パーティー編成と冒険者ギルドの思惑


 ファンタジー世界で魔物と戦う冒険者は、どういう編成を組んでいたのしょうか。ここでは史実の軍隊の兵種や戦術思想に則って見てみたいと思います。


 軽歩兵、重歩兵、軽騎兵、重騎兵、攻城兵器、工作部隊、補給部隊、医療チームなどの部隊が歴史には登場しています。


 基本的に兵種というのは走攻守の項目で見て行くと差が分かりやすいと思っています。

 もちろん継戦能力や奇襲能力など、用兵レベルでの得意不得意はありますが、ここでは置いておきます。


・軍隊の走攻守

・冒険者の走攻守

・パーティーの人数とギルドの思惑


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・軍隊の走攻守


 兵種は走攻守のどれかに特化しています。その結果重大な欠点や弱点ができたとしても、それを完成型としている場合が多いでしょう。これは必要に駆られて生まれ、目的に沿って進化し続けてきた結果です。


 例えば第一次世界大戦に出自を持つ戦車ですが、第二次世界大戦末期から、軽中重という区分を取り払った、主力戦車という兵器の開発が進められました。

 それぞれの良いところを取って、走攻守全てにおいてハイレベルにまとめた車両が、主力戦車と呼ばれる戦車です。これが成功し、主力戦車は戦後陸軍の核となり、軍隊の象徴となりました。

 こう書くと一見弱点がなくなったように思えますが、それは戦車というくくりで見た場合であり、ヘリコプターなどには依然として弱いままであり、しかしそこはある程度割り切って現在でも開発が進められています。

 ヘリコプターへの対策は歩兵や対ヘリコプター用に開発されたヘリコプターが担当するからです。



 また、近世の軍編成は三兵戦術(散兵戦術とは別もの)に基づいたものでした。

 これは歩兵、騎兵、砲兵の三種を1セットで運用する戦術です。


 歩兵は槍とマスケット銃を装備していて"守"を担当し、"走"を担当する騎兵には突撃騎兵の他に、短銃を装備した竜騎兵という兵科が登場しました。

 砲兵は軽量化に成功したために、陣地破壊のほか、野戦で"攻"として使われるようになりました。



 用兵とは兵種の特性を破壊力に効率よく変換することであり、そして単体が持っている大きな欠点を、他の兵種によって補うことであるといえます。

 この関係を満たし完結したものであれば、特定の地域の戦闘において、単独で作戦行動を遂行できます。


 またそれと同時に、各兵種ではその役割を活かした、安全領域の確保、維持というのが大切な要素になってきます。

 兵器が持っている利点を生かして、他の兵器が持っている利点が十分に発揮できるようにする必要がある、ということです。


 よく補給線が伸びきって――という描写を戦記物でみますが、これは占領した領土の安全領域が損なわれた結果です。

 戦略という観点で見れば、"軍隊"も要素の一つであり、これが拠点から敵を遠ざけ、その拠点や拠点が形成する補給線、支配域を守るという結果につながるのです。


 例えば弓兵部隊などの近接攻撃に弱い兵種は、密集陣形を組んだ重装歩兵に守られた領域にいる必要があります。


 また、将棋で王将を囲うというのは、安全領域を確保する行為です。ある程度の時間を耐えたり、侵攻ルートを限定できる陣形を組まなければ、思わぬ攻撃で敗北する可能性があるのです。



・冒険者の走攻守


 これらの点を踏まえて、冒険者が組んでいるであろう編成を考えてみたいと思います。冒険者が組むパーティーは基本的にそれ単体で想定される場面に対処できるようになっていることが条件であると言えるでしょう。

 職業は言い換えれば兵種であり、パーティーのメンバーは走攻守を担当し、そしてお互いに安全領域を保持しあわなければなりません。


 もちろん冒険者という兵士カテゴリが純粋に散兵戦術的な発想で動くのであれば、遠距離武器で攻撃して逃げるという事になります。

 しかし様々な事情から冒険者たちにはやはり近接する必要があると思われます。



 相手の攻撃を止めて攻撃担当が真価を発揮できるようにする守備担当。柔軟に動いて領域を維持し、隙を作り出したり、隙を突いて戦況を有利にすることを目的とした速度担当。そして自慢の火力で敵の守りを一気に打ち崩す攻撃担当。

