武器屋という異質な存在

 以前、"ゲーム的設定"を使用する際には注意、処理が必要であるという事を書きました。どれがゲーム的設定かというのは判断が非常に難しいという事も実感いただけたと思います。


 今回は実際に一つ例を取り上げて、考えていきたいと思います。

 すでに本編では宿屋について考えてみましたが、今回は宿屋と並んでお店の代表格である武器屋を取り上げてみたいと思います。




 大抵のゲームでは主人公は武器屋で武器を買うことができ、それはあらゆるゲームで自然に行われていることです。工房に資金や素材を持ち込んで武器の制作を依頼するというシステムも一般的でしょう。


 果たして中世において、個人が自由に武器を購入できたかどうかという事は分かりませんが、少なくとも交易を行う商人にとっては重要な商品の一つではありました。ある都市で大量に仕入れ、別の都市の領主に売りつけたと想像するのは自然なことです。


 一方で農民が蜂起した際の武器は斧やフレイルであったようであり農民は武器を所持していませんでした。

 武器は高くて庶民には手が出せなかったという理由は確かに有力ですが、もちろんそんな短絡的な話をしたいのではありません。

 この話で重要なのは、人間社会の中での武力の扱い方です。



・社会の中での武力

・武器屋と社会

・ファンタジー小説の中での武力


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・社会の中での武力


 兵役につかない人々が武器を所持するという事は、統治された社会ではあまり受け入れられることではありません。治安の低下や一斉蜂起の危険性などの理由から持ち込まれるべきではないのです。

 個人が各々の持つ武力を自由に行使できる状態というのは、ある程度社会が安定すると駆逐されていきます。


 権力者はせっかく貯めた財産をなんとかして守らなければなりませんし、武力を持たない弱者を保護して人口を増やすことが社会の繁栄のためには必要なことです。


 それゆえに宗教は発達してきたし、法は研究され整備されてきたのでしょう。

 道徳心を育てそれに訴えることと、社会としてのルールを定めるという二輪で、人間の持つ暴力性――これは武力に限ったことではありませんが――を抑止しようというわけです。


 中世においては限られた階級のみに武器の所持が認められるとするのが領主の理想でしょう。一振りの剣に思いをかけるのが騎士文化なのですから、騎士が力を持つような世界では剣の扱いは慎重になることかと思います。




 ではファンタジー世界にて、モンスターという外敵がいる場合はどうでしょう。

 危機に対抗するために領主は一般市民に日常的に武器を所持することを許可するでしょうか。


 これはやはり前述の点から現実的とは言えないのではないかと思います。


 武力、防衛力は組織の中に組み込まれ、一定の制約のもとにコントロールされるべきであり、個人の意思に頼っていいものではない、ということは想像に難くないでしょう。


 個人が所有する武力は社会の中では平等であるべきであり、武力が行使されるタイミングは法や統治者の意思によって決定されるべきです。

 そうでなければ社会は構築されて行かず、自壊することでしょう。



 例えば平時に街にある一人の男がやって来たとして、その男が信用できるかもわからないのに腰に武器をつりさげていたとしたら、衛兵はどんな事件を起こすのか気が気ではないのではないか、と考えるのは不思議なことではないでしょう。


 仮にその男が騎士だったとしても、自国領内であればその盾にくっつけた紋章も役に立つことでしょうが、他領内に武装して冒険しに行けば見ようによっては襲撃です。


 大抵の場合、主人公一行が武装を制限される場所は牢屋に入るときぐらいですが、それではあまりにも領主はうかつですし、領民は度胸がありすぎではないでしょうか。


 本編でも冒険者や冒険者ギルドを考える際に、統治者や権力者がその力に首輪をつけようとするのではないか、という路線で長々と書きました。冒険者は何らかの特権を得て、武器を携帯しているものと思われます。



・武器屋と社会


 そう考えれば、武器屋というゲーム的設定も、武器を携帯するという風習も、小説で利用するのであれば何かしらの処理を施す必要がある要素ではないでしょうか。


 はじめは棒切れや日用雑貨で武装していた主人公一行も、ゲーム中盤にはだんだん物々しくなっていきます。想像すると初めはほほえましい様子ですが、やがて衛兵もにこやかに見守るわけにはいかなくなってくるでしょう。

 こういう風景もゲームであれば主人公は武器を持つことをゲーム制作者とプレイヤーによって許されているので、そこの処理は削られていても全くおかしくはありません。


 武器を携帯する目的やそれの根拠になる何かしらのシステムを、中世的な社会といえど構築しなければならないでしょうが、宿屋の話でも書きましたが、ある程度社会が充実するまでは個人を証明する社会システムは困難だと考えられます。


 例えば王様の権威が充分であれば、武器携帯許可証のようなものを王個人の名前で発行しているのかもしれません。冒険者ギルドが発行してくれるギルドカードがそのような役目を負っているかもしれません。


 幸いなことに魔王が出現するような世界では国同士は友好的な関係を結んでいます。ある国で発行された許可書は関所で手続きすることで別の国での許可書としても有効になるかもしれません。


 人間は善人ばかりではないし、仮にそうだとしても容易に互いを信じられるものでもありません。それが中世であればなおさらです。何らかの形で武力を御している様を見せなければ統治が成されているとは言えない、といえるかもしれません。



・ファンタジー小説の中での武力


 ファンタジー小説はたいていの場合武力を扱うものであり、その世界がいったいどのように武力をとらえているのか、ということは一つその社会を見るうえで役立ちます。 


 もちろん小説によっては全く必要のない処理だとおもいます。

 ここまで書いておいてなんですが、私も気にして読んだことは(全くとは言いませんが)ありません。娯楽は善意によって成り立っている分野です。ある程度のことはお約束として無視して前向きに楽しむべきであり、重箱の隅をつついてやろうという姿勢は双方不幸になってしまうでしょう。


 多くの場合それがライトノベルであれば、これらはゲーム同様に書き手と読み手によって許されている場所です。


 そのような細事に囚われて無駄な描写に長々と文字数を使って、一向に話が本筋に行かないのであれば無視するべきでしょう。書き手も苦痛だし、読み手が退屈することになっては本末転倒です。


 しかしある程度社会の様子、つまり税金や統治体制の様子を書こうとするのであれば、武力の扱いについて考えるのも面白いと思います。

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