3-4 レナと晩酌。とんかつ弁当はつまみに最高!
「サボるためとはいえ、死にかけるとは思わなかったな。レナ」
「今日のあのリッチ戦は、これまでのピークだったもんね」
狭い自宅アパート。いつもの半額弁当の晩飯を、レナと食べているところだ。
あの後、窪地を抜け、超弱いモンスターしか出ない湖地方へと踏み出したところで、俺は地図作製を終了させた。なんせ疲れた。これからは楽に距離を稼げる。なら今日はもう打ち止めだ。そう判断したからだ。
開けた場所で座り込み、お茶を飲みながら、レナをからかったり、タマの頭を撫でたりした。跳び上がってたが。
真面目なこともしたよ。戦闘を振り返って反省点を話し合い、今後の戦略を決めるとか。手持ちの薬草を煮詰めて回復ポーションやエンチャントポーションを生産したりとか。
なんにつけ、疲れたってことさ。
「いやー、今日の半額弁当、当たりだな」
「窪地突破記念に、高いとんかつ弁当にしたしね。『猫泉』の奴」
二種類のソースがかかった、けっこういい奴だ。
「おうよ。とんかつは揚げたてのしゃきっとした歯ざわりも最高だが、弁当の、時間が経って衣がしなっとした奴も、けっこうイケるしな」
「うん。しなっとしてる分、かかってるトマトソースととんかつソースがそれぞれよく染みてて、滋味があるしね」
「わかってるじゃないか。レモンスライスが貼り付いてた部分だけ、柑橘系のさわやかな香りと酸味があるのも、むしろ味わいと言えるし」
おいしいから、一切れでけっこう飯をかっこめる。とんかつは余り気味になるから、それをつまみに、安いなんちゃってビールの晩酌もうまいし。
夢中で食べていると、レナが箸代わりの楊枝を置いた。
「ねえご主人様」
「なんだレナ。その漬物はな、沢庵といって、ひねた香りが最高。つまみによし飯によし、おかずの口直しによしと、万能型。まさに漬物界のスーパースターだぞ」
「そんなんじゃなくてさ」
すっと立ち上がった。
「ボクを見てわからない?」
「なにが。太ったのか」
「ひどーい。ボク、少し成長したんだよ」
「おっ。マジか」
とんかつをつまんでいた箸を置いて、レナの体を観察してみた。大きさは四十センチのままだ。サキュバスなんだから胸とかが成長するのかと思ったが、そちらも変わりはない。
「変わらなく見えるが。……経験値が貯まったのか」
「うん」
「まあ、踏破距離もけっこう稼いだか。最近、リッチと戦ったしな。中ボスとまでは行かないだろうけど、雑魚ん中でも割と強そうな」
「そうだね。スケルトンもたくさん倒したしね」
「とはいえ戦闘は成長に無関係らしいが。踏破距離だけが関係あるとか」
「ボクは使い魔だから、戦闘も経験値になるんだよ」
「なるほど。お前もモンスターだしな。……レベルいくつになった」
「うーん。数値では出ないんだけど」
「まあゲームじゃないしな」
「感覚的にはレベル一ってとこ」
微妙だw
「まああれだ。レベルゼロを脱しただけ立派だよ。喜んでいいぞ」
なんとか褒める。褒めて伸ばす教育――なんちゃって。
「えへへへっ。ほめられちゃった」
体をくねらせて喜んでるな。
「じゃあ俺もレベル一だな、きっと。戦闘は関係ないとしても、けっこう歩いたし」
「多分ね。だからご主人様も、ある程度、強い敵と戦えると思うよ」
そういや、俺の潜在力は高いんだった。これまでレベルゼロだからダメダメだっただけで。
「うれしくもあるが、強い敵は勘弁だな」
「なんでさ」
意外そうな顔だ。
「誰が強い敵と戦うかっての。そんなためにレベルアップしたんじゃない。楽してサボりながら必要最低限だけ地図作るのに、わずかでも危険を減らしたいだろ。なら強いに越したことはないじゃないか。そこだけはうれしい」
「ひねくれてるなあ……」
ほっと息をついてたが、急ににこにこし始めた。
「それより聞いてよ。ご主人様」
「なんだよ。せっかく気持ちよく俺の夢を語ってんのに」
「ボクはレベルアップしたんだよ」
「それ聞いた」
「だーかーらー」
意味ありげに見つめてくる。
「あーもしかしてお前、エッチなことできるようになったのか」
無言で頷いている。
「そ、そうか……」(どうしよう。こ、心の準備が)
「エッチなことができるようになったんだよ。ご主人様」
「言い直すな。なんかヘンなプレッシャーを感じる。それでその……俺とどこまでできるんだ。えーとほら、なんて言うかさ」
「最後までは無理みたい」
笑ってる。
「うーんとね。ほらみて、ボクの成長」
ぼわーん
いつもの効果音と共に、レナは大きくなった。エッチなときは人間大になるって話だが……なんだよこれ。身長六十センチじゃんか。
「ほら見てご主人様。ボク、一・五倍も大きくなれるんだ。まあエッチなことするときだけで、普段はこれまでとおんなじだけど」
「わあー。すごいなー(棒)」
拡大コピーかよ。
「だから、ディープなことはできないけど、ご主人様と抱き合ったり、触ってもらったりはできるかなあって」
「……」
「ほら、触っていいよ」
俺のももの上にちょこんと立った。
「そうあっけらかんと言われてもなあ……。恥ずかしがりもしないから、むしろ色気がないというか。お前ほんとにサキュバスか」
思わず口をついた感想を言ってから、俺はしばらく考えた。
一・五倍と言えば聞こえはいいが、要は六十センチ。まだフィギュアかドールかってサイズ感だ。「あれやこれや」やるってわけにはいかない。半端に触ったってその先がない以上、すべては虚しい。
俺はこうしてレナと話してるだけで楽しいし、特にその先はなくてもいい。少なくとも今のところは。
冷静に考えてみると、成長したって言ったって、レベル一だもんな。本来の初期ステータス、よちよちのひよっこに戻った程度だし。レベルゼロが異常だっただけで。それに現実の男女関係でレベル一だと、多分せいぜい手でもつなげれば御の字ってところだろう。
「触るのはあれだな。もうちょっとレベルが上がったらにしようぜ」
「えー」
不満そうな声だ。
「仕方ないだろ。お前触っても、お人形遊びしてるみたいな気分になるだけだろうし」
「……ご主人様の命令なら、それでいい。でも……」
言葉を濁して、上目遣いで俺を見つめている。
「なんだよ」
「ひとつだけ、ボクのお願い聞いて」
「おう。なんだか知らんけど、言ってみろ」
「じゃあ、遠慮なく」
にっこりと、レナは微笑んだ。
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