何故妖精は森に出現するのか
今回は植物系モンスターを通してみることができる、現実世界、ファンタジー世界のあれこれを考えていきたいと思います。
植物は人間にとって食糧、資源として活用するものですので、モンスターとの境目があやふやです。もっとも人間と関わり合いの深い種族だろうと考えることもできます。
そんな植物系のモンスターですが、特徴を上げるといくつか他のモンスターと異なる性質が見えてきます。
・資源として
・勢力範囲の拡大について
・創作物における植物、モチーフについて
・植物の意思と妖精
・強力な植物モンスター
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・資源として
人間はあらゆる植物を利用しています。人体に毒となるものを薬として利用しようと試みたり、辛いものも苦いものも食べます。日本人は小動物も食べないような栃の実すら食べようと努力してきました。
麦やジャガイモは何人もの人を殺しましたが、結果的には克服され、今では主食の一品目となっています。
一方でファンタジー世界ではモンスター化した植物は利用されないことがほとんどのように思えます。聞いたら死ぬ叫びを上げるというマンドラゴラを薬として扱うことはありますが、木のモンスターを建材、資材として利用するという例はあまり見ません。
そこから考えると、木材になる植物は普通の木々であり、それを浸食してしまうかもしれない植物モンスターの駆除は優先されるべきものだったという可能性があります。
森は原始社会に適しています。森で生活するところから始めた人類が植物モンスターに耐性を持っていてもおかしくありません。
火属性の魔法が魔法の代表格のようなイメージがありますが、対植物用に発展した経緯が魔法の歴史にはあるのかもしれません。
・勢力範囲の拡大について
植物は自身にあった環境を探して、風、虫、小動物、鳥、海流、さらには人間の文化的な活動までも利用して、勢力を拡大していきます。
いくつかの植物系モンスターも同じような手段を取って勢力を拡大しようとするでしょう。
しかし植物が人間の勢力範囲に生きることは過酷です。
以前にも書きましたが、人間は森を利用することでその勢力を伸ばしています。食糧はもちろん、エネルギーとして森は活用されてきました。
都市を維持するには莫大なエネルギーが必要なのでどんどん木は伐られます。イタリアにはほとんど森はありませんし、ドイツの黒い森もほとんど植林によるものだといいます。
田畑にある植物も都市にある植物もすべて人間の手によって管理されており、モンスターが入り込む余地はないでしょう。むしろ畑を作ったり食用植物を採取するために大胆に焼き払うのです。植物系モンスターにとってはたまったものではないでしょう。
植物系モンスターは人間とことごとくそりが合わない生物です。植物系モンスターが人間を利用して勢力を伸ばすにはどうしたらいいでしょう。
一番よさそうなのは幻覚です。
感覚をいい方向に勘違いさせる幻を纏うことはモンスター化した植物にとっては最大の武器でしょう。
美味しいと感じさせたり、美しく見せたり、良い匂いだと感じさせることができれば、人間は勝手に増やしてくれます。
もしそれが害をなすものだとしたら、じわじわと勢力を伸ばすモンスターはホラーのような展開になって物語が暗い色になりそうですが、植物という性質とモンスターという性質を掛け合わせて考えるとこれが合理的な気がします。
必ずしも麻薬のようなものである必要はありません。ソメイヨシノやバラのようになってもいいかもしれません。
そうするともうモンスターであるか定かではありませんが、人間と戦う力がない以上、半ば寄生する形をとって勢力を伸ばすのが一つの形でしょう。
・創作物における植物、モチーフについて
メタ的な話になりますが、そもそもどのような植物がモンスターとして描かれるのでしょうか。植物の種類は非常に多いのですが、モンスター化する種類は少ないようです。
基となる植物は、ラフレシアのような大型の花、食虫植物、つる性の植物、キノコや粘菌などの菌類程度です。巨木がモンスターになる例もありますが、特定の品種が出てくるようなことは稀です。
あとは野菜系のモンスターがちらほらいますが、どちらかといえば独創的なモンスターに属することが多く、定着はしていない気がします。
この種類の少なさは、人間は木は木、花は花、などというように大雑把に認識していることの表れなのかもしれません。
特徴的な性質を持つ物はモンスターになりやすい傾向にあるのですが、動物に比べて植物にはモチーフが少ないという事は面白く思います。
先述のとおり資源として植物のことをみるので、ミスリルやオリハルコンといった架空の資源と同じように処理されている場合も多くあります。魔法の木の実や不思議な草花など、そういったアイテムはたくさんありますが、どれもモンスターというくくりではありません。
植物単体で認識するということが非常に少ないことに起因するのかもしれません。
・植物の意思と妖精
モンスターは人間に害をなそうと積極的に行動しますが、植物系のモンスターは根っこを張っており、受動的な立場にあるのが特徴だといえます。
植物は動かない物であり、もし動いてしまえば動物になってしまいます。
そんな特徴を持っている手前、個としての意思を持たせることが難しくなるでしょう。またもともと目や口がないわけですから、それらをくっつけて喋らせようとするとどうしてもマスコットのようにコミカルな見かけになってしまい、人に仇をなすモンスターとして描くことが難しくなってきます。
受動的なスタンスである植物に人類を侵略してやろうというような意識はあるのでしょうか。
植物自身に意思表示をさせることが出来ないとなれば、やはり妖精という小道具を用いてそれを表現するしかありません。
木を依り代とする妖精、もしくは木の意識としての妖精は、どの国の童話にも比較的見ることができます。動かすこともできない、喋らせることもできない植物の意思をどうにか物語に乗せるための手段として典型的です。
森に妖精がよく出現するのはこのような流れ、いきさつがあったかもしれません。
・強力な植物モンスター
一方で色々無視すれば、強力な植物モンスターを物語上で描くことは、他の種族のモンスターに比べて簡単でしょう。
なにしろ弱点がはっきりしている上、動かないので巨大化させ放題です。生命力の象徴でもあるわけで、無尽蔵の体力をもっていたとしても不思議ではありません。身体の大部分を地中に隠せるという特徴も持っています。
粘液のようなものを纏っていて火炎を無効化する、伸縮性があるのですべての物理攻撃を無効化する、なかなか死なないなど、説得力をもった例は挙げたらキリがありません。
知られずに都市に種を落とし、都市の下に大きく根を張る植物系モンスターがいきなり牙をむくという展開も書きやすいでしょう。他にも洞窟に擬態するというのはよく見る手段です。
生物学的な身体構造に縛られがちな多くのモンスターと違って、植物系モンスターは動かしにくい、意思を持たせにくいということさえクリアできれば、一番自由度の高いモンスターに変わることができるのではないでしょうか。
先述のとおり、種類としては植物系モンスターは多くありません。
逆にいえばそれだけ未開拓地が広がっているという事かもしれません。
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