第7話

 ある建築業者のオフィス。砂利を敷き詰めた地に建つ平屋の建物は、経理や過去に受けた仕事の依頼などが管理される棚、今時珍しいファックスやデスクが並んでいたりと、移動するのにも気を使うほど狭い。


「林田!」


 鼻の下に髭を蓄えたふくよかな男性は、こじんまりしたオフィスを出ようとするとび服を着た男性を呼び止める。


「はい」


 林田はデスクにつく男性の下へ近づく。


「お前、新田見なかったか?」


 林田は戸惑った様子で渋る口を絞り出す。


「いえ、見てないですけど……新田がどうかしたんですか?」


 ふくよかな男性はすぐれない表情になって零す。


「無断欠勤だよ。今までこんなことなかったんだけどなぁ」


「大丈夫ですかね?」


「何か事件に巻き込まれてなきゃいいけど……」


「そうですね」


 2人は深刻な表情になり、無言の間が空く。


「うん、引き留めて悪かったな」


「はい、失礼します」


 林田は軽く頭を下げてオフィスを出る。



 その頃、新田の部屋では電気やテレビがつけっぱなしになっており、食べかけの牛丼がテーブルに置かれていた。駐車場にはシルバーの車が静かに主人を待っている。

 だが、主人は来ることはない。二度と……。


 十数時間がたち、新田の住宅周辺ではいつもの夜が訪れた。午後10時を過ぎた辺りから、街灯を見上げる人々が現れる。街灯1つのそばで1人の人が立ち、仰ぐ。夜に映える光は質素でありながら輝き続けている。街灯が消えない限り、彼らは街灯を見上げている。


 どんな人であれ、人は光を求める。それは白さ際立つ肌をした若き青年も例外ではない。長い黒髪にウェーブがかかった男は、無表情のまま街灯を見上げた。彼らはこれからもこの街に現れる。自分達に気づく人々を待ちわびながら……。



 了

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街灯を仰ぐ街 國灯闇一 @w8quintedseven

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