遭遇

時は大体朝のホームルームが終わった頃だろうか?俺は鳴り響く腹を抑えながら廊下を歩いていた。


(腹減った…)


校門を潜り抜ける頃には俺の腹は再び空腹の叫びをあげていた。やっぱ水じゃダメか…。


俺は這々の体で教室の扉を開け中に入る。

先程までがやがやしていた教室内がしん、と静まり返り教室内の生徒全員がこちらに注目。


しかしそれも一瞬の事で皆すぐに興味をなくし、お喋りを再開した。その中をとぼとぼと自分の席まで歩き着席。間髪入れずに机に突っ伏した。


(昼まで寝て空腹を誤魔化すか…)


一瞬、誰かの視線を感じたが気にしない。

意識がゆっくり落ちていく。





しばらくして、俺は目を覚ました。周りの生徒を見回し時計を確認すると12時を過ぎていた。


昼休みも後半というところか皆、昼食を食べ終え各々の談笑に講じている。


(誰も起こしてくれなかった…)

己の人望のなさに悲しくなるが毎日遅刻してくる様な奴とはそりゃお近づきになりたくないよなぁと同時に納得し、鞄から今日のランチである卓上塩(泣きそう)を取り出す。


その時だ。


(ん?なんだ?)


俺は教室内に漂う妙な気配を感じ取った。

霊に近いか…?それにしても


(なんて嫌な気配だよ…!)


霊能力が低い自分でも気がつくレベルの気配と悪意を感じる。


(何処からだ?)

ここまでの気配だと何かしらの霊障が起きてもおかしくない。俺は辺りを見回して気配の元を探る。すると


(見つけた)


自分の席から斜め前の机に女子生徒が先程までの俺と同じ様に机に突っ伏している。どうやら寝ている様だが…


近づいて様子を確認してみる。大分うなされてるみたいだ、が…っ!


(あ、ちょっとまずいわこれ…)


近くで見てみるとその気配の異質差がよりよく分かった。昼間の上にこれほどの人が集まっている教室だ。人は基本は陽の気を持つ。故に人の多い所には陽の気が充満しているのだ。

陽の気は霊障を弱らせ、遠ざける。

にも関わらずのこの強烈な気配は異常過ぎだ!

ここまでのものだと下手をすると現実にも影響を及ぼしかねない。


(しゃーない、やるか…)


俺は彼女の後ろに立ち、持っていた卓上塩手のひらに出して握り込み。そして心中で


(高天原に 神留ります 神魯岐 神魯美の命以ちて)


身禊大祓(みそぎのおおはらい)の祝詞を読み上げ始める。

普通なら己の霊力を込めて清めの塩をふりかけるのだが俺は霊力が低いので十分な効果は見込めないだろう。


(皇御祖神 伊邪那伎大神

筑紫の 日向の 橘の 小戸の 阿波岐原に)


そこでこの身禊大祓の祝詞である。


(禊祓え給しい時に 生れませる 祓戸の大神達

諸々の禍事 罪穢を)


祝詞は遥か昔に神様が造ったものとされており歴史がある。その歴史が力となり祝詞そのものに力を宿す。

唱えるだけでもある程度の効果が見込めるのだ。


(祓い給え 清め給えと 申す事の由を)


俺は握り込んだ塩にその祝詞の力を染み込ませていく。


(天津神・国津神・八百万の神等共に 聞こし食せと)


そして徐々に塩を握り込んだ手を上に掲げていき


(恐み恐み申す)


祝詞を読み終わると同時に、肉に塩をかける外国人宜しく彼女の頭に塩をふりかけた。


(どうだ…?)


これでダメなら今の自分では対処できない。

恐る恐る様子を見る。するとと先程まであれほどうなされていた顔が安らかになっていた。



彼女にまとわりついていた嫌な気配も綺麗さっぱりに消えている。


(よかった、なんとか祓えたか…)


俺は漸く緊張を解いた。残心で掲げ続けていた手を降ろそうとしたその時


「ん…?」


彼女がうっすらと目を開けた。

俺は思わず手を下げるのを中止し、掲げたまま彼女の様子を見守った。

どうやら目覚めたみたいだな。


突っ伏していた机から状態を起こし、辺りを寝ぼけ眼で見回し、首元に手を当てる。

気持ち悪かったのだろう、俺が先程掛けた塩を取り除く。そして


くるりとこちらに振り向き


彼女に塩をふりかけた状態の手を掲げている俺に



「何これ?」


と尋ねて来た。

俺は正直に答えた。


「塩」


次の瞬間、彼女の硬い拳が俺の左頬に突き刺ささった。

見事なコークスクリューブローだった。

おれは勢いのまま吹き飛びここ最近の食生活もあってか直ぐに意識を手放した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

境界の守り人 木ノ下サリィ @0176sama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