彼女とBAR14p
「そんなことはあるんだよ、姉貴。良いかい? 姉貴、その背後に立っていた男と姉貴は、一度も会話をしていないんだよね?」
「そっ……そうよ。でも、バーにはマスターもいたし」
「そのマスターの様子はどうだった? その、立ちっぱなしでいる男の事をマスターは気にしていたかい?」
「そんな……マスターのことなんて分からないわよ」
江子の視線が宙をさまよう。
(何なのよ? 何なの?)
このまま卓の話を聞いていたら、素敵なプレゼントを貰って、せっかく良い気持ちになったのが台無しになってしまうと、そう江子は思った。
「きょ、今日は私の誕生日よ! 生き霊なんかに関わっていられないわよ! 良い加減に、そのくだらない話を……」
江子は怒鳴ったが、卓が江子の話を素早く遮る。
「マスターには、ナンパ男の背後に立つ男の客なんて見えてなかったんだよ。姉貴だけが、ソレに気付いていたのさ!」
「でもっ……」
江子は言い返そうとする。
しかし、それも卓に直ぐに封じられる。
「でもじゃ無い! 姉貴、いいかい? 現実を受け入れろよ! 姉貴は、また見えていたんだよ!」
卓の顔はとても真面目だった。
冗談を言ったり、からかったりしている顔では無かった。
卓は少しもふざけていない。
卓はこういう話をふざけてしたりはしない。
卓は心底、真面目に話をしている。
これは、真面目な話なのだ。
そうだと分かっていても、しかし、江子はそれを認めたく無かった。
認めてしまえば、自分がまた、アレに関わってしまったという話になる。
江子は俯いた。
江子は卓の顔を、とても見てはいられなかった。
誕生日に彼氏にデートをすっぽかされ、雨に濡れてずぶ濡れになって、バーで一人で飲んで、ナンパ男に絡まれて、挙句、アレに関わってしまったとなったら今日という日が江子にとって本当に最悪の一日になってしまう。
(そんなはずは無い。今回に限ってそんなはずは無い。生き霊なんて知るものか!)
まだ反論出来る、そう思って、俯いた顔を上げた江子だったが、顔を上げた瞬間、自分を見つめる卓と目が合って、ウッと声を上げた。
江子を見つめる卓の目は鋭かった。
鋭くて、とても澄んでいる。
江子を見つめているのだが、遠くを見ている様な目。
その目はまるで、江子を通して江子以外の何かを見ている様だった。
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