カイン王子の不安
翌朝、といっても10時過ぎから、ヘルスタット王ご一行は、4グループに分かれて蓬莱村の見学をすることになった。電動カートで、というアイディアもあったが、結局
見学ツアーには、私も参加することになった。本来であれば、私は昨夜の内に送った王からの依頼内容について、
「サクラ、サクラ、あれはなんだ!」
カイン王子が指さす先には、私たちにとっては何の変哲もない――でも
「トラクターという機械ですよ、王子。ああやって土を掘り返しているのです」
「そうか……ニヴァナには、魔法がないんだったな……」
そう、この
「魔法が使えない代わりに、あぁした機械が発展したんですよ」
私は、乗っている馬をカイン王子の馬に寄せて解説した。
「それはわかってる。そうではなく……なぁ、僕がニヴァナへ行ったら、能なしになっちゃうんだろうか?」
“能なし”、つまり
「大丈夫ですよ、
「……違うよ。魔法が使えないという状況が、想像できないんだ。それに、帰ってきた時に魔法が使えなかったらと思うと……」
王子の不安もわかる。反乱を起こしたアズリン師は、命は助かったけれど魔法は失った。あの時は、命を助けるべきだと思っていたけれど、違っていたのかも知れないと振り返ることもある。正解なんて、ないのよね。日本の官僚に過ぎない私に、この世界を変える力なんてないもの。
でも、王子の不安を少し解消する情報を、私はもっている。
「先日、ダニエール・ジョイラント師が
「ほんとにっ!」
「えぇ、
あちらの世界では魔法が使えない、とダニーさんも私たちも思い込んでいたが、ある出来事があってダニーさんが思わず詠唱したら魔法が使えたのだと言う。確かに数年前は、魔法は使えなかった。もし使えていたら、あの悲劇はもっと大きなものになっていたかも知れない。
ダニーさんの話を聞いて、ヴァレリーズさんは「ニヴァナでも
「そうか……なら、少し安心だな」
カイン王子が思っているほど、魔法を
「王子。王子は魔法を使わなくても、
「そうだな……サクラの言う通りだな……」
こういう様子を見ると、年相応の子供だな、と思う。それに話し方も、以前のような“世間知らずな横暴王子”という仮面を脱ぎ捨てたからだろうか、すごく素直な感じになっている。
「安心してください。王子が
「うん。助かる」
実際、日本政府も言わば国賓を迎えることになるわけで、それなりの準備をしていると聞いている。ありがたいことに『阿佐見の独断専行、許すまじ』という声はないようだ。政府も国民も肯定的に受け止めてくれている。逆に、日本の学生をこちらに留学させる、という話も出ているらしい。カイン王子の留学が上手く行けば、日本と王国の交流ももっと活発になるかもしれない。
□□□
とりあえず、少し気になるので賢王アレグラスと賢者について、マルナス伯爵夫人に資料を送ってもらおう。とはいえ、王国にはあまり歴史的資料って、残ってないみたいなのよねぇ。記録としては残っているはずなんだけど、どこかに隠されているのかも。
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