった。そこに突っ込んだタマが、輪舞のような脚さばきの回し蹴りで、次々にゴブリンの頭部をふっ飛ばしていく。ゴブリンが消え妄想に戻る虹が、周囲に大量に立った。


 タマが攻撃に移った分、俺は防御に徹して、こちらに向かうゴブリン野郎どもを棒で牽制する。牽制されて動きが止まったゴブリンどもを、背後からタマゴ亭さんが放った火炎弾が襲った。全身炎に包まれたゴブリンが、次々、叫びながら倒れ込む。


「吉野さんっ」


 隙を見て振り返ると、ドラゴンはまだ倒れたまま、苦しげな息をしている。ロケット砲の着弾点には穴が開き、血とも体液とも判別できないどす黒い液体が、どくどく流れ出している。ヤバい。


 ドラゴンの背の陰に、わずかに吉野さんの髪が見えた。どうやらドラゴンの後ろに隠れているようだ。


 巨大なドラゴンを前に、ゴブリンどもは、恐れたのかなかなか手を出せずにいる。俺達に向かった仲間が次々に倒されるのを見て、すでに腰が引けて逃げようとする者すら出ている。


「ちっ。面倒ですね。おいっ来いお前」


 背後に隠れていた女型使い魔、バンシーの髪を掴み、いけすかないライバル野郎が、自分の前に押し出した。


「なにしてんだお前は。無駄飯食い。さっさと泣くんだよっ」


 バンシーを蹴り飛ばした。


「あっ」


 蹴られて転んだバンシーは、それでもなんとか立ち上がると、甲高い悲鳴を上げた。


「バンシーの死の叫びだっ」


 タマが唸った。


 叫び声が、俺の脳を締め付けた。耳を塞ごうとなにをしようと無駄。敵方の行動だけを確実に封印する魔術に、俺もタマも手の出しようがない。


 為す術もなくうずくまった俺とタマ、タマゴ亭の額田さんに、ゴブリンどもが殺到した。


「大丈夫。ボクがご主人様を守るから」


 けなげにもレナが楊枝剣を構えたが、バンシーの叫びに、思うようには動けないようだ。


 俺めがけてゴブリンが殺到する。にやにやとニヤけながら。苔の灯りに輝く斧を振りかざして。


 ――くそっ、ここまでかっ。せめて、せめてひと太刀っ!


 なんとか棒を拾ったが、それが精一杯。盾代わりに横に構えた棒の上を超えて、ゴブリンの斧が、俺の頭に振り下ろされた。

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