ファンタジー世界に学校を作るには 前編
いわゆるなろう小説というものが流行する前から、投稿小説のファンタジーものには学校や学園が登場してきました。
これは書き手読み手ともに学校生活を送っているので、登場人物の生活様式をイメージしやすいという利点があったためです。
ゲーム的設定と同じように共通認識が存在していれば、ある程度の描写や説明を省いたとしても、違和感なく物語に入っていけます。
また現実世界と似通う環境を設定することで、より現実世界との差異を際立たせる効果も持っているようです。例えばマンモス校だとか、魔法に関する科目がある、貴族がいるなど、そういう要素に目が行きやすくなります。
しかし最近この学園の存在が怪しくなってきました。しっかりと統計を取ったわけではありませんが、学園が登場するファンタジー小説の割合は依然と比べたら減ったようにも思えます。
読者層の年齢が上がっていたり、中世に学校なんて存在していたら不自然だという意識が生まれてきているといった理由が考えられます。
・小説として学校は必要
・社会にとっての利点
・ファンタジー世界のハードル
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・小説として学校は必要
とはいっても学校は便利です。
現実世界の学校は通常出会わないような世界の人間同士が一つの場所に集まる場所であり、そういう意味で特異的な施設です。
特に義務教育の範囲でまだ成績分けがされていない小学校や中学校ではその性質が強いですし、ある程度学力や専門性で分けられる高校もその性質を持っています。
対して大学や会社は専門的な色が濃くなるので、同じ業界に住む大体同じような価値観や行動パターンを持った人間が集まる場所になります。そこでの出会いに意外性はないでしょう。
我々がイメージするところの学校はこのように交流の場としての性質も持っているため、例えば平民の主人公と貴族のお嬢様が自然に出会うのには、これ以上ないほどの施設です。
必要とされるのは研究機関としての学校ではなく、教育を行う場としての学校です。
ただその存在自体が中世という世界では一般的ではなく、実際少しはあったとしても、近世まで待たなければいけないと言うところが欠点です。
そういうわけで、今回は養成学校や魔術学園をなんとか違和感なく登場させるにはどのようにしたらよいのか、考えていきたいと思います。
学校を作るには、その社会や為政者が学校の必要性を感じなければなりません。
・社会にとっての利点
社会的に見て学校がある利点は何でしょう。
まず一つ目は長期間の教育を施すことによって、より高度な生産ができるようになるという点です。文明レベルに応じた基本的な教育をすることで、その文明が持つ成果を利用できるようになるのです。
例えばひらがなや漢字が読めるようになれば、日本語によって書かれた物が利用できるようになります。先人が苦労して作成した公式を習得すれば、その作成に掛かった時間を使い、より発展的な物を生産できるチャンスが生まれます。
思考パターンや知識を身につけることで、問題に直面したときに解決できる可能性があがり、専門性の高いものを扱えるようになることも期待できます。
教育レベルが高ければ、それだけ文明レベルが上がりやすくなることでしょう。
自国に学校を持つという事は、自国の言語でその分野の教育をすることができる事になります。
未知の分野を母国語で学ぶのと外国語で学ぶのでは、習得難度に大きな差が生まれることは疑う余地がありません。高校の世界史や物理の教科書が英語で書かれているのを想像してみてください。
基本的なことを母国語で学ぶ環境が整って入ればより先進的なものを研究しようとしたとき、それは母国語で行われ、その研究成果は母国語で残されることになります。後進の研究者にとって大きなメリットになるのです。
教育が完了されれば人間は大人になるわけですが、大人になった時、その教育の内容で思考パターンや思想が変化するということも注目しなければいけません。
自前の教育制度がなければ、他国にいいようにされてしまうかもしれませんし、持っていればある程度操ることができます。
中世でも大学がありましたが、大学があると沢山の学生がその都市にやってきます。
学生が多くなれば純粋に経済規模が大きくなりますし、これはいまでもそうですが、研究機関として大学が存在すれば先進国となれるのです。他国から先進技術を学びたい学生がやってくれば文化的にも外交的にも有利になれます。
このように学校を持つことは、当然のことですが大きな利点がいくつもあります。
そのため、もしファンタジー世界の統治者が学校を持とうと思っても、そんなに不思議なことでないのです。
・ファンタジー世界のハードル
ではファンタジー世界の国王が自分の領土に学校を開くまで、どんなハードルがあるのか考えていきましょう。
まず生産力の問題があります。
教育期間の長さは生産力に影響を及ぼします。生産力に余裕がない勢力は教育に長い時間をかけることができないのです。いままでもことあるごとに登場していますが、ここでも余剰生産が必要になります。
非生産層でいる期間が伸びるということは、それだけ負担が増すということになります。ある程度余剰生産がなければ、教育を受けさせることはできません。
次に各職業層が技術を独占しようとするのも問題となります。
学校で何を学ばせたいかという点で大きく変わってきますが、ファンタジー小説に登場する学校である以上、剣技や魔法、ダンジョンの探索技術など、実用的なものを学んでほしいところです。
しかし、史実中世では戦闘技術は騎士が一子相伝で引き継いでおり、そうでないものが戦闘に参加する場合、槍をもって並ぶような形でした。騎士がその地位につけていたのは、戦闘スキルという専門技術を独占的に保有していたからでした。
史実中世ではまだ書物は外国語で記されていることも多く、話し言葉と大きく差があったため、知識は(言語ごと)教会が独占していました。魔法で使われる文字であればなおの事秘匿されることと思います。探索技術にしても冒険者の専門技術です。
このような剣技や魔法など、いかにも職業団体が独占したがりそうなものを、どうやって放出させるかというのは大きな問題です。
そして身分制度も問題になります。テンプレファンタジーものとしては、平民と貴族を一緒の学校に入れたいところですが、それは可能でしょうか。
まず継承権を持つ大事な子供を安全とは言えないような場所にやるかどうか定かではありません。身の安全と思想の変化は、領主からしてみると大きな問題です。
跡継ぎがいなくなればそれを理由に領地は没収されてしまいます。暗殺の可能性が否定できない以上、学園に通わせることを躊躇するでしょう。
思想の変化も、その学校のオーナーの期待に沿った物に変化してしまうことでしょう。いわゆる"変な虫"が付く可能性も否定できませんし、誰になにを吹き込まれるかわかったものではありません。
その世界の価値観によっては純潔である必要もあり、子供の結婚によって成果をあげたい親としてはそこも気がかりです。
また子供の能力に疑惑の目が付いてしまうことも避けなければなりません。子供に跡を継ぐにたる能力がないとわかれば、領地を継がせることができなくなります。
貴族という身分が領地経営などに効力を持っている社会であるなら、貴族の子息を学校に通わせることは難しくなります。
最後に金銭的な面です。
王が学問所や大学を作るには、莫大な資金が必要になります。建物や設備に加え、学者を招聘しなければならないからです。
知識の独占が当然のように行われていた中世では、知識の代価として高額な謝礼を支払わなければならないでしょう。ヨーロッパで中世で大学を持てた都市は、何かしら商業的な成功を収めたか、ローマ皇帝を輩出するなどして巨大な権力を手にした都市です。相応の資金力が必要なことでしょう。
次回はこれらの利点と問題点を踏まえ、ファンタジーの学校を考えていきます。
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