ファンタジー世界に学校を作るには 後編


 今回はファンタジー世界にはどのような学校が生まれるのかを考えていきたいと思います。


 まず前回あげた利点と問題点を列挙してみます。


利点

・教育により文明の成果がある程度共有される

・自国の言葉で教育や研究をすることができる

・自国に有利に教育することができる

・より高度な技術を優先的に手に入れられる

・商業外交文化面で有利になる

・(交流の場となり、物語が進みやすい)


学校開設の障害

・余剰生産がない、教育に時間を割けない

・知識はそれぞれの層で独占される

・身分制度によっては慎重にならざるをえない

・学校を開設するだけの資金がない



 利点を損なわない程度でなんとか障害を避けて、剣技や魔法、探索技術を教育する学校を開くには、どのようにしたらよいのでしょうか。


・冒険者育成所

・王立学校と冒険者ギルド

・設立のための金銭、教師、技術

・存続のための学校


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・冒険者育成所


 まず、ただ単に学校を作りたいだけなら簡単な方法があります。


 冒険者ギルドに学校を作らせてしまえばいいのです。

 ギルドは徒弟制度という育成システムがありました。数年間見習いとして親方のもとで働き卒業のために作品をつくり、それが一定のラインに達していれば親方になってギルドの一員になれるのです。


 これをやるために冒険者ギルドが学校を開けば、冒険者に対してギルドは優位に立てますし、むやみに死なせることもないでしょう。


 しかしこれでは剣技の授業と言っても騎士が所有するようなものは期待できませんし、貴族のお嬢様が入学してくれそうにありません。基本的にギルドと貴族はシマが違うのです。


 また、学校を持っている冒険者ギルドというのは、今のファンタジー小説のなかでは一般的ではありません。執筆の段階でなにか問題があるのだろうと推測できます。


 それはどんな問題かというのはおいておくにしても、物語に学校を出現させたいのですから、物語を展開させる際に問題が出てくるようでは困ります。



・王立学校と冒険者ギルド


 よくあるのは"王立"というものです。

 王立騎士養成学校だったり、王立魔術学園だったり、そういったフレーズはよく見かけます。


 王国が騎士を養成する、という状況はよくわかりません。

 騎士は領主の武力であり、王国のものではないからです。この騎士養成学校に平民が入学できる可能性はあるのでしょうか。騎士が実際の役職ではなく、称号になってしまえばその可能性は充分にありますが、それでは中世の世界観からは離れてしまいます。


 王国の常備軍として騎士や騎士団という存在があるというのも、昨今のファンタジー小説の定番ですが、これは常備軍という近世以降の要素に騎士が合わさったものと考えられます。



 王の騎士と言えばよくファンタジー小説やゲームには「近衛騎士」というものがでてきます。これはいったい何でしょうか。


 近衛兵を辞書で引くと、宮中の警護、天皇の警備にあった親兵とあります。律令制には近衛府というものがありました。物語で出てくるのも君主直属の戦士であり、王の周りを固めているようなそんな存在です。


 近衛騎士はパラディンを訳したものだとは思いますが、古代ローマのパラディンは宮殿の護衛兵、もしくは親衛隊でした(パラディンとパレスは同系語なのでしょう)。律令制でいうところの近衛府です。

 王の周りを警護する騎士だから、近衛騎士というわけです。



 宮殿に出入りできる武官、という存在はどの地域でも見ることができます。例えばマリ帝国にもファリマ(勇士)という身分がありました。彼等の中で皇族と血縁関係にある者は、ファリムバ(偉大な勇士)という騎馬隊の指揮官になり、マリ帝国の周辺民族を従わせ交易路の安全を確保しました。


 彼等の軍を編制するための制度は、各部族から20名ほどの戦士団を出してそれを高官が指揮するというものだったので、ファリマも平民出身である可能性があります。


 つまり一定の武勇を立てた者、立てる見込みのある者であれば、取り立てるという社会はあり得るという事になります。

 一つ注意しなければならないのは、マリ帝国は色々な部族を統一して生まれた帝国であり、成り立ちからして実力主義的な側面をもっていたということですが、ここでは置いておきます。



 平民を貴族の傍に置くには、武勇を立てる見込みのある者を見出す機関を作ればいいことになります。


 騎士養成学校なるものがもし存在するとして、そこに貴族の息子が通っていたとしたら、その前段階として例えば冒険者ギルドの育成所で好成績を上げたものが入学を許される、とするのはいい手かもしれません。


