2-3 パーティーリーダー俺、雑魚敵エリアで早くも死にかけるw

「まいったなー」


 俺は溜息をついた。早めの昼休憩という名目で、さっそくサボってるところだ。


「ご主人様、大丈夫?」

「まあな。……ここがちょっと痛むが」


 俺は腹を押さえた。


「あれはテンタクルズ。ムチ状の触手を多数持つので危険だって、言ったじゃん」

「言ってないだろ」


 思わずツッコんだ。そんな話、事前に聞いてないし。


 いや順調は順調だったさ。タマは想像以上に戦闘力があり、俺がウェアラット一匹を元の妄想に戻す間に、五匹もタコ殴り&タコ蹴りにして花火にしてた。


 あれだなー。吉野さんチームが初日に八十歩どまりだったの、ハイヒールもあるだろうけど、きっと吉野さんがビビってろくに歩かなかったからだな。その意味で俺と同じサボり組と言えなくもない。


 サボる気マンマンの俺リーダーですら、雑魚散らしが面白くなってぐいぐい進んじゃったし。ともかくタマのおかげだ。んでまあ、当初目標だった千歩をはるかに超えた頃、急にネズミ野郎以外のモンスターが出てきたわけよ。


 なんか蔓草つるくさの化け物みたいな奴。草が絡まって丑の刻参りの人形的な形になってる。いや一体だけだったんだけど、体から出ている蔓がムチのようにこっちを襲ってくる。


 俺もタマも近接戦闘系だから、リーチの長いムチとの戦いは厳しい。襲ってくるムチをタマは猫らしく柔軟に体をひねってかわしてたが、俺は無理。あっと言う間に二、三発はたかれてぶっ転んだ。吉野さんが火炎弾を投げてあいつを燃やしてくれなかったら、雑魚敵フィールドで早くも死んでたかもしれない。


「痛む、平くん」


 吉野さんがお腹をさすってくれた。


「平気っす」

「もっと薬草使う?」

「いえあれ、これ以上使っても同じみたい」


 手持ちの薬草は、一定範囲の効果しか持たないようだ。草木知識豊富なケットシーたるタマが言うには。初期薬草だからだと。先のフィールドまで進めば、より治癒効果の大きな薬草が見つかるという。


「ボス。私がやろう」


 吉野さんをがさつに押しのけると、タマが俺を草っぱらに押し倒した。そのまままたがると、俺の服を一気にまくり上げる。


「おいおい」

「動くな」


 なんだこれ、俺、食われるのか、こいつに。それか犯されるとかw


「ここだな……」


へそから脇腹にかけて広がる赤い腫れを指でなぞると顔を近づけ、いきなり口をつけてきた。


「ふわっ!?」

「らまれ」


 そのまま、腫れを口に含むようにして舐め回してくる。


「タ、タマちゃん。あなたいったいなにを」

「安心して、吉野さん。ケットシーはこうして傷を治すんだよ」


 レナが解説する。唾液がキズぐすりってところか。おろおろする吉野さんを制すると、タマは熱心に続けた


 いやくすぐったいし。おまけに猫舌がザラザラで妙に気持ちいいし。それにタマの口、すごくあったかくて濡れてる。またがられたまま舐め続けられるなんて、なんかヤバい。知らない世界の扉が開きそうだ。


「タ、タマ」

「黙ってろ。ボスのボス。気が散る」

「わ、わかった」


 そのまま好きにさせることにした。痛いの治るなら助かるし。


「テンタクルズの触手には毒があるんだよ。だから最初は少し痛むだけだけど、半日もほっとくと死んじゃうんだ」

「レナお前、そんな悲惨な事実をうれしそうに解説するんじゃない。もういっしょに風呂入ってやらないぞ」

「それはイヤ」


 それにしてもここ、危険の少ない初心者向けエリアって話だったんじゃないのかよ。そりゃたしかにウェアラットも蔓草野郎も、初見の戦いから対処はできたさ、瞬殺とかはされずに。でも無限に仲間を呼ぶとか致死性ムチとか、どいつもそれなりにヤバいとこあるじゃん。会社に戻ったら、あの転送担当者ぶち殺す。


「だからあたしに任せておけ。……そうだ」


 顔を上げると、猫目で見つめてきた。


「あたしの頭を撫でてくれ」

「はあ?」

「いいからそうしろ」


 またナメナメに戻った。なんかわからんが、撫でてやる。


「ケットシーはね、撫でられると気持ちが盛り上がって集中できるんだ。唾液の治癒効果がぐんと高まるんだよ」

「へえ、そう。やっぱりネコちゃんなのね」


 吉野さんも、下手すると死ぬかもってときに、のんきに相槌打ってるんじゃないよ。


「そうそう。それにね、耳や尻尾を触られるのはもっと大事。敏感なところだから、よっぽど心を許した相手にしか触らせないんだ」


 なんか脱線してるぞ、レナ。


「なにせ発情期にはそうやって互いに気持ちを高めあって、もうそれはそれはエッチな――」

「もうよせ、レナ。こっちは死ぬかもってときだぞ。なにうれしそうに解説してるんだよ」


 サキュバスだけあって、エッチな方面の知識を語るのは大好きなんだな、きっと。レベルゼロのチビのくせに生意気かも。


 でもちょっと気になる情報だ。タマ、発情期があるんだ……。試しに手が滑ったふりをして、ちょっとだけ耳に触ってみると。


「ひゃんっ!」


 柄にもなくかわいい声を上げて飛び上がった。


「お前ぇ……」


 睨んできたりして。


「悪い悪い。手が滑った」

「今度やったらもう舐めない。勝手に死ね。いやその前にあたしが喉笛を食いちぎる」

「悪かったって。もう許せ」


 なんか知らんが、吉野さんがこっちを見てるな。ちょっとトロンとした瞳で。この人もなんだかヤバいところがありそうだ。


 もしかして百合方面とかなのか? うーんまさか俺のパーティー内で、ヒューマンとケットシー、サキュバスが百合展開するとかか? そんな修羅場はカンベンしてくれ。悪夢じゃん。

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