“剣の魔獸”対<ハーキュリーズ>
数分後。
走る指揮車の前方から、雄叫びが聞こえてきた。
「丘の向こうだ! 総員、警戒!」
田山三佐の指示が飛ぶ。街道は、丘を大きく回り込んでいて、その先がどうなっているのかわからない。車列が加速し、ようやく野営地が見えて来た。
「サーベルタイガーかっ!」
もちろん、
その
最先端技術を詰め込んだ四つの鎧は、
だが、その剣のごとき角は空を切る。狙われた隊員は、大きく後方へ――五メートル以上も後ろへジャンプしたのだ。一方、残りの隊員は、
低く唸りを上げて威嚇する
「田山三佐、お願い。“殺す事が目的じゃない”って伝えて」
「了解しました」
田山三佐が無線で指示を出すと、四人のうち一人がこちらを向いて首肯した。フルフェイスに近いヘルメットを被っているから、誰だかはわからないけれど……。
四人は、警戒しながら再び
「!」
「あっ!」
その場にいた誰もが、惨劇を想像したけれど、そうはならなかった。
まるで映画のワンシーンのようだ。それも
グワァァァォンッ!
四体の<ハーキュリーズ>は、それを好機と見て相手に突っ込んでいった。四本の剣が、
「みんな、怪我は?」
「……誰も怪我はしていません。装備に損傷もありません」
田山三佐の言葉に、私はほっと胸をなで下ろす。その間にも、田山三佐はてきぱきと野営地の周囲に結界用魔石とセンサーの配置を指示していた。
□□□
「ご苦労様でした」
特殊装備支援車両に戻って、<ハーキュリーズ>を格納した隊員にねぎらいの声を掛けた。
「いえ、訓練の成果です」
にっこり笑ったのは、日野二尉だ。彼女は、強化外骨格<ハーキュリーズ>の適性を認められ、
出発前、上岡一佐に確かめたことがある。
「私にも、わかりません。少なくとも装備庁で研究開発していたものとは、まったくの別物のようです」
「日本製じゃないとしたら……米軍かしら?」
「恐らくは。どういう経緯なのかは分かりませんが」
「何が狙いだと思います?」
「データ、でしょうね。実戦データ」
アメリカが、兵器の実験場として
「日野二尉、ぽーんって後ろに飛んだの、貴女でしょ? すごかったわ。五メートルくらい跳んだ?」
「<ハーキュリーズ>は、筋肉の力を倍増させますからね。私もあれほど跳べるとは思いませんでしたが」
「その後もすごかったわね。さっ、と避けて」
私の言葉に、日野二尉が戸惑いの表情を浮かべた。
「基本的に<ハーキュリーズ>は力を増強させはしますが、反射神経は装着者次第です。ですから、あの動きは彼の運動能力、ということになります」
「彼?」
「マイク・ムラタさんです」
あの胡散臭いおっさんが、
「<ハーキュリーズ>の訓練を始めてから三ヶ月くらいになりますが、私にはあんな動きは無理ですね」
日野二尉の運動能力の高さは、私も知っている。彼女よりもすばやい反射神経の持ち主か……。私は、頭の片隅に要注意人物として、彼の名前を書き込んだ。
□□□
その後、何度か
途中、立ち寄った村には、許可を得て(というか、ヘルスタット王から勅命を出してもらって)通信用のアンテナと簡易な発電・蓄電システムを設置していった。もちろん、蓬莱村との連絡用だ。将来的には、施設を拡充して水素ステーションを各村に設置したいと思っている。今はまだ村の人たちは必要ないかも知れないけれど、必ず必要になるはず。現時点では、それぞれの村に見返りを渡さないといけないけれど。
そして、南方への行程も終盤、明日は王国代表団と合流という時に宿泊した村で、私たちは吟遊詩人に出会った。
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