第二部 史実と社会

表現とファンタジー小説

散逸構造の理論 味噌汁とファンタジー

 第一部では現実世界の史実をもとに、ファンタジー小説定番の要素について考察を行いました。

 第二部ではさらに視野を広げるために、様々な考え方に触れながら、再度多角的に考察を行っていきます。


 歴史学や地理学のほかに、創作論、社会学といった分野の話が続きます。今まで以上に話が飛ぶことになりますが、分析や考察を進めるために必要だと考えています。

 

 この章では世界を構築するうえでふまえておく必要のある、現代日本に形作られるファンタジー世界の前提や構造を探ります。

 "この考察小説で紹介する知識をどう使うべきなのか"という、ある意味最も重要な話題にも触れていきますので、どうぞお付き合いください。



・散逸構造とは

・散逸構造からみるファンタジー世界



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・散逸構造とは


 50年前に散逸構造という理論がノーベル賞を受賞し、各分野においてもその考え方が用いられるようになりました。

 熱力学の用語らしいですが、様々な事柄を説明することができるようで、意外なところでその文字を見かけることがあります。


 難しいことは分かりませんが、身近な例だと味噌汁が冷えていく時に椀の中の味噌がくるくると渦巻く、ああいったパターンを指すようです。

 がっちりと固まってないで、外からの刺激やエネルギーのやり取りがあるときにだけ見せる"一定の構造"ということのようです。



 本編にて"外敵がいた方が発達する"、"モンスターがいるために史実より早いタイミングで変化が起こる"などと書いてきましたが、これも散逸構造の理論といえるでしょう。


 確かにこの理論に則れば、ギリシャで哲学が発達した理由や近世ヨーロッパが爆発的な成長を遂げたのには、"安定した状態でありながらも不安定な要素がある社会だったから"という理由づけができるようです。

 敵対勢力がいたり国民感情が不安になりながらも生産能力や基盤が十分だったということでしょう。

 逆に鎖国をしながら安定した世の中を作り上げた江戸時代は、文化や学問こそ発展しましたが、国の勢力としての発達は緩やかだったといえます。



・散逸構造からみるファンタジー世界


 "ぎりぎり負けそうな敵に対して、集団がなんらかの努力をして勝利する力を得る"という状態が短い期間で繰り返し行われると、その集団は大きく成長します。


 ファンタジー世界で例えるのならば、だんだんと強い敵と戦うゲームの主人公のようなものといえるでしょう。

 いきなりラスボスと戦わされるような状況にはならず、たえず少し強い敵と戦いつづけるという環境に身を置くことで、主人公はその世界ではありえない強さを手に入れることができるのです。


 もちろんいきなり強敵と戦わざるを得ない状況になってしまった不運な国家はすぐ滅ぼされてしまいます。

 ”自国の数倍の勢力を持った敵国”という描写をよく戦記物で見ることができますが、その状況を軍事的に解決することは不可能です。


 味噌汁を冷凍庫に放り込むようなものです。数倍の勢力を持った敵国がいるなら、素直に恭順するか、敵国の敵国と同盟を結ぶなどといった、外交的勝利を目指すほかありません。

 

 現代はあらゆる面でのグローバル化によって一応の平和は保たれていますが、エントロピー増大の法則というものもあります。味噌汁の器が世界規模になったことによって、容易に崩壊することはありませんがそれも永遠ではないでしょう。


 散逸構造の理論という話は未来を予期させる話でもあるのです。

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