第49話 その瞳の奥に
零史たちはラーヴァ近くの川に飛行機を着水させ、RENSAメンバーと合流した。
一行は事前に連絡していた通りに計画を遂行するため、急ぎ国境へ来たのである。
ラーヴァに撤退しようとしたルナーは、地平線に見えた零史たちを見つけ、助けが来たことを悟ったのだ。
零史たちは駆け付けた勢いのまま、騎士団の背後から合流。
アルタイルとスピカは空から舞い降りたのである。
丁度レグルスたち騎士団が雄叫びをあげた所でようやく零史はレグルスの隣へと辿り着いた。
しかし、肩にウサギ姿のルナを乗せて私服で走ってくる青年を誰も気に止めた様子はない。
零史は光すら捕らえるほどの能力(ブラックホール)を使い、姿を消しているのだ。
人間が眼で見えているものは、物体に反射した光の色、その光をその物体の色として認識している。
なので、光を曲げる事により見えなくする事ができたのである。
闇の聖霊である零史にしか使えない、それはそれは凄い能力なのだが、零史は……(ハリウッド映画みたい!)と、ミーハーな興奮をしている小市民だった。
零史はたどり着くと同時に、アルタイルとスピカの姿にもステルス魔法をかける。
アルタイルとスピカは透明になり地面へ降りると、素早くその目立つ白いローブを脱ぎ零史の後ろ他のRENSAメンバーと合流した。
アルタイルは疲労を濃く顔にじませているように感じ、頑張れと回復させておく。
防御魔法で魔力も消費しているだろう。
それにアルタイルは徹夜で飛行機を操縦し、戦場に立っているのだ……休ませてあげたいが、状況が許さない。
零史は小声でアルタイルに心配の声をかけた。
「(大丈夫?アルタイル……。)」
「(すまん零史、そろそろバリアが破られそうじゃ!)」
ピキッ……ギッ、ガシャァアーーーン!!!
「グガァァァアアアアア!!
グガァァァアアアアアアアアア!!!」
皆が見上げる先でドラゴンを閉じ込めていた防御魔法(バリア)が粉々に砕けて日の光を反射しながらキラキラと落ちて消えていった。
美しい光景とは対象的にドラゴンの咆哮は憤怒に染まっている。
ルナが零史の肩で毛を逆立ててドラゴンを威嚇していた。
「(零史、ドラゴンを……!)」
「(……分かってる。レグルス、右腕を前に!)」
「零史ッ!?……本当にそこに居るのか。ありがとな、来てくれて。」
突然隣から聞こえた零史の声にレグルスが驚きながらほっとするという、器用な顔をしている。
零史はその声に答えるように、肩をコツンとレグルスにぶつけた。
そして二人は鏡写しのように、ドラゴンへ向かって手を伸ばす。
「(行くよ、救世主様!)」
「(はいよ、聖霊様!)」
「「救世主上等(シュトット・グラスノーレ)!!」」
キュゥゥゥウウウウウッ……シュピィィイイイイイイーーーーーン!!
ブレスレットから溢れ出る零史のエネルギーが、レグルスを通して具現化されていく。
その力は荒々しく、まるで暴れ馬のように凄まじく回転しているのを見て、レグルスは歯を食い縛りながらニッと笑った。
「グガァァァアアアアア!!!」
バシュゥウウウ!バシュゥウ!バシュゥウウウ!!
ドラゴンはレグルスの放とうとしている魔法を警戒し、次々に攻撃を放ってくる。
闇雲に放たれるブレス攻撃を、騎士団服を着たシリウスとベラが撃ち落とす。
「きゃあ♡ドラゴンだぁわ!んふふふふふふ……美味しそう。偽之法則(マグニートチェムノター)!」
「遅くなってすまん……今助けるぞ。零史がな!紅蓮刻(コンクラースリィ)!」
ベラは以前に見たあのなんちゃって磁力の魅了で、ブレス攻撃を操りドラゴンに返していた。
レグルスは、ドラゴンの攻撃を炎の渦で巻き取り、軌道をずらして何もない砂漠に落としていた。
二人とも、聖騎士と調査官として豊富な経験を生かした戦い様は、なかなかのテクニシャンである。
アルタイルも回復したようで、小さな防御魔法を張って、器用にブレス攻撃を弾いていた。
「(零史お兄ちゃん!今よ!!水冠(レドクルーク)・2(ドゥバ)!)」
スピカが水の刃を5つ飛ばし、ドラゴンの四肢と首を拘束する。
ドラゴンに水の刃が絡み付くと、まるで重石をつけたように動きが鈍くなり、降り注ぐブレス攻撃の勢いが弱まった。
レグルスが(俺が)魔力を凝縮させて作り出していた魔力球(暴れ馬)は、凝縮に凝縮され、いまは弾丸ほどの大きさになっていた。
レグルスは火花が散るほどの魔力のこもったその弾丸で、ドラゴンに狙いを定めている。
舞台は整った、いま……ドラゴンにとどめを刺す時だ。
「(ごめんな、お前を救いたかった……。)」
俺は、ドラゴンを見つめて小さく謝罪の言葉を吐いた。
俺はドラゴンと目があったような……ドラゴンが、見えないはずの俺を見た気がした。
まるでスローモーションのように弾丸が放たれるのが見えた。
いや、放ったのは自分なのだが、何故か頭と体が別々になってしまったような、夢の中のような気持ちだ。
「仇は取ってやる。」
レグルスの言葉が、やけに頭に響いた。
ドラゴンは己に向かってくる弾丸を避けようと体を捻っている。
鈍くしか動けない体に呻きながらジタバタともがく。
「グガァァァッ!ガァァアアア!!」
「うっ!ぅぐうう……なんて力!」
ドラゴンを抑えているスピカからも唸り声が聞こえる。
ドラゴンと悪魔の子の戦い、押し勝ったのはドラゴンだった。
真っ直ぐドラゴンへ向かった弾丸の軌道から、その巨体をそらし避ける。
しかも避けながら、こちらへブレス攻撃を放ってきた。
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