第1話 再チャレンジ

先生が眠りに落ちるのを見計らうと、昨日と同じように先生にもたれかかる。周囲が光ると昨日と同じ光景が眼前に広がっていた。


「よし!もう一度この世界に来られた!」


私が喜びを噛み締めていると後ろから声がする。


「エリーゼ!こっちには不信な人影はいなかったよ!」


どうやら昨日と同じ時点に戻っているらしい。先生が続きを書かなかったからだろう。


「エリーゼは心配性だな、確かに背の高い麦畑はあるが見通しが悪いって訳でもない。こんな所で襲って来るやつはいないさ。」

「用心に越した事はないさ、さあ、行こうぜ!」


完全に同じ流れで話が進行している。今度は油断せず、失敗もしない。私は三人の間の位置に入ると、危険が少ない様に注意して歩みを進めた。想定どおり右手の方に一際大きい風車が見えてくると両側の麦畑から音を立てて盗賊たちが6、7人出てきた。


「今度こそ失敗しない、一気にカタをつける!」


3人を壁にしながら呪文の詠唱を始める。今度は広範囲の魔法を使って一気に敵を倒してしまう事にする。


「エクスプロージョン!」


爆炎が辺りに広がり、一瞬にして盗賊達が燃え尽きる。


「やった!大成功!」


そう思ったのも束の間、爆炎は麦畑に一気に広がり辺り一面が火の海になる。周囲にある風車小屋にも燃え移り、中から火達磨になった人か悶えて出てくる。光景はまさに地獄絵図だ。マティアス様達3人も呆然とした表情で炎を見つめている。


「やりすぎてしまった……」


そう呟きながら昨日と同じ様に後ろに弾かれ現実に引き戻された。思ったよりご都合主義にはいかない様だ、夢なんだからもう少し都合よく進んでくれればいいのにと不満を漏らしつつもゴソゴソと起き出した先生を横目に、今晩の対策を練らねばならないと決意を新たにした。


今日の夢はあまり良い刺激にならなかったらしく、先生は早々にゲームを始めてしまった。毎日同じゲームをしていて飽きないのだろうかと不思議に思う。もう1チーム分選手が出来上がっている。先生をここまで駆り立てるのはなんなのだろうか……


先生が眠りにつくといよいよ私の再チャレンジの時間だ。先生の無駄な規則正しい生活はこうなるとありがたい。三度目ともなるとなれたものすぐにエターナルクエストの世界に飛び込んだ。


「エリーゼ!こっちには不信な人影はいなかったよ!」

「エリーゼは心配性だな、確かに背の高い麦畑はあるが見通しが悪いって訳でもない。こんな所で襲って来るやつはいないさ。」

「用心に越した事はないさ、さあ、行こうぜ!」


3度目の会話となるとスキップモードが欲しくなる、今度こそ下手な事をしない様に無難にやり過ごそう。またも3人の間に位置をとると目的の場所まで移動、すると両側の麦畑から音を立てて盗賊たちが6、7人出てきた。


「魔法で補助します、制圧をお願いします!」


私はそう指示を出すと、攻撃力と防御力が上がる魔法を3人にかける。物理で制圧する分にはヘタはうたないだろうと踏んだのだ。予想通り3人はあっという間に盗賊を制圧する。見事にこのピンチを切り抜けたのだ。


「さあ、盗賊達は縛り上げて村人に任せ、我々は先を急ぎましょう。」


ここまでくれば長居は無用だ。さっさと次へ移動しよう。足早にその場を去ると、次の街の入り口の所で現実に引き戻された。朝が来て先生が起きた様だ。


「今度こそ上手くいったでしょう!ねえ先生!」


聞こえていないとわかってはいるものの、話しかけずにはいられない。これで原稿も進む事だろう。鼻息荒く小躍りしている私とは対照的に、先生は浮かない顔をしている。いつもの様に朝食をとって仕事机に座るものの、作業をしている様子は一向にない。


「いったいどうしたんですかー、先生?お話は先へ進みましたよー。」


もちろん私の言葉は聞こえないわけだが、私は不満大有りだ。


「なんでですか!3度目の正直で盗賊襲撃ピンチを無難に乗り越えたじゃないですか!」


私は怒り気味に先生に文句を言う。そしてその自分の言葉にハッとした。そう無難に乗り越えたのだ、無難に。お話としては何もおもしくなく、フラグもなく、伏線もなく、無難に乗り越えてしまったのだ。


「そうかこれでは話のネタとしては弱すぎて参考にならない……これで続きがかけるくらいだったらとっくに書いているはずだ……」


そうだ、そういう事だ。私はお話が面白くなる様に、イベントと伏線を起こして、先生の創作意欲を刺激する様に夢の世界でエターナルクエストを進めなければいけないのだ。



私は思わず頭を抱えた。

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あの漫画の最終話を読むまでは私は死んでも死にきれない どくたK @tonarino_K

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