Ⅴ 発電列車
私はトンネルの中にいた。
トンネルはレンガ造りの、アーチ状の屋根をしていて、ぼんやりと明るかった。トンネルの中央には線路があり、右側には一メートルほどの高さの安全地帯があった。
一人の男が一緒だった。その男のことは知らなかったが、親近感があった。
どこに向かっているのか、私達はトンネルの中を歩いていた。
トンネルはゆるやかなカーブを描いていた。それに合わせて、私達は段々と歩く方向を変えていった。
やがて背後から、列車がやって来た。
奇妙な形の列車だった。車両の数は三両。四角く角張っていながら、列車後方の頭に、丸い突起物が突き出ていた。コンデンサーのようにも見える。その突起物はいやに綺麗な銀色だった。
私達二人は安全地帯に登り、列車に進路を譲った。すると列車は私達の前で減速した。乗れということらしい。しかし、その列車に窓はあったが扉は無かった。私達は仕方なく、その列車の天井に登った。
私達が乗ると、列車はまた加速し始めた。
列車は、ゆるやなかカーブを曲がりながら、トンネルの中を走っていく。どうやらこのトンネルに出口は無いらしい。私はこのカーブがずっと続いていることに気付いたのだった。
私は風を受けながら、銀色の突起物に近付いて行った。
――これは何だろうか。
私は男に尋ねた。
――磁石だ。この施設は発電施設だよ。
ああ成程と私は思った。つまりこの列車は磁石を積んで走ることによって円状の磁界を作り、円の中央にあると思しき電線中に電流を発生させているのだろう。私が窓から列車の中を覗くと、大きなエンジンが積まれていた。V型12気筒エンジンだ。ピストンがヘッドにぶつかる音が、断続的に鳴り響いている。石油燃料を電力に変換するシステムがここにはあった。
一周、二週と電車が円を成す中、私は施設の出口を探した。しかし、このトンネルの中に出口は無かった。どこの壁にもレンガがつまっており、変わらぬ景色が続いているだけである。
そうして私達二人は列車に乗ったまま、円を描き続けたのだった。
夢の記録 ナナシイ @nanashii
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。夢の記録の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます