戦争に革命を起こす土魔法
四大属性の中で最もバリエーション豊かなのは土の魔法ではないかと思われます。
石の礫を飛ばす基本的なものから、ゴーレムを作り出したり、重力や植物を操る魔法まで土の属性に入るでしょう。
重力魔法が土の魔法として扱われているのを見ると、魔法の設定には我々の科学的知識が入り込んでいるという事が良くわかります。
"物理学が未発達な時代に重力ってなんだよ"という気もしますが、つまり魔法を研究するという事は、科学的な研究がずいぶんと発達するという事なのでしょう。ファンタジー世界の住人は、史実よりも随分、科学的な知識を持っています。
土の利用という面で見ると、現実世界では土器や建物などといった使われ方をしています。
他にも金属も土から派生している属性ととらえる事は多いかと思いますが、これを見ると我々は土の恩恵をかなり受けているといえます。
錬金術も鉱物を扱うわけで、そうすると土の魔法は充分に発展することになります。
・科学と魔法
・土壁と戦争
・魔法と戦争
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・科学と魔法
ファンタジー世界でも土の研究は進むことでしょう。前のページで書いた水の魔法に対抗できる属性として、堅牢な城塞を築いたり、沼地化のカウンター魔法を開発するかもしれません。
しかし一番大きな変化は、重機やそれに伴った学問が発達しなくなる点ではないでしょうか。
大きな石を運んだり持ち上げる、もしくは投げ飛ばすために、人間は様々なやり方を編み出してきました。
丸太をつかったり滑車を使ってみたり紐を捻じってみたりと、数多くの工夫によって石を思い通りの位置に動かしてきたのです。当然、それらは学問へと発展するでしょう。
そこの作業をもし魔法がすべてやってしまったら、工学がもろもろ変わっていくことが予想されます。前々から書いていますが、攻城兵器などはずいぶん姿を変えることでしょう。
魔法が代替技術として進歩すれば、差し当たって工学的な意味では科学知識は必要なくなります。
より高度なことをしようとしたとき、史実とファンタジーではどちらのほうが有利なのでしょうか。魔法と科学、どちらのほうが将来性が高いのかは分かりませんが、人類は全く違う歴史を歩むことになるでしょう。
・土壁と戦争
土の魔法といえば土壁を作り出すという描写がよくありますが、これはなかなか戦争にとって重要な技術でしょう。
それがいったいどのような方式や理論で壁を作り出しているのかはまちまちなので、とりあえずそういう結果を生むものだという事にします。
軍隊でいうなら、まず陣地の設営に全く困りません。
水の魔法と協力すれば、転生主人公が大好きなローマンコンクリートによる壁も作り出せてしまうでしょう。
その壁に穴をあける、突起物をつくるなどして、騎兵の自由を強力に制限することができます。近世スペイン軍が、フランスの騎馬突撃に対して鉄の杭を用いた例があるので、規模が小さいとしても、ますます歩兵の立場は強化されていくことになるのです。
このようにしていちいち魔法に置き換えて考えてみると、以前どこかにかいた、滅亡するローマ帝国相当の古代文明は、かなりの力をもつだろうと思われます。
歴史上には、我々よりもはるかに頭の良さそうな人物がごろごろいます。何といったって、今の技術を作り上げたのは歴史上の人々なのです。魔法やその利用方法についての研究は、特殊な枷がない限り飛躍的に進むことでしょう。
話を戦争に戻しますが、馬の脅威、矢の脅威が壁の出現によって消え去るというのは、いくつかの重要な変化を作り出します。
まずは、ステップ気候に出自を持つ、強力な騎馬民族が出現しないという点です。馬の自由な運用と弓の射撃によって、騎馬民族は戦略的に非常に優位に立ちました。モンゴルやタタールといった強力な騎馬民族は、史実ほど簡単に覇権を握ることはできなくなります。
飛来する矢、突進してくる馬はすべて頑丈な土魔法が防いでくれます。防御が容易であれば、それだけ中央に兵を集めておけます。
中国、ビザンティン、ローマなどの帝国はもう少し長続きすることでしょう。
馬の突撃が困難になるので中世の戦争模様も少し変わります。それに従って、貴族の地位は落ちるかもしれません。火の魔法の火の玉、水の魔法の沼地化、土の魔法の土壁などによって、馬の持つ意味が落ちて、農民出身の歩兵を頼るようになるためです。
馬は人間の歴史にとても大きな流れを作り出しています。その一つが魔法によって意味がなくなるとしたら、予想もつかないほどの変化が起きることでしょう。
・魔法と戦争
文字数に余裕があるので、魔法を用いた戦争についていくつか可能性を書いてみたいと思います。
一つは馬に頼らない戦士の発達です。
騎士ももちろん下馬して戦うことはあったでしょう。しかし、長大な槍や両手剣を用いた攻撃方法や、突撃による破壊力に頼った攻撃はできなくなります。
そこで、やはり魔法に頼りだします。
剣に魔法を付与し、巨大な剣にしてぶん回すかもしれません。飛来する矢を風の魔法で撃ち落とせるのなら、鎧は必要以上に厚くはならないでしょう。
馬が戦場に現れないのなら、槍衾の意味もなくなります。ローマの重歩兵のような戦闘スタイルが、中世になっても主流にである可能性もあります。
これは、職業軍人である貴族の出現がなくなる可能性があるという事でもあります。このスタイルでは戦場に立てば皆ある程度同等であり、その事実は政治思想体系を根本から変えることになるでしょう。これが一つです。
もう一つは、逆に騎士の戦力が強化される可能性です。
騎士はお金と時間を存分にかけたエリートです。魔法が発達しているのなら、魔法も当然時間をかけて習得するでしょう。
相手が火の玉を撃ってくるなら、すぐに氷の針で消し去るかもしれません。沼地になった草原を、瞬時に土で固めなおして渡ってもいいし、槍の先端に風の渦を纏わせて投げつけ、がりがりと土の壁を削る戦闘方法が編み出されても良いでしょう。
相手に合わせた魔法の習得によって、その地位をより確かにするかもしれないのです。
もし一子相伝でも追いつかないほど魔法が複雑になってきたら、定番中の定番である、騎士学校ができるかもしれません。
騎士に魔法を教え込むのなら、王の権力がどうなるかは戦闘技術を独占することができるかどうかがカギとなってきます。もし成功したならば、王の立場は強化されることになります。
魔法で対策を万全に施した騎士なら、銃器が開発されたとしても、今更マスケット兵に負けることもないでしょう。突撃前に戦列に火の玉を打ち込んでしまえば、動揺してまともに射撃はできなくなるのです。
仮に、このような騎兵が生まれてしまうと、ポーランドのフサリアがそうだったように、財政難以外では倒すことが難しくなってしまうでしょう。
やはり学校で魔法を教えない方がいいかもしれません。
それ以前に、魔法が攻城兵器の代わりになるのだとしたら、それはもう、機動力のある大砲と一緒です。防御魔法が生み出されるか、散兵戦術を採用するかでもしないと、格好の餌食となります。中世に登場するようなスタイルをもつ歩兵も危ういでしょう。
中世というテーマでの戦争物を書きたいのなら、戦争に高度な魔法を持ち込むのはやめた方がよさそうです。
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