ドワーフの専門技能と職業への偏見
前回に引き続き、人に近い容姿を持っている種族、ドワーフについて書きたいと思います。
様々なファンタジー世界に登場するドワーフですが、それ故にイメージは固められ、そこから大きく外れたドワーフというのはあまり見ません。
鉄鋼業に特化した技術を持つ彼らから、職業について考えてみます。
・ドワーフの生態
・ドワーフの食糧事情
・欧州中世の職業に対する価値観
・架空種族の専門技能
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・ドワーフの生態
ドワーフの一般的な容姿はどのようになっているでしょうか。
手足は短くずんぐりとしていて、ひげをもじゃもじゃとはやしています。
力が強く、鍛冶、工芸、石工の技術にすぐれ、鉱物の知識を持っていて、場合によっては機械に強いこともあります。
酒飲みで陽気な性格として書かれることもあれば、職人気質で気難しいと書かれることもあります。
敵を激しく憎み、味方には暖かく優しいというのは共通している気質でしょう。
戦いに臨む際には斧や槌、大剣を使用しており、ここからも力が相当強いことが伺えます。
鉱山を居住地としていて、人間とも関わり合いを持っていることも多いでしょう。気に入った人間には技術の結晶である業物の剣を授けることがあります。
一方でエルフとは致命的に仲が悪く、お互いに悪口を言い合うといった描写をみることができます。
その理由としてよくあるのが、エルフは森を育てて活用していく立場であるのに、ドワーフは森を切り開いて行くので利害がぶつかるというものです。もしくは出身神話による対立なのかもしれません。とにかくお互いに野蛮人だと罵り合います。
これは少し外れた話なのですが、前回書いたエルフはゲルマン神話出身なのに、その対になる存在として置かれるドワーフが北欧神話出身なのは面白いと思います。
おそらく指輪物語以降でしょうが、本来異なったところに生息していた架空種族であるエルフとドワーフが、グローバル化の波によって今ではファンタジー世界の双璧となっています。良い時代になったのだなぁとつくづく思います。
・ドワーフの食糧事情
ドワーフが人間と交流を持つ理由は、おそらく食糧事情にあるのでしょう。
というのも、彼らもまた、農耕技術を持っている様子がないのです。
その点エルフは狩猟採集をしてると考えることができますが、ドワーフにはそういった産業はなさそうです。金属を食べるわけではないようなので、どこからか食糧を入手しなければなりません。
金属製品を人間に輸出して農作物を輸入しているのかもしれません。農耕をしないとなれば酒造技術を彼らが持っているとは考えにくいので、彼らが大好きなお酒もまた、主な輸入品目のうちの一つでしょう。
"昔は農耕もしていたけど人間と交流するようになって鉄鋼業に専門化した"と考えることもできますが、食糧生産を他の種族に頼るというのは、非常に奇妙な種族です。
・欧州中世の職業に対する価値観
また私が不思議に思う点の一つとして、人間と友好関係を築いている事があげられます。
というのも、史実中世における欧州の木材信仰というのは特筆すべきものがあるのです。木は人間が用いる資材の中で、育ったり病気になったりと、命を持ったものとして考えられてきました。
呼吸する材料ということに神秘性を見出し、欧州では様々な意味づけをしてきたのです。
永遠性という意味では石も合格ラインだったのですが、金属はアウトでした。
曰く、金属は木(命)を燃やして作られ、理解不能(当時の人から見たら魔術的な)な変異を起こして精製される、命を奪う物質(道具)であると。
今からみればおかしな価値観ですが、神秘や迷信が力を持っていた当時ではこういった考えがなされます。
かといって、金属の道具は生活向上には必須だったので一貫することもできず、その線引きは複雑でした。
中世ヨーロッパではほかにも忌み嫌われた職業がありました。定かではないですが、以下のようなものです。
- 肉屋(残酷で金持ち)
- 木こり(木を伐採する、命を奪う)
- 炭焼き(木を焼く)
- 鍛冶屋(火を操り鉄を生み出す)
どうやら残酷なイメージが嫌われていたようです。キリスト教の教えが浸透しているので、悪魔や地獄を彷彿とさせるものは、どうしても嫌悪感が出てしまうのでしょう。
