ファンタジー世界の錬金術

 現実世界で錬金術の歴史は古く、様々な地域で研究されてきました。

 錬金術が発達した地域は、主なところだけで、エジプト、ギリシア、ヨーロッパ、イスラム、インド、中国と世界を網羅することができます。


 錬金術は目の前にある現象がどうなっているかを調べて、最終的には金を作り出す、不老不死になる、人工生命をつくるなどを主な目的としました。


 文明が安定してしばらくすると、世の理を解き明かして富と生命を作り出そうという流れになるようです。

 今でこそ錬金術も神秘術も真面目な顔をして取り組む人たちは少ないでしょうが、それらによってもたらされた物なくては、今の社会はありえません。多くの学問や文化の礎になったということは疑いようがない事実です。

 現実世界に錬金術が発達しなければ、様々な研究器具は開発されず、科学も大幅に遅れたことでしょう。


 冒険者や魔物、魔法があるファンタジー世界では、錬金術はどのような変化を生むでしょうか。


・学問と錬金術と魔法

・錬金術が目標とする物

・大学と学問分野

・錬金術が目標とする物

・冒険者と錬金術


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・学問と錬金術と魔法


 理を解き明かそうとする科学や哲学と、分からないままにしておく宗教は、西洋においては対立してきました。

 科学、哲学、芸術、神学、法学はもちろん一合一離しながら発展してきましたが、科学と宗教の対立が根深いのはご存じのとおりです。

 ここでは前者を錬金術、後者を神秘術として、話を進めていきたいと思います。



 さて、ファンタジー世界で史実と似たような錬金術は発達したのでしょうか。

 神や精霊の存在が確認できるために、まず神秘への否定が発生しない可能性もありますが、十分に人間社会の生産力が上がれば、科学的な方面が発達するでしょう。 実際、魔法は火水風土などの4属性に分類されることも多く、この四大元素という分類方法は錬金術や哲学の領域です。


 もしかしたら錬金術こそが魔法の正体なのかも知れないと考えることも不自然ではありません。そう考えれば光や闇といった属性が神秘術の領域になりそうです。

 もし、現実世界で研究の成果として魔力の発見に成功していたら、錬金術はそのまま魔法になっていたのかもしれません。



 このように錬金術はファンタジー世界でも発達していると考えることに無理はありませんが、史実の錬金術の大きな成果である火薬や塩酸などの副産物の存在は、ファンタジー世界ではあまり確認できていません。


 だから錬金術はなかった、としても良いですが、魔法生物やモンスターの存在が関係していると考えれば別です。

 ユニコーンやフェニックス、ドラゴンなどが"実際に"いるために、研究の手法や材料が史実とは異なるのではないでしょうか。金属も違うとなれば、史実とは異なる成果が期待できます。



・大学と学問分野


 ファンタジー世界で、魔力や魔法について言及した学問についての描写は、お目に掛かる機会が少ないので、どんな分野が発展するのか想像の域をでません。

 おそらくこの段階ではまだ魔法という現象を解明する動きには至ってないのでしょう。


 というのも中世盛期に創設された大学等の研究機関は、神学や法学、医学を専門としていたのです。

 これは時の権力者が、その分野を研究させるために大学を建てたからですが、これには歴史的な理由があります。


 そもそも宗教と法は辻褄を合わせなければならず、そのために大昔から研究されてきた分野でした。権力者がその椅子に座り続けるためには、自分がその椅子に座るのが"社会の決まり事"というような一文を作り出す必要があったのです。


 その一文の塊が法典や聖典になるわけですが、過去の事例や現状を鑑みて、ぶつかり合わないようにしなければなりません。そういうわけで紀元前からずっと、権力者は宗教や法に興味を持っていたのです。

 また王権神授説に見られるように、欧州の価値観は癒しの力に特異性を見出しているので、医学に興味を持つのも頷ける話です。



 このように宗教が大きな力を持っていた中世では、真理を暴き出そうという科学的な動きはないはずです。

 神学法学医学の3つは権力者に必要とされているから集中的に教育、研究されていると考えれば、少なくとも初期の大学では戦闘や技術といった側面を持つ魔法学は入らないことでしょう("初期の大学"とは史実の1100年ころに登場したものです。だいたいのファンタジー世界はこの時代と同等の文明レベルを持っているだろう、と私は考えています)。


