ダンジョン経営者の勝利条件
"ダンジョンもの"というジャンルに私も一時期はまっており、よく読んでおりました。
明確な資料があるわけではありませんが、10年くらい前にダンジョンを経営するゲームが登場してブレイクして、そのあと小説で流行り始めたという印象をなんとなく持っています。
それが正しいのだとしたら、ダンジョンというジャンル自体がゲーム的設定を輸入しているので、いくつか小説の為の改変を行わないと使用できなかったことでしょう。
単純に"ダンジョン"としてみた場合も同じです。
魔物の巣窟というものは古代の神話からあったでしょうが、いわゆる"ダンジョン"という要素が持つ性質はゲームから輸入されてきたものです。
いつか書きましたが、ダンジョンに置かれている宝箱の存在は、多くの人が改変を試みています。
ダンジョンを経営する人がいるならまだしも、人の手が入った歴史が全くないのなら、そもそもダンジョンで宝物を取得するという要素は登場しない場合の方が多いでしょう。
主人公を殺しにかかるトラップも、古代遺跡等の由来を持つダンジョン以外では登場することがなくなったように思えます。
・ダンジョンの性質
・ダンジョンのモンスター
・ダンジョンに対しての価値観
・資源産出地としてとらえた場合
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・ダンジョンの性質
さて、そんなダンジョンとはどのようなところでしょうか。
基本的にはどんなダンジョンも、魔物が沢山いて、最奥でボスが主人公たちを待ち受けています。
ダンジョンは大きく分けて二種類あります。
一つは純粋に魔物の生息地として存在するものです。
これは今までの話に沿う形態です。森や谷、山、洞窟、草原などがモンスターの住処になって、"人間が勝手にそう言っているだけ"というようなものです。自然的なものであり、魔物たちは食物連鎖によって数を保っています。現実世界でいうアマゾンやサバンナ、サハラのような感じでしょうか。
もう一つは何らかの意思によって存在するダンジョンです。
魔物たちは呼び寄せられたものであり、人間に敵対したり侵攻するという目的を持っています。
今回はこのタイプのものを扱いたいと思います。
例えば前者なら巨人の谷や龍の巣といった名前がつき、後者なら死霊の森や幻惑の洞窟などの名前がつくことでしょう。
人間に対してピンポイントで敵意を持っているか否か、魔界側の意図が入っているかどうか、明確に支配者がいるかどうかということで分けられるように思います。ダンジョンからモンスターが侵攻を開始するかどうかはまちまちです。
また、支配者の有無とは別の見方もできます。
人間社会にとっての重要な資源産出地としての役割を持っているかどうかという見方です。その場合は人間はダンジョンのほど近いところに都市を築き、積極的にダンジョンに人を派遣します。
どンな種類のダンジョンでも基本的にダンジョンの中は無法地帯であり、"足を踏み入れた人間は怪我をしたり殺されても文句は言えない"という設定をとる世界が多数でしょう。
・ダンジョンのモンスター
今までこの章で書いてきたモンスターたちは、何かしらの消費活動を行うことを前提として書いてきました。
"何かを食べそのために何かをするというサイクルを持っているのであれば"という流れです。
しかし、ダンジョンではそのようなサイクルが行われることは期待できず、せいぜい弱肉強食のピラミッドができているかもとするのが良いところです。
ここからすると、やはりダンジョンにいるモンスターは魔力に頼って生きるほかないでしょう。そのような世界は多いと思います。洞窟や遺跡、深い森がダンジョン化する条件として、魔力的な何かが集まった結果だとする世界です。
この魔力が濃くないと生きられないとする設定は、非常に優秀です。
こうすることで、モンスターが洞窟外に侵攻することもないし、モンスターが食事をする必要もなくなります。
モンスターがエネルギーとして利用する力が、人間のそれとは相反するものだとしたら、人間が大きな勢力を持っている地域、いわゆる"始まりの国"付近の森や洞窟のモンスターが弱くても説明が付きます。
消費生産をしない、食物連鎖を築けないというならば、エネルギーは魔力に頼るしかないわけで、ダンジョンはそういうところなのでしょう。
・ダンジョンに対しての価値観
この特徴は一つ前の魔界の話と似ています。
生産活動を必要としないためにとることができる方法ですが、ダンジョンには秩序や法律がなく、弱いものは生きられず、強いものがボスとして支配します。
ダンジョンの中であれば、例え人間の勢力範囲内にあるダンジョンだとしても、人間同士の抗争も許されるようです。
その中であれば他勢力の法律が適応されると言い換えることができるので、これは大使館のようなものでしょう。
とはいえ二国間の条例によってその存在を保障されたものではないので、不法占拠や占領、という言葉がしっくりきます。
