彼女とBAR16p
「えっ? 何ですって?」
卓のつぶやきに江子の眉が吊り上がる。
「何でもないよ……姉貴の鈍感さは置いておいて、それより生霊だよ。ええっと、確認すするけど姉貴は今、本当に何も見えてないんだよね?」
「何も見えないわよ。あんたの私をバカにしたような顔ならよく見えているけどね。あんたには今何か見えているってわけなの?」
江子の台詞に卓は困った顔をした。
卓には確かに今、ある物が見えていた。
それについて、ただ言うだけならば簡単だ。
しかし今は何も見えていないと言う江子が江子自身に起きている、この事態を分からない様に、卓にもこの件について理由が分からずに不可解に思う事があった。
それを分からずに江子に自分が見たままの事を話しては、ただ江子を怖がらせるだけになってしまう可能性がある、だから慎重になる必要がある、と、そう卓は考えた。
「ううーん、どうしようかな……どうしたらいいかな……ええっと、そうだ! 姉貴、ちょっと質問させてもらいたいんだけど」
江子は訝し気な顔をしてから、しかたないわね、と了承した。
「そのナンパ男の背後に立っていたソイツの生霊……いや、影が薄い男は、姉貴がナンパ男と接触した時に初めからいた訳だよね?」
「影が薄い男の事はもう生霊で良いわよ。ええ、そうよ、初めからいたわよ。初めからナンパ男の後ろについていたわよ。双子みたいにそっくりだから、一瞬目の錯覚かと思ったくらいよ。私、泣いていたから、ナンパ男が涙でぶれて見えているのかとも思ったわ」
「うーん、なるほど。えーっと、姉貴、その男とは面識はなかったんだよね?」
「面識? ないわよ。……ないと思うわよ。全く記憶にないわ」
「本当に?」
「本当よ。もしどこかですれ違うくらいの事があったとしても、なかなか顔はイイ感じだったから、すれ違っていたら私の記憶に残りそうなもんよ」
「何だよ、それ、信用出来ないな。本当に面識ないんだな」
「はぁ? 何よその言い方。無いわよ。私が無いって言ったら無いわよ!」
むきになって江子は声を荒げた。
それをなだめる様に卓は静かに落ち着いて言う。
「よく分かったよ。うん、姉貴とは面識がないんだね。うーん、姉貴、じゃあそのナンパ男の特徴とか改めて詳しく話してくれないかな。姉貴がソイツに対して感じた事とかでも構わないからさ。ソイツがどういう男なのか詳しく知りたいんだ」
「まだ聞きたい事があるわけ? ええと、そうね、あの男の特徴は……」
初めて会った男がどういう男なのか、だなんて分かるはずは無い、とウンザリしながらも江子は卓の質問に答えた。
ミエカノ 円間 @tomoko4649
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