いざ、南方へ
南方へ向かう準備が整ったのは、
それも今回の南方遠征で、はっきりするかもしれない。海を見ることが出来れば、だけど。王国には湖はあるけれど、海はないのよね。海、というか水平線を観察できれば、地球と同じような球体だって実感できるかも。
帝国との会談が決まってからの間にも、蓬莱村ではさまざまな出来事があった。村の北側は川までの拡張が終わり、生け簀や水利用の試みが始まっている。防衛装備庁からの強い依頼により、船舶建造用の基地も作られ、L-CACを搭載できる小型船舶が建造されようとしている。
また、農地拡張に伴い研究者ではない、入植者の試験的な受入も始まった。開始早々、入植者同士の争いが起きたり、新種の
迫田さんは、
と、乙女のような感傷に浸っている暇もなく。私は、総勢三十名の遠征隊を率いて、南方へと出発した。そういえば、
私は、電動四輪指揮車の後部座席で、なんとなく右手の薬指を、そこにある指輪をなでた。
いかん、いかん。ネガティブなサイクルに入っているわ、私。移動中だって、やることは山ほどある。今日のうちに、やっておかなきゃいけない書類の確認もある。気合いを入れよう。
「ごめんなさい、何か飲み物ってあったかしら?」
「常温で良ければ、後ろのコンテナにミネラルウォーターがあります。暖かい珈琲なら、これをどうぞ」
「珈琲、いただくわ」
助手席の田山三佐から、大ぶりの水筒を受け取る。迷彩柄ってことは、自衛隊の備品なのかな? キャップを開けると、珈琲の良い香りが車内に広がった。
「これもどうぞ」
田山三佐が差し出した紙コップを受け取り、珈琲を注ぐ。車はゆっくりと走っているけれど、やはり揺れはあるので、慎重にコップの半分だけ注いでカップホルダーに置き、水筒は田山三佐に返した。ゆっくりと慎重にコップを傾けると、口の中に芳醇な香りと苦みが広がる。思わず小さなため息を漏らしてしまった。
ブラック珈琲のお陰でリフレッシュした私は、車窓から外の様子を眺めた。すでに、王都に向かう街道からは外れているので、見慣れない風景が続いている。
車両のうち、五台は特殊車両だ。今回、ソニック君――ハイブリッド装輪装甲車はお留守番だ。
突然、車内にザッというノイズが走り、無線機のスピーカーから声が聞こえてきた。
『カササギよりアホウドリ――カササギは樹の枝にとまった。指示を待つ。送れ』
カササギ、つまり先行している偵察隊からの連絡だ。
「アホウドリよりカササギ――周囲を警戒しつつ待機」
『了解。終わる』
「ねぇ、田山三佐。暗号使う意味ないんじゃない?」
今のところ、
「訓練も兼ねているんですよ、
当初は緊迫した状況もあったけれど、基本的に
まぁ、
□□□
その日の野営地まで、あと数キロになった頃、指揮車の無線がまた音を立てた。
『カササギよりアホウドリ!
「こちらアホウドリ! 討伐を許可する。直ちに脅威を排除せよ。送れ」
「カササギ了解、終わる」
助手席の田山三佐がこちらを振り返って話し出した。
「野営予定地に
「もちろんです。然るべく処置を」
「わかりました。おい、飛ばせ」
後半は、運転をしていた自衛隊員に向かって発した言葉だ。田山三佐は、続けて無線で指示を出し始めた。遠征隊のうち、指揮車と特殊装備支援車など四台が飛び出して、野営地へと急行した。
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