『正しい魔眼の使い方』
一花カナウ・ただふみ
第1話 拾い物はすぐに交番に届けましょう。
高校一年の夏休みが終わって、しばらくたった頃。
ヒグラシの声がけたたましく響く中、俺は汗をかきながら滑り止めで入学した学校から家に向かって歩いていた。
部活は任意で入部という、私立高校にしては珍しくも有難い制度のおかげで帰宅部なのだが、今日みたいに日差しが強い中の下校となると、涼しい校舎の中で過ごせる文化部に所属していてもよかったかもしれない、などと思う。部活に入るのを強制しない代わりに、部活のない生徒は速やかに下校せねばならないのである。
寄り道できるくらいのお金があったら、話は別だっただろうけどな……
バイトは禁止されているので、親からもらう小遣いでやりくりしなくてはならない。スマホ代は基本料金を超えた分だけ払うシステムを採用しているおかげでいくらか自由にお金を使えるけれど、だからといって毎日ファストフード店に寄れるような金額じゃないし、スマホゲーに課金することを思うと積み立てておく必要がある。ムダ遣いはできない。
しっかし、暑いな……
住宅街の車がかろうじてすれ違えるような道を日陰のなさにうんざりしながら歩いていると、アスファルトの上に四角いものが落ちていた。
「なんだ?」
じいちゃんの家に置いてあった六法全書みたいな感じのものが、道路にドンと存在している。
え、いや、仮に六法全書だったとして、こんなところに落とすか? 持ち歩くものじゃないよな、あれ……
妖しいと感じながらも、帰路の途中にあるので近づくしかない。回避するにも家まで遠回りになることを思うと、炎天下の道をわざわざ長く歩こうなどとは思わない。
まあ、表紙だけチラッと見ることにして、そのままにしておこう。
俺は必要以上に興味を持つまいと強い意志を持って歩く。真昼の暑い時間帯だからか、周囲に人はいない。
真横を通ったとき、俺は表紙――あるいは裏表紙かもしれない――に視線を向けた。
『魔眼の正しい使い方』
表紙に書かれた文字を読み取って、俺は思い出す。
魔眼?
その単語を最後に音声で聞いたのは、案外と今朝のことだった。
『正しい魔眼の使い方』 一花カナウ・ただふみ @tadafumi
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