彼女とBAR15p

 そんな卓の様子を見て、江子は、ふぅっ、と憂鬱をため息で吐き出し、腕を組んだ。

「あの男……あの、ナンパ男の後ろにいた男は、アイツは、本当に生きている人間じゃないのね?」

「ああ、確かだよ」

 卓は頷く。

「でも、根拠は何なの? あんたは直接あの人達を見たわけじゃ無いじゃない。あんたはその場には居なかった。全く知らない人間の事を、どうしたら生き霊だなんて断定できるのよ?」

「根拠? それなら今、俺の目の前にあるんだけど。俺の話しが分からないって事はやっぱり姉貴には今は見えてないんだよな?」

「ちょっと、ちょっと! その気になる言い方は何なのよ! どういう事なのよ! えっ? あんた今何かしら見えているわけ? 怖い、怖い、怖いんですけど!」

 江子は顔を強張らせて素早く自分の周りを見回した。

 江子の目には特別不審なモノは映らなかった。

「姉貴はスイッチが入ってる時しか見えないもんなぁ。霊感なんて、大体がそんな物かも知れないけどさ。さて、今見えていない姉貴にどうやって根拠を説明しようかな」

 卓は霊感があるくせに鈍感な姉に一体何から話せばいいのやらと肩を落とした。




 江子と卓は見える者だ。

 見える者とはつまり、不通にしていたら気にならないモノがよく見えてしまう者だ。

 不通にしていたら気にならないモノ。それらは霊などと言われているモノである。

 江子も卓も、特別そういったモノを見やすい性質なのだ。

 小さな子供の頃から二人は見えていた。

 見える事が日常である二人であったが、江子はその時の気分によって見えない事があった。

 それを、卓は江子が鈍感だからだと言っていた。

「姉貴は鈍感だから……」そう卓から言われる度に江子は、ほっぺたを膨らませて、見える事に鈍感さとかが関係あるのかよと腹立たしい気持ちになっていた。




「姉貴は鈍感だから……」

「ちょっと! いつもながら姉に向かって鈍感とかって何なのよ。そもそも私って別に鈍感じゃないし!」

 今回も、餌を頬袋に詰め込んだリスのごとく、ほっぺたを膨らませている江子に対して卓は、本当に鈍感な奴ほど自分の鈍感さに気が付かないものなんだよと小声で漏らした。

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