2-2 四人パーティー、揃い踏み
翌朝。異世界転送装置の中に間抜けに並んだ俺と吉野さんは、金曜同様、異世界へと転送された。
「さて……」
転送は瞬間的なんだけど、超高速エレベーターで下ったみたいに、体の中がひやっとするしめまいがする。頭を振ってめまいをやりすごした俺は、見回した。
「おっ、吉野さん、来てますね」
「当たり前じゃない。一緒だったでしょ」
脇に立った吉野さんが、腕を組んだ。俺は予定通りアウトドア系の衣装。動きやすくて小雨くらいは弾いてくれる服に、ごっつめのスニーカー。でもなあ吉野さんが――。
「やっぱり吉野さん、明日からは俺みたいな服にしてくださいよ」
「いいじゃない。スーツは基本でしょ」
「転送装置の前で言ったでしょ。そんなタイトスカートじゃ歩きにくいって」
「でも、今日はローヒールにしたし」
はあ? 金曜はハイヒールでこの世界歩いてたのかよ。そりゃ八十歩しか進めなかったわけだ。
「まあいいか。……まずは使い魔を呼びますか」
「そうね。平く……リーダー」
「なんすかそれ」
「だってここからは平くんがリーダーでしょ」
「吉野さん。たしかにそうですけど……」
たしかにそう決めはした。でもなんか気持ち悪い。俺、責任とか背負うのカンベンだからさ。リーダーを受けたのはもちろん、休み時間を自由に決められてサボれるからだ。
「部下の私のことは、呼び捨てでいいわ。吉野とか、……ふ、ふみえとか」
なんか知らんが赤くなってるし。
「それはやりすぎ。吉野さんでいいでしょ。本当は課長とか呼ぶべきなんだから」
「そ、それもそうね」
「あとリーダーもやめましょう」
「わかりました、ボス」
「それもダメ」
「……わかった」
「さてと……」
俺は見回した。今日もここ異世界は快晴。高い空にちぎれ雲がゆっくり流れている。周囲は低い丘や草原。はるか先に山や湖が見えている。
「予定通りの場所っすね」
俺が金曜に歩いた所だ。今日は新パーティーのテストも兼ねて、こないだの続きの地図を作ろうって算段。転送担当者、ちゃんと場所間違えずに送れるんだな。見た目ひ弱なエリート野郎だったから、失敗が心配だったが。
「そうね」
「さて、まずは使い魔呼ぶか。――おーいレナー。出てこいよ」
ぼわーん。
またしても間抜けな効果音。これなんとかできないのか。
「ご主人様。今日も頑張ろうねっ」
うれしそうだ。
「それにはじめまして、えーと、なんて呼べば……」
「吉野でいいわよ。はじめまして」
「はい、吉野さん。ボクはレナです」
現実世界でも姿を消したままレナは一日中俺といっしょだから、吉野課長(級)のことは見てたんだけど。呼び方、悩んでたみたいだな。意外に気を使うとこもあるじゃん。
「かわいい……。レナちゃんね」
「はい」
「サキュバスっていうから、どれだけ刺激的なのかなあって思ってたけど。エロ系というより、意外にかわいい系ね」
「まあそうですね。それにほら、能力ゼロなんでこいつ。エッチなことできない。そもそもフィギュアサイズだし」
なに言い訳してんだ、俺。
「それより吉野さんも出してくださいよ」
「そうだったそうだった。……えーと、タマちゃん」
もわーん。
俺とちょっと違う効果音だな。
「にゃーん」
煙と共に現れたのは……これがケットシーか。
ケットシーっていうから、化け猫ってかアリスのチェシャ猫みたいなの想像してたが、なんだこりゃ、獣人じゃねえか。ケモナー御用達か? メイドカフェのネコミミイベかよ。
レナのようなミニ版ではなく、こいつは吉野さんよりちょっと大柄なくらい。ネコミミ込みで俺と同じくらいの背だから、俺よりちょい小柄ってとこ。獣人といっても見た目は人間。猫目なのとネコミミと尻尾があるくらいだから、マジ、コスプレに見える。猫目といっても、人間より瞳がわずかに縦長なだけだから、ほとんど違和感はないし。
とはいえメイド服とかじゃなくて(当然だ)、いかにも格闘キャラっぽく、ポケットのいっぱいある革ジャケット姿。動きやすそうなミニスカートからは、筋肉のついた褐色のふとももが覗いている。
獣人内での美醜の評価基準は知らんが、人間から見る限り、まあかわいいと言っていい。
「お前が平とかいう奴だな」
なんだこいつ、かわいい顔してズケズケもの言う使い魔だな。
「ああ」
「ふん」
品定めするかのように、俺を眺め回してやがる。
「ボスのボスなら、お前はあたしのボスだ。まあ従ってやる」
「よろしく頼む」
微妙に上から目線を感じるが、まあいいか。俺は合格したみたいだしw
「それにしても吉野さん。タマって名付けたんすね」
「あら、変? ネコちゃんだから、かわいいかなって」
「まあいいですけど」
人型モンスターにタマとか、やっぱズレてるな。俺の上司。
「さてじゃあ行くか」
例によって足元に落ちてた、こないだの棒きれを拾う。これが俺の専用武器だからなー情けない。もっとこう、エクスカリバーとかムラマサ的ななんかにしてくれればいいのに。
「俺とタマが前衛だ。吉野さんは薬草とかマジックアイテムで後衛サポート。レナは俺の補佐な。――ほら入れ」
「わーい」
例によって胸元に入れてやる。レナが指示する「モンスターのいなそうな方向」に向かって、俺たちは歩き始めた。
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