Ⅳ 地の下
私は地の下にいた。私は地の下に横たわっていた。
身動きができない。目線すら動かせない。コンクリートで固められているのか、そんな気分である。
しかし、私は地の下にいながら地上を見ることができた。地面が透けているようであった。
地上では何人もの人間が、足早に歩いていた。サラリーマン、主婦、工夫、幾種類もの人間が歩いている。彼らには顔が無かった。彼らはしかし、何処に行くでもなく、私の真上を同心円状に歩き続けていた。ぐるぐる、ぐるぐると、彼らは私を踏みつけにしながら、回転し続けている。
私は不安を覚え、声を出し、そして助けを求めようとしたが、しかし、声は出せなかった。彼らは私に気付かない。決して、気付かなかったのだ。
無限に思える程の時が流れていったが、しかし、実際には一時間も経っていないだろう。
そして彼女が来た。
彼女は何処からともなく現れ、そうして、私の真上で跪き、私に向かって言ったのだ。
――大丈夫よ
差し出された彼女の手は地面という境界を通り抜け、私の間近に迫って来た。
しかし私はその言葉と手と、彼女の存在に無限の恐怖を覚えたのだった……。
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