お互いに滅ぼし合う関係とはいっても、魔族側はダンジョンを拠点とする様子があまりないように思えます。
おそらくダンジョンは魔族によってつくられるものではなく、先に魔力が溜まりそこがダンジョン化して、それが魔族の目に留まれば拠点となるという感じなのでしょう。
さて、もしこの勢力間に何かしらの資源のやり取りがあるのだとしたら、話はどう変わってくるでしょうか。両勢力がダンジョンを資源生産の場としてとらえている場合です。
"人間側は食糧として人間を、魔族側は資源やエネルギーとしてモンスターを提供する"と言い換えられるようなダンジョンは多く存在しています。
中世という世界でも大義名分は重要でしたが、大抵は力の強いものの言い分がそのまま通るような世界でした。世界毎によって宗教団体が持つ力はまちまちですが、悪魔と敵対する彼等の言い分は無視できないでしょう。
人間を滅ぼそうとする勢力と物資のやり取りをするというのは、彼等から見れば悪魔と契約するのと同義でしょう。
そもそももしモンスターが悪魔と同じように魔界出身なら、そこからはぎ取った素材を活用する、身にまとうというのは許せないはずです。
しかし宗教団体はそこを糾弾しようとはしていません。
ここから考えられることはいくつかあります。
まず必要悪として黙認している可能性です。言葉を巧みに操る彼らのことですから、何かしらの言い分を用意して魔界産出資源の恩恵を受けることは考えられます。どんな宗教も世相に合わせて教義を捻じ曲げ、こじつけるようなことを言ってなんとか"例外"を作ります。
あるいは自然現象の一環として、すでに解明されているとする設定はどうでしょう。
魔力と魔界が何ら関係ないものだとしていて(魔力を人間が扱えるのなら説得力があります)、更にダンジョンができる仕組みも解明しているのなら、魔界産出資源を使う事の抵抗感も幾分か薄れるのかもしれません。
それでも、中世で木こりや肉屋が恐れられたように、冒険者も忌避される職業となる可能性はあります。
・資源産出地としてとらえた場合
ここまで考えると、宗教の敵である悪魔や魔物の資源を利用した装備というのが、その世界でどういう扱いになっていくのかということが気になります。
これをタネに、いくつか物語を考え出すことはできるでしょう。
例えば、魔物の素材を使ったり、ダンジョンという魔界の橋頭保とも言うべき場所から手に入れた装備を使う冒険者たちに、宗教団体がいきなり文句を言い始めるという話はどうでしょう。
新たに就任した法皇がこれを盾に破門を言い渡せば、冒険者は苦境に立たされることになります。
そういう事態にならないために、宗教団体の研究部門に冒険者ギルドから冒険者や職人が遣わされるという展開もありそうです。
ダンジョンの仕組みを解明し、現行装備を使い続けることへの許可を得るという話が(政治的バトルの展開が面白くなるかは別として)できることでしょう。
鍛冶屋は中世では忌み嫌われていたと以前書きましたが、もし魔物の素材を打ちなおして人間が使えるようにするという役目を負っているとするのならば、話は違ってきます。
宗教団体がそのような働きを認めた鍛冶屋というのも、ファンタジー色がなかなかに強くなるのではないでしょうか。ピザ屋の石窯のように、聖人や神の名前がくっついた炉やハンマーというのも作れそうです。
もしくは、宗教団体が魔物からとれた素材を一手に集めて、浄化作業を行ってから振り分けるとすれば、宗教団体の権力は一気に飛躍します。世界によっては王がその役目を負っても良いでしょう。
ここまでいくと、もはや国王や宗教団体をはじめとした各権力者たちがモンスターやダンジョンの存在を認めることに、なんら抵抗はなくなってくるでしょう。
逆の視点からいえば、ダンジョンの責任者はここまで行えば、まずは第一段階として成功を収めることになります。
彼にとって一番恐ろしいことは排除されてしまうことです。滅ぼされず存在を認められることによって、力を蓄えるなり、他のダンジョンを作るなりして、魔界に貢献できることでしょう。
しかしながら表立って、条例や条約を結ぶのは人間サイドとしては受け入れがたいものがあるだろうと思えます。先に書いたように、それは悪魔と契約するようなものだからです。
それが一番安易な方法に見えますが、リアルに中世に沿う価値観なのかということは一考する必要があるでしょう。
中世は人の命が軽い世界だという認識は書き手読み手の中に割とあるようなので、少数の冒険者の命と引き換えに、ダンジョンやモンスターから恩恵を受けようとする指導者がいる世界もおかしくはないと思われます。
いろいろと突っ込みどころを生み出してしまうようで、扱いづらそうなダンジョンという存在ですが、逆手に取れば様々なストーリー展開が生まれることでしょう。
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