 そこで貴族の子息は見込みのある者を見つけることができますし、冒険者ギルドも人材を提供して恩を売れます。冒険者ギルドも信用の問題があるので、素性や性格に問題がある者を送るわけにはいきません。安全の面も心配ないでしょう。

 平民を貴族と同じ学校に通わせるというハードルをクリアするには、前段階として育成所があればいいかもしれません。




 では、その騎士養成学校や魔術学園自体をどう作るかという問題を見ていきます。

 大きな問題は3つ、生徒、金銭、内容です。


 生徒の問題とは、本当に貴族の息子が王立学校に通うのかという問題です。

 生産余剰の件と継承権や結婚に関する件は、学校に通うのは貴族の次男坊以降とすれば問題はないかもしれません。大事をとって三男坊以降でしょうか。


 他の貴族とのパイプや情報を得られるのが、その社会でどれほどのうま味があるかは分かりませんが、利益があるならよいでしょう。

 国王から見ると、王立の施設に貴族の子供を入れるというのは、人質を取っているような状態にすることができます。王への忠誠という意識を植え付けることができれば一石二鳥です。


 これはやはり、随分と中央集権が進んだ近世国家(例えば徳川幕府)の内容ですので、その国家を描写する際にはそのような設定にする必要が出てきます。



・設立のための金銭、教師、技術


 金銭の問題を解決するためには、現実世界ではローマ皇帝を輩出する手がありますが、ファンタジー世界にそれに似たようなイベントを作るか、権力者が商業的な成功を収める必要があります。


 もしもそうでないなら各権力層へ出資を求めなければなりません。

 教会から出資を得るために、神学をカリキュラムに組んだり宗教生活を行うことが条件に入るかもしれません。卒業後の配属先として巡礼や交易の警護に当たらせることもあり得そうです。

 教会に配属された騎士は、騎士団を結成することになるでしょう。



 教育内容を確保するためには、どこからか学者を引っ張ってこなければなりません。中世ではよく天文学者や哲学者、神学者が招聘されていました。

 ここで注意したいのは、育成施設と学問所の違いです。よく史実に登場するのは学問所でそれは研究機関でした。財力に余裕がある統治者は有名な学者をよび、高額な設備を作ったのです。


 しかしファンタジー世界にでてくる学校は小中学校と同じ、いわゆる育成施設です。未知のものを探求するところではなく、実用的なスキルを学ぶ場所です。ここで必要になるのは、ファンタジー世界なら前線で活躍していた魔法使い、騎士、冒険者になります。


 魔法学園の場合はその名称的には学問所であっても良さそうで、実践的な訓練と研究に必要な知識、どちらの色が強くなるかは分かりません。



 独占的に取り扱っていたものをすこしでもいいから提出するように 王は各方面に圧力をかけなければいけません。

 しかし各職業層にとっても悪いことではありません。技術交流は発展のために大きく役立ちます。もし成功すれば発展が見込めます。学校の規模としては、あまり大人数を入学させると社会全体の生産性が落ちてしまうし、どんな危険を生むかわからないので、生徒数自体はまずは抑えめにした方が良いでしょう。


 ここで育成された人材は、実戦で役に立つ技術を習得できるため、モンスターとやり合うための強力な切り札になります。



・存続のための学校


 これから先の章で書いていくことになりますが、戦闘技術が魔法と剣技が合わさった非常に高度なものになって来る可能性がありますし、ドラゴンなど大型モンスターがでてくると冒険者たちも連携を学ばなければいけなくなります。一子相伝の育成システムでは間に合わなくなってくる可能性があります。


 魔法使いは魔法を、騎士は剣技を、冒険者はモンスターを狩る方法をそれぞればらばらに持っています。そうした場合には学校が必要とされる世の中が生まれることでしょう。



 実際に学校を作る段階になった時、学校を建ててそこに貴族や平民を通わせるには、王の権力が強いことが条件になってきます。


 もし大型モンスターがいるような世の中で中央集権が弱い場合、その国家は容易く滅んでしまうことでしょう。大型生物を狩るために原始社会でリーダーが生まれたように、大型モンスターは王の権力を強めるかもしれません。

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