海が王国に与える影響

 船は兵器や国家の発展に大きく貢献しました。本編でも貿易について書いた際に触れました。

 船は運搬能力が十分で大型の兵器を搭載することができるので、様々なことに利用されてきました。


 しかし多くのファンタジー世界ではあまり重要視されていません。海や船にはどのような作用があるのでしょうか。



・大型兵器の輸送

・船と遠距離武器の発達

・海と国家の発展


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・大型兵器の輸送


 現代でも古代でも船は高い輸送能力を持っていましたが、陸上輸送はどうだったのでしょうか。


 例えば場合にもよりますが、攻城兵器は拠点から持っていくのではなく、現地で材料を調達して作られるものでした。包囲完了後、その場で木を切り倒して攻城兵器を作ったのです。

 大砲が登場してからもしばらくは包囲してから鋳造しました。本陣から重たい攻城兵器をごろごろと転がしていくようでは、行軍スピードが非常に遅れてしまうし、行軍ルートも限定すされてしまいます。


 野戦をするなら道路、もしくは海路による運搬経路が重要になってきました。

 まともに整備されていない土地で鋼鉄の塊を転がせば、見る見るうちに車輪は泥に埋もれていってしまうことでしょう。


 インドの帝国は大砲を所有したものの機動力に難があり、その権威を安定させることができなかったと言われています。


 船であればこのようなことは起こりません。古代からでかいバリスタをのっけて移動することもできたのです。

 昔から巨大な兵器と船は割と相性がいいものでした。



 そもそも海上では接舷を除けば、攻撃も防御も遠距離兵器に頼らざるを得ません。船の戦闘能力を上げるために兵器が発達したという例はいくつか見られることができます。


 クロスボウ、大砲、速射砲、などがあげられるでしょうか。

 どれも陸上海上関わらず、戦場には欠かせないものです。



・船と遠距離武器の発達


 クロスボウが発展したのはイタリアです。

 火薬兵器が発達するまでは接舷して乗り込むという攻撃方法が一般的でしたので、クロスボウ兵を数人、船に配備しておくだけで格段に防御力が上がったのです。陸上と違って騎馬突撃に脅かされることもないので、クロスボウは重宝されました。


 当然クロスボウは進歩しましたし、都市国家ではクロスボウが職人によって増産されました。



 大砲が陸で成果を上げると、まもなく海でも使用され始めます。

 大砲は"とにかく巨大に"という考えのもとに発展していったので、1トンにも及ぶような代物もありました。


 重い上に撃つ際に反動がある大砲は、船で使用するには様々な工夫が必要になります。ある程度は小型化はされましたが、巨大な大砲を海でも問題なく使用するには船のなるべく低い位置に並べ、さらに砲撃の反動を吸収する砲車を開発することになりました。


 しかし地中海のような穏やかな海で使用するならともかく、外洋では重たい大砲を積んだ船は思わぬ事故を起こします。

 スペイン無敵艦隊がイギリス海軍に敗れたというのは有名ですが、実際に大きなダメージを被ったのは帰還途中の座礁や物資が足りなくなったためでした。時の権力者にとって、大砲の安定化は急務だったことでしょう。


 一撃で致命的なダメージを与える大砲は魅力的です。

 軽くする方法や射程距離を延ばす工夫、命中精度を上げる工夫がなされました。


 ポルトガルやスペイン、ロシアは船に大砲を乗せて攻撃に防御にと機動的な運用をし、膨大な土地を手に入れることができました。


 イタリアの海上の覇権が失われたのは、外洋へのアクセスが悪いというその立地条件もありましたが、金属を北からの輸入に頼っていたために大砲を自由に研究生産することができなかったためとも言えます。



 欧州の海洋国家で大型木造戦艦の建造競争が始まってしばらくすると、速射砲という兵器が生まれました。

 イギリスとフランスが海戦力で競争する、という時代になってしばらく時間がたってからの出来事です。


 島国であるイギリスは木造の巨大な戦艦を建造することに腐心していましたが、ある時フランスで開発された水雷(魚雷の先祖のようなもの)一発で戦艦が沈む、というショッキングな事態に遭遇します。

 戦艦と水雷艇のコストは60対1という差がありましたので、何とかしなければイギリスに未来はありません。島国ゆえに海軍は重要でしたし、戦艦への信頼も厚いものがあったのです。


 水雷艇を撃ち落とすために、イギリスでは速射砲が開発されます。対象にあった火力を投射する兵器ができれば、効率よく素早く敵を処理することができるのです。

 この速射砲はあらゆる兵器の火砲に転用され、速射砲を意味するOQF(オードナンスクイックファイアー)の名を冠した戦車砲や野戦砲は沢山残っています。



・海と国家の発展


 重たいものを自由に運搬できるというのは輸送の面で非常に有利に働きます。

 例えば黒海近辺での戦いは港を持つ側が勝利しましたし、本編でもモンゴル帝国の陸上輸送の限界や、海路がハンザ同盟発展の原因の一つになったと書きました。


 他にも、イギリスなどは東西戦争がはじまって他国と規格を統一する必要がでてくるまでは火砲をポンドで表記していますが、これは海運の際、砲弾を大きさではなく重さで表記した方が都合が良かったという理由があります。

 海と国家は切っても切れない関係にあるのです。



 海上という特殊な状況では多くの兵器が必要に迫られて開発されたことでしょうし、多くの兵器が自由運用されました。あらゆる文明は輸送の多くを船に頼っているのです。

 兵器の発達や国家の発展は、陸上だけでは説明がつかないこともたくさんあるでしょう。


 海上軍隊が充実している国家というのは大国になる可能性を秘めています。

 以前も貿易の話にて出した、海上要塞も夢のある話です。


 海の存在も含めて勢力を設計することは、設定に厚みを増す要素となることでしょう。

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