たしかに製鉄する炉をみて、地獄のような有様と思っても不思議ではありません。大きな包丁や斧を振り回すさまは処刑人を思い起こさせるでしょう。もしくは、鋸が残酷に映ったかもしれません。
とはいえ聖書の重要人物、イエスキリストの養父ヨゼフの職業は大工です。これは流派によって変わることのない記述で、どうやら大工は良いイメージとして扱われていたようでした。
木を別の物に生まれ変わらせるといったところでしょうか。
製鉄業関連の仕事は不気味だけど、金属は利用せざるを得ないという感情が人々の中にあったように思えます。
これらの例をみると、ファンタジー世界の欧州的な価値観を持った人間がドワーフと仲良くするというのが、あまり自然には思えないのです。
背が低くて力が強いのならば坑道を広くとる必要はなく、その特徴は非常に有利に働くでしょう。
ドワーフは背が異様に低いという身体的特徴や食糧生産事情といった点から考えると、ともすればドワーフの種族の祖となったのは――という気分が悪くなるような発想さえできてしまいます。
ドワーフという種族が進んで鉱業に詳しくなったというわけではない、などとは考えたくありませんが、仮にファンタジー世界の人間が、ドワーフに蔑称のような意味合いを込めているのならばそれは説得力を帯びてきます。
ドワーフは出身が北欧神話なので、北欧と西欧との価値観の違いから、彼等が西欧社会にやってきてしまうとこういった些細なぶつかりが生まれてきてしまうとも考えらます。史実西欧は森で暮らすエルフのテリトリーだったのです。
ここに何か設定をくっつけ、上手く連結させるのも面白いかもしれません。
・架空種族の専門技能
友好関係や食糧事情、職業のことを考えると、人間とドワーフは同じ経済環境のなかに存在しているといえます。
ドワーフに関していえば、一つの独立した種族としてみるよりは、人間社会の中の職業集団としてみた方が考察は自然に行えることでしょう。
鉄鋼業に精通する彼らは、架空金属の取り扱いにも長けていたでしょうから、非常に力を持つことになります。この先、ファンタジー世界で剣のみならず大砲や銃器も製造するようになるならば、例えばオランダの技術集団のように、大きな力をもつことでしょう。
エルフとドワーフは対立することが多いですが、種族がごちゃ混ぜになって二つの陣営で戦うというのはファンタジー戦記物でもよく見られます。人間の軍隊に他の種族が混ざることも多いでしょう。
代表的にはエルフの弓兵部隊でしょうか。
しかし冷静に考えれば、エルフは森の住人です。森では人間の戦場でも通用するような長距離射撃の技能が養われることはないでしょう。
富を生み出す畑などの生産施設は平地に作られるわけで、そうすると平地やそれを守る砦こそが争奪戦の焦点になります。ちょっと時代が進めば、都市が目標になります。
戦場はあくまで人間の都合に合わせたフィールドになるし、人間の戦術が用いられるのです。
エルフの適任は隠密行動にあるだろうし、ドワーフには工兵部隊や砲撃部隊が適しているでしょう。敵の城壁に対して坑道戦をやったかもしれません。
時代が進めばどうでしょう。
例えば、エルフの狙撃手、というのはかっこよさそうですし、身長が低いドワーフは戦車兵として活躍できる(フランスの戦車は小型化のために身長制限がありました)でしょう。
リザードマンの猟兵戦術だとか、ハーフリングの隠密部隊、獣人族の特殊部隊など、戦術や兵科が多様化するにつれて、ある部分に特化した種族というのは役割を持つことができると考えられます。
戦争では役に立たないだろうとしたドランゴンも、将来的にはステルス爆撃機や輸送機として活躍できるかもしれません。
ファンタジー世界でも中世以降は農業という技術を持つ人間が、その多様性と社会性を活かして段々と優位に立つとは思います。
そして時代が進んで文明文化の枝が広がることによって、その種族独自の特殊技能が輝く時代がくるというのは間違いなさそうです。
特定の職業に特化した種族の存在は、中世近世の固まった階級ピラミッドを固める要因にもなるかもしれませんが、うまく設定すれば様々な物語が生まれることでしょう。
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