 研究されるとしたら民間か、領主お抱えの研究室です。騎士の戦闘技術や職人の新たな技法と似通うからです。そうして発生した魔法学が次第にその重要性を認知され始め、大学の一分野として登場します。そしてもし世の真理を解き明かすという科学的な目的を持つことになれば、"魔法と宗教"の争いが起こるかもしれません。



・錬金術が目標とする物


 錬金術の本来の目的は、メジャーなところで2つあります。人工生命と金の生産です。この二つがその世界にあれば、逆に錬金術は存在していた、と言えるでしょう。


 先ほども書きましたが、魔法生物が存在することで、現実世界と錬金術の発達の仕方が全く違うものになると考えれます。強靭な生命力を持つ魔法生物はいろいろなインスピレーションを錬金術師たちに与えているはずです。


 ゴーレムなどの自動人形やキメラといった合成獣は多くのファンタジー世界で確認できるので、人工生命や人工知能の分野でも研究は随分と進んでいるように見えます。

 つまり、ファンタジー世界での中世レベルに、錬金術はある、もしくはあった、と考えれます。

 


 対してもう一つの分野、金の製法はどうだったでしょうか。代表的なところだと賢者の石の有無ですが、そのほかに別の角度からもその試みの結果を見ることができます。


 金貨銀貨が経済に使われており、金貨が上位の貨幣として役割を持っている世界はよくあります。金の価格が暴落した様子はありません。


 すなわち金の製法の発見には至らなかったようです。


 重金主義が広がっているなら別ですが、そのような描写は見たことがありません。ただ、前の頁で書いた、冒険者による市場への素材流入が始まると、金貨銀貨の値段が高騰して、釣り合いが取れていたとも考えられますが、設定として作りすぎな気もします。


 ただ現実世界では鉱石についての様々な研究は、金を生み出す研究によって進められた経緯もありますので、金を作り出す、という目標を掲げた人がいてもおかしくはありません。

 というのもファンタジー世界では希少金属は現実世界以上に存在しています。ミスリルやオリハルコン、ヒヒイロカネなどがそれです。


 金の価値は相対的に下がるはずですが、金は貨幣用金属として多くのファンタジー世界に登場しています。金は使い勝手がよく煌びやか、という性質は十分に通用するようで、どんな世界でも一定の価値を見出されています。


 金を作り出そうとした結果、希少金属に対する理解が深まれば、それは錬金術分野の大きな成果でしょう。



・冒険者と錬金術


 冒険者や騎士などの戦士層が求めてやまない金属が、ミスリルなどの魔法金属です。武器や防具をより強固なものにするのであれば、これを研究しない手はありません。

 おそらくこれらの製法や利用方法は領主や豪商に囲われた錬金術師達によってずいぶん熱心な研究が進められているに違いありません。


 どんな成果が出てくるかは、史実を武器にしても不明です。魔法金属に反応する液体や素材も発見されたかもしれません。


 権力者がお金になる、と判断した場合、その技術は秘術として錬金術士を監禁してでも秘匿され続けているのです。

 その場合、世界を旅する冒険者御一行に、その技術が披露されるのはあと何十年も先のことになるかもしれません。もしくは、錬金術によって作られた品を提供することを武器に、領主が冒険者ギルドに対して優位に立つ展開も考えらえます。



 こうなってしまうと、冒険者たちはその研究成果を利用できなくなってしまいます。ただ冒険者や冒険者ギルドは社会的な力もある程度持っているため、自前で研究所を立ち上げてしまうかもしれません。

 自分たちにとって重要な技術を秘匿し続ける領主を、冒険者たちが放っておくとは思えません。


 何しろ自然から材料を採取する仕事は、冒険者が受け持っているのです。

 豊富な資金があったとしたら、冒険者ギルドは冒険者に依頼を出して希少な素材を入手してきてもらい、ギルド内での錬金術研究を進めることができます。


 現実世界でも、ギルドがこういった研究に力を入れる、という話はよくあります。莫大な報酬を武器につぎ込む冒険者であれば、強力な武器を作り出すために研究機関を設立する、ということは十分に考えられます。

 これは、先のページで書いた、兵器の進歩と直接的に関係することでしょう。


 冒険者ギルドには装備を研究する鉄工所のほかに、薬草や金属や魔法を研究する施設があってもよさそうです。もしかしたら、その研究所は研究員を育成するための学校となるかもしれません。


 冒険者は武力を担保に力を蓄え続けます。史実で商人ギルドや宗教団体が秘匿、独占していたような分野でも、勢力を伸ばすことは可能でしょう。

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