彼女とBAR13p
「何て言うか……生きている人間の感情って言うか、思念……霊魂……魂って言った方が良いのかなぁ……うん! 生きている人間の魂がその人間の体の外に出たものが生き霊だよ姉貴。いや、でも、出たって言うか、出したって言うか……ええっと、生き霊は源氏物語にも出てきたじゃん! 六条御息所が強すぎる嫉妬心から生き霊になって恋敵を殺めるアレだよ」
「へぇ……源氏物語」
源氏物語。確かに源氏物語に生き霊の話があった気がする。でも、だから、なんだよと江子は思った。
生き霊の話なんて少しも興味が持てない。
卓が急にそんな話を始めた意味が分からない。
素敵なプレゼントをもらって良い気分の時に、生き霊の話を聴かされる意味が分からない。
生き霊話しに乗り気じゃない江子とは対照的に卓は熱心に語る。
「簡単に言うと、うーん、そうだな。とりあえず、霊っていうのが亡くなった人の事を言うんだとするだろ? それに対して生き霊は生きている人間の体から外に出た霊体なんだよ。生きていながら、その霊魂を飛ばしている状態のモノがおそらく生き霊なんだよ」
そんな話は全くどうでも良かった江子は、お茶をすすりながら「ふぅん、そうなんだ?」と、気だるそうに言った。
そんな江子に卓は、真面目に聴けよ、と鋭い眼差しを向ける。
(いったい、生き霊がなんだって言うのよ。生き霊だなんて真面目に聴く話じゃないでしょう?)
江子はそう思いつつも、卓がこうやって江子に無理矢理にでも話を聴かせようとしている時は卓が江子にとって大事な事を伝えようとしている時だという事が分かっていたので、卓の話をとりあえずはこのまま聴いてみる事にした。
江子が姿勢を正し、話を聴く気があることを卓に態度で示すと、卓は満足気に、うんと頷いた。
「もうズバリ言うけど、そのナンパな方の男の背後に、ずっと立ちっぱなしでツイテいた影が薄い方の男は、生き霊に違えないよ」
「え、ちょっと待って、何ですって?」
江子は卓の言葉が理解できずに顔をしかめる。
卓は構わず話し続ける。
「そのナンパな男の生き霊さ! 姉貴、双子の男達なんて実際には、いやしなかったんだよ。バーには、姉貴以外には客はナンパな男が一人いただけさ」
卓は自身が掛けている黒縁眼鏡を利き手の左手の中指でクィッと押し上げて真顔で言った。
「はぁぁっ? あんた、さっきから、何を馬鹿な事を言ってんのよ! そんな話を信じろっていうの? だって、私には、アイツがハッキリと見えていたし、生き霊だなんて、そんなことは……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます