第50話 笑顔の帰還


「避けられた……!」

「「いいや、大丈夫。」」


シリウスの驚く声に、レグルスと俺がおちついた声で応える。

レグルスを介して魔法を放っているので、レグルスにもこの弾丸の秘密が分かったようだ。

ドラゴンを通りすぎた弾丸は、空中で宙返りして軌道を変え、再びドラゴンへと向かっていった。


そう、この弾丸には追尾機能がそなわっているのだ……なんてのは、ウソ!

……追尾機能の理論がわからないしね。

なのでドラゴンへ向かって俺が引力がを働かせ、磁石のようにドラゴンへと攻撃が向かうようにしている。


ギュィィイイイイイ……シュピーーーーィィィ!

「ガァァアアア!?」


弧を描いてまた飛んでくる弾丸に、ドラゴンは驚き、振り向く。

背後から迫る弾丸を、今度はブレス攻撃で迎え撃とうとしているようだ、しかし……


ジャラララララララ、ガキンッ!!

「ガァァッ!!!」


突如ドラゴンは濃青(のうこん)の鎖(くさり)に縛られ、動きを封じられてしまう。

俺は驚き1歩前に踏み出し、鎖と水の拘束に暴れるドラゴンを一心不乱に見つめながら……暗闇で見た、あの青い瞳を思い出していた。


空中に磔(はりつけ)られたドラゴンは、避ける事も、攻撃を放つことも出来ず、その背中に弾丸をメリ込ませた。


「……あっ。」

ドスッ……ドォォオオオン!!

「グガァァァアアアアア!!!」


限界までエネルギーを凝縮した弾丸は、着弾と同時にエネルギー爆発によるすさまじい爆音と、目が眩むほどの光を放ち、俺たちの視界を真っ白に染めた。

そして、この爆発は中心に小さなブラックホールを形成し、爆風ごと全てを収束させエネルギーへと変換したのである。

魔法で再現した、小さな『超新星爆発』だ。

跡にはそこだけぽっかりと雲の無い晴れた空が広がっていた。

誰もが空を見上げ、驚異が去ったのかと息を飲んで見つめている。


(あの、青い鎖は……。)

「「「「う、ぅおおおおおおおおお!!!!!」」」」


ワッと野太い歓声が沸き、騎士たちが自分たちの無事に……ラーヴァの無事に、喜びの雄叫びを上げた。

泣き出し、抱き合う者までいる。

ラーヴァは救われたのだ、新たに誕生した救世主によって。

こうして街の住民たちが知らぬ間に、ラーヴァは危機に陥り、そして救われていた。


喜びあう騎士たちの傍らで、皇都騎士団のシャウラは、力なく座り込んだまま……瞬きを忘れたようにレグルスを見つめている。

その視線に気づいたレグルスがシャウラへと歩み寄る。


「立てるか?」

「…………ひゃいっ!」


レグルスが手をかそうと差し出した右手に、シャウラはひっくり返った声と真っ赤な顔で左手を重ねた。

レグルスは、まるで犬が『お手』と言われた時のように、反射的に出たシャウラの手を強く握り、ひっぱり上げる。

戦闘中とは全く態度の違うシャウラに、レグルスは首をかしげながらもに穏やかに問いかけた。


「戦闘後の処理がありますので私は残りますが、貴方と皇都騎士団の皆様へお礼がしたい。ぜひ……皆が守ったラーヴァの街へお越しください。」

コクコクコクコク!!!


シャウラはレグルスの言葉に激しく頭を上下に振ることで答えた。

レグルスはその答えに微笑を浮かべると、さっさと騎士団の元へ戻っていく。

シャウラは、レグルスが去った後かなりの間放心していたが、しばらくして石像のような固まったシャウラをアダラがお姫様だっこして運んでいる所を、ルナーが目撃したそうだ。


シャウラが居なくなり、姿を消す必要の無くなった俺たちは、能力を解いていた。

しかし俺は、まだドラゴンが消えた空から目が離せない。

結局俺は、ドラゴンを殺してしまった。

それがドラゴンの望みだったとしても、ラーヴァを守る為に必要な事だとしても。

そんな事を言えば、ドラゴン以外の魔物はどうなんだ?皇都騎士団の人たちは?って言われるかもしれない。

そうだ、これは俺のただの我が儘だ。

異世界に来て思い上がってた俺を、ぶん殴るように悔しさが押し寄せる。

一心に空を見る俺の頬を、光るものがつたった。


「零史……ドラゴンは……。」

「うん、ルナ……分かってる……分かってるんだ。」


どうしようも無かった。

狂暴化は治せなかったし、ラーヴァを襲われる訳にもいかない。

俺の気持ちは、飛行機を降りるまでに折り合いをつけておくべきだったって分かっている。


「分かりたくなくても分かってるよ。」


ほら、RENSAのみんなも、騎士団のみんなもドラゴンの死を喜んでる。

早くあそこに交ざらなきゃいけない。

嫌だ、俺はまだ悲しんでいたい、悼んでいたい。

でも、このまま……この気持ちのままで居たら、俺は勝利を喜んでいる皆の事を嫌いになってしまいそうで、イヤだ。


「ルナ……苦しい。」

「分かりました『苦しみ』は私と半分こしましょう。」


ルナがそのふわふわの体で俺に頬擦りする。

フッと一瞬、まるで逆さの雨が降るように、足元から光が溢れ。

俺は、体が軽くなったような心地になった。

光が落ち着き、ゆっくりと呼吸をした俺は頬が濡れている感触に驚いた。


「あれ?俺……なんで泣いてんだろ、恥ずかし~!」

「零史、皆のところへ行きましょう。」


隣を見ると、少年姿のルナが笑顔で俺の手を引いていた。

ルナが示した方を向くと、スピカやシリウスたちRENSAメンバーが俺を待っていた。


「零史お兄ちゃん!ラーヴァに帰ろう!」

「零史……オレのブレスレット……。」

「新しいの作ってもらったぁら~?」

「この歳で徹夜はしんどいのぉ。零史、早くラーヴァへ戻らんか?」


みんな、さっきまであれほどの戦闘をしていたとは思えない、何とも気の抜ける笑顔だった。

レグルスたち騎士団も帰還準備をしているようだ。

俺たちも一緒に帰ろう。

家に残してきたルディとツィーも気になる。


「よっし!みんな、帰ろーーーう!

えいえい……?」

「「「「「おーーーー!!」」」」」


やっぱりちょっと使い方違う気がするけど、まぁいっか。

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異世界だけど宇宙飛行士になりたい!~科学が異端なので命狙われてます~ 第1章 まことまと @makotomato

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