シンボルマークと系統
くだらない、とまでは言わないけれど、そんな理由で?!
マイクさんの供述を聞いた、私の素直な感想だ。そんなの、まったく納得できない。あの場にいた全員の命を危険に晒してまですることか? と思う。
ところが、マイクさんの供述が共有されるにつれ、<らいめい>の乗組員や王国の人、帝国の人、さらにはサリフ皇帝やヴァレリーズさんまで、マイクさんの肩を持ち始めた。
「男気ある」
「友情のためにそこまで」
「理解できる」
「男子たる者、かくありたいものだ」
なんだろう、昨日まで悪口を言っていた世論が、一晩で逆転して賞賛に変わる、みたいな。ますます納得できない。サリフ皇帝など、「行き場がないのなら、帝国の臣下に迎えよう」とか言い出す始末。まったくもう。だんだん腹が立ってきた。もう、処罰はDIMOに丸投げしよう、そうしよう。
でも、確認しなくちゃいけないこともある。それは、私の仕事だ。
私は<らいめい>を降りて、ルートに話を聞きにいった。
□□□
<らいめい>の機能がほぼ復活したので、島の浜辺に作ったベース、浜ベース(全然名前が定着しないんだけど、なんで?)は閑散としている……かと思えば、以前にも増して賑やかになっている。海に慣れていない王国の人たちも、海自隊員や帝国の人たちに習いつつ、マリンスポーツや釣りにいそしんでいるし、そうでない人たちは、南国の果実を集めたり獣を狩って食料にしたりしている。
ルートを探して浜辺を歩いていると、数人が火を囲みながら歌を歌っていた。海自隊員のひとりがギターをかき鳴らしている。
「ちょっといいかしら?」
「調整官サクラ、了承・受諾」
私は、ルートを連れて、近くのバンガローに入った。島にある木材と大きな葉っぱを組み合わせた四阿みたいなものだけれど、なかなかどうして立派にできている。良く見ると、土台は石だ。土属性魔法、便利だな。でも、そのうち、土の壁とか本格的な家屋を作り出しそう。後で注意しておこう。
「何か質問? もしくは情報提供?」
私がバンガローの床に置かれた草で編んだ座布団の上に座ると、ルートが聞いてきた。随分と人間のやり方に慣れてきたみたいね。
「音波、それも狭い波長の音波を使ったコミュニケーションは不都合も多いが、君たちはそれ以外にも自分の意思を常に外部に発信しているよ。ボディランゲージ、というのだろう? 興味深い」
私たちは、情報交換にボディランゲージは使わない、というルートに種族間でのコミュニケーション方法を聞いたら、光や電波だそうだ。クレーターの中で浴びたレーザーは、話しかけていたのか。
「異種族間コミュニケーションに関する議論を希望か?」
「いえ、違うわ。えっとね、私たちが最初に遭遇したときのこと、覚えている?」
「もちろん、記録は残っている。僅か数サイクル前のことだろう?
「そう……そうよね。うん、まず、あの時いきなり攻撃をしかけてごめんなさい」
「……サクラが謝罪する理由が不明だ」
「これでも、私は指揮官――責任者なの。すべての責任は私にあるわ」
「非効率的だが、そうした構造も理解できる。“謝罪を受け容れよう”、これでいいかな?」
「ありがとう。で、あの時の行動について理由を説明したいの」
私は、マイクさんの供述内容をかいつまんで説明した。
「理解。前提条件、客観的事実。マイク・ムラタは正しい」
「え? それってどういう……」
「モニュメントのシンボルは、私のシンボルと同一と確定。罠であったことも確定。ダリルというマイクの友人は生きてはいないだろう」
「ちょ、ちょっと、なんでそんな結論に」
「理論的帰結。明白だ」
「いやいやいや、シンボルマークが同じっていうのは、わかったわよ。でも、なんで罠だとか、マイクさんの友達が生きていないとかって結論になるのよ?!」
話が唐突過ぎる。人間でもいるのよ、結論だけ言う人。ちゃんと説明してくれないと。
「了解した。慣れないが、説明を試みよう」
□□□
落下時、そして覚醒時に行った大気中の物質構成により、ここが私が発生した世界とは異なることは明確であったが、
私がかつて存在した世界、煩雑な故、今後はヨツングラと呼称する世界は、そもそも
だが、私が存在を開始した時点で、偉大なる七系統の内、三系統はすでに失われていた。我々は、
その中で、ブレアキンは永らく指導的立場にあった。それは、君たちの王国や帝国と同様の支配構造を持った組織であった。しかし、そんな栄光の日々にも終わりは来る。配下の系統――元を正せばブレアキンから枝分かれした系統――の反逆によって、ブレアキンは支配者の地位から脱落した。それだけではなく、僅かに残った同系統の者を抹殺すべく、様々な罠が設置された。
マイク・ムラタの友人が遭遇したモニュメントも、そうした罠のひとつだ。私も罠に嵌まったことがあるから確実。運良く私は生存できたが、罠は活動を抹消するための装置であり、ましてやひ弱な肉体しか持たない炭素系生命体にとって、罠を回避し生存できる確率は、ほぼないと断言できる。
□□□
「あなたが、
「否定。どの系統であっても、世界を越えるような技術は習得していない。もし、我々がそのような技術を持っていたなら、別の世界に進出しない訳がない。合意?」
それを聞いて、少し安心した。“
一方で、マイクさんの友人、ダリルさんの安否は絶望的だ。それをマイクさんに伝えなきゃいけない。まったく、責任者って辛いことばかりだわ。
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