 史実軍隊の発想を見れば敵対勢力を打ち崩すには基本的に、この3つが必要となることが分ります。


 そして武器は、拳、盾、短剣、長剣、斧、槍、両手剣、槌、短弓、長弓、あたりでしょうか。これに魔法が加わっています。



 守備担当は戦線の維持と、相手の戦線を打ち崩すのが目的です。

 しかしながら冒険者がゲームのように、金属鎧を着こむのは無理があります。史実の全身鎧は20㎏前後あるというので旅には不向きでしょう。灼熱や極寒、多湿といった極端な環境でのパフォーマンスも期待できません。

 突進力を抑えるために史実中世近世で利用された槍衾も、人数的な面から不可能です。


 ではどのような手段があるのかといえば、あらゆる攻撃を防ぐ盾を装備して解決した、と考えることができます。

 防御機構がない戦場では盾は、最も効率的な防御構築方法の一つです。ほぼすべての時代で様々な形の盾が存在することをみれば、そのことは明らかでしょう。現在でも主な防御方法として盾は使用されています。



 盾にも種類は複数ありますが、防御専門ともあれば色々な盾を持っていくというスタイルは許されそうです。

 防御を専門に担当する冒険者は、これから赴く土地で最も有効な種類の盾を出発前に吟味し、これというものを持っていくのです。

 相手の物理的な攻撃を耐えるだけならば史実に登場したような盾でいいかもしれませんが、ドラゴンや魔法を使ってくるモンスターがいる以上、それだけでは足りないでしょう。


 すべての環境に対応できる兵器が存在しないように、すべての攻撃に強い防具というのはありえない、と考えられます。

 なぜなら、それを加工する時はその物質の形状を変化させなければならないわけで、したがって加工方法と同じ攻撃をされれば、当然変質してしまうのです。


 現代でも物質の耐久力を表すときに、様々な○○耐性というのを見ますが、やはりどれにも強いというのは考えにくいのです。求められるのは、予想される攻撃に対して、的確な盾を選ぶことだとしても不自然ではありません。


 また、防御手段という意味では馬上の騎士がもつマインゴーシュ(左手、という意味)というナイフもありますし、騎兵に対抗するために地面につきたてる杭もあります。槍も比較的防御を重視した兵器といえるでしょう。

 敵のあらゆる攻撃に対応するため、戦線を維持し続ける冒険者は、数多くの手段を所持していたに違いありません。



 速度担当の冒険者は相手の遠距離攻撃を何とか潰したり、散兵的立ち位置のモンスターを倒す必要があります。たとえばゴブリンメイジや吸血コウモリ、のようなモンスターが良く小説にでてくるところでしょうか。


 それに加えて地形の偵察や敵襲撃の察知など斥候的な役割や、追撃や攪乱などの軽騎兵のような役割を負う必要があるでしょう。


 例えばそこに敵がいないという情報を得ることも、立派な防御方法、安全領域を確保する手段の一つです。ある一方を守る必要がないとわかれば、防御担当は他のところを守ることができるからです。

 様々な役割を追う一方で、ドラゴンのようなモンスターが来た際には意味をなさないかもしれません。


 これは弩で武装した都市に対するモンゴル騎兵や、対空防御がしっかりとした拠点に対する飛行機のようなものです。

 速度を重視した兵種は、防御力には真っ向から立ち向かうことはできないのが常です。その場合は潜入や工作といった浸透力に頼ることになりますが、ファンタジーでいうなら毒や軟化魔術的な何かがそれにあたるでしょうか。



 攻撃担当は相手の勢いを削ぐことと、機能を停止させることが目的です。

 この二つの違いは、時間当たりの破壊力を重視するか、一撃あたりの破壊力を優先するか、というものです。

 例えるなら小さな火の玉をポンポン飛ばすか、巨大な火の玉を一発撃つかといえるでしょうか。


 人間同士の戦場にて攻撃担当である兵科は、結果的に見ると遠距離攻撃を行う部隊になります。

 しがし少ない人数で確保された領域の中で、少ない人数で攻撃力を発揮しなければならない攻撃担当の冒険者にとって、弓を撃つというのはいかほどの戦果を挙げられるものなのでしょうか。


 例えば、射撃兵器の火力の指標の一つとなる、射撃回数はどうでしょう。

 会敵してから接敵するまでの時間が短ければ、射撃機会は減少し、それは攻撃力の減少に直結します。

 抗争に参加する人数と、会敵距離は比例します。大軍であればあるほど遠くから敵を発見できるからです。


 少人数同士で行われる戦闘ということは敵と対する距離が短いということになります。これでは射撃担当の兵科はその火力に制限をかけられているようなものでしょう。単発火力を重視する魔法攻撃であれば、若干有利かもしれませんが、その身が危険にさらされる距離にあっては同じことが言えます。


 そう考えていくと、十分な攻撃力を確保するには、そのための兵種を用意する必要が出てきます。接近してから攻撃力を発揮できるタイプの兵種が必要なのです。


 つまり両手剣や槌を装備した、防御も速度も捨てた冒険者です。彼らは攻撃を上手く防御担当の冒険者に防いでもらいながら、強烈な斬撃や打撃をモンスターに打ち込むスタイルを取ります。 

 敵の攻撃を防げない彼らは仲間を信用せざるを得なかったし、防御担当の冒険者にとっても攻撃担当が勢いを削いでくれなければ耐え続けることは難しいでしょう。



 もしくは突撃騎兵のように突進力や圧倒的な戦闘能力を発揮できる戦闘方法が開発されたかもしれません。例えば防御担当が防ぎ、その後ろで加速魔法的な何かを使い、弾丸のように突進する格闘家や盗賊のような職業です。

 また、(毒や熱などで)近寄れないモンスターがが出てきた際には、別の兵科が活躍することになります。


 このように保管しあう形であれば、先のページに書いた、冒険者同士の信頼度は増していくことでしょう。組織的にも旨味のある戦術ではないでしょうか。



・パーティーの人数とギルドの思惑


 次に人数やバランスについて考えてみます。どれくらいのパーティー規模でどのような職業比率がそこにはあるのでしょうか。


 2,3人の防御担当の冒険者に、同数程度の速度担当の冒険者。これに近距離攻撃担当の冒険者に遠距離攻撃担当の冒険者が1人ずつ。

 計6人から8人程度。


 私はこのような形ではないかと思います。

 この比率には意味があります。保護対象に対しては、数倍の人員を割かなければ守り切ることはできません。SPに守られる要人や王将を囲う駒の多さ、近世の大砲に対しての全体の兵数などをイメージしてみればよいでしょう。


 単純計算でも前と左右の辺を守るだけで3倍必要になるのです。

 攻撃担当とそれを囲う兵士の数の関係性はこのようなものでしょう。攻撃力を増せば増すほど維持するための人員は膨れ上がります。


 では人数は自由に増やせるのでしょうか。

 残念ながらこれは二つの点から不可能だと考えられます。


 パーティーの維持費が増え、日数当たりの取り分が減ることと、そしてもう一つは冒険者ギルドによる制限がかかるだろうということです。


 "名声あるS級パーティー"、"勇者パーティー"なるものが、よく登場してギルドに所属していますが、一つのパーティーが大きくなり力を持ちすぎるのは、実はギルドからしてみるとデメリットの大きい状況です。


 力が増えてそのパーティー自体が名声を得れば、ギルドを通さないで依頼を受けたり、ギルドの制限を受けないパーティーというものが生まれる可能性がでてきてしまいます。 

 そうなれば冒険者ギルドの権威を著しく低下させる要素となるでしょう。


 ギルドにとって必要なのは、組織にとって都合がいい編成です。

 実のところ私は、冒険者ギルドに徒弟制度がないのは、これが大きいのではないかとも思っています。

 徒弟制度は帰属意識を高めますが、冒険者ギルドというケースで考えてみれば、それを利用して権力、勢力を拡大するパーティーが出てこないとは限りません。


 ぎりぎり勝てる戦力で、モンスターを討伐していく。そうすれば冒険者の儲けも多く、ギルドも安心できる。冒険者にとっても、冒険者ギルドにとっても重要なことであるといえそうです。


 冒険者はギルドによって厳密にランク付けされて戦力把握が行われているのもこれによって説明が付きます。各依頼に適切に冒険者たちを放り込むことによって、冒険者たちの統制を行っているのです。

 ギルドが欲しているのは、通常のパーティー5つ分の働きをする特別なパーティー1つではなく、適切に力を合わせて依頼をこなす5つのパーティーでしょう。

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