兵種から見る冒険者の装備
生物が病原菌に対して抗体を持ったり発熱したりするように、人間社会は外敵が出現すると対抗策として武装します。それはどんなに未熟で原始的な社会でも条件なく発揮されます。
狼や盗賊、他民族、他にも悪人や思想、不景気などにも、社会は常に対応しようとするのです。それに失敗すると、その国家は滅亡してしまいます。
それはファンタジー世界でも変わりありません。
モンスターという外敵に合わせて、人類は様々な対応策をとったことでしょう。たとえば、指導者は冒険者という職業を作ったり、騎士を更に強化したり、異世界から勇者を召還することで、モンスターに対抗することとなります。
では個人レベルではどうでしょう。
近接兵器、遠距離兵器、魔法、冒険者と書いてきたので、冒険者がモンスターと戦う際にどういう方法をとったのか、様々な面から考えてみたいと思います。
これらを考察することで、冒険者の在り方やギルドの様子を考える際のヒントを得られることでしょう。
冒険者のほとんどが区分される歩兵という兵隊は、どういう戦い方をするのでしょうか。
このページでは史実の軍隊に触れ、兵種や武器を通して冒険者を考えてみます。
・歩兵という兵種
・冒険者という軽歩兵
・冒険者の装備に求められること
・武器の利点と欠点
・改訂版限定追記 - 特殊な武器が普及してよい世界
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・歩兵という兵種
どんな時代でも、軍隊には2種類の歩兵が存在していました。
軽歩兵と重歩兵です。
もちろん時代によって役割や装備は変わりますし、軽重の区別は相対的なものです。
大抵の場合重歩兵は攻撃力と防御力をそなえていて壁を作るように運用されます。
逆に軽歩兵は機動力や運動性を高めた装備を持っていて、少人数で運用されてきました。
前者は防御力と制圧力があり、後者は機動力と浸透力を持っています。
重歩兵の主戦術となる方陣戦術は、(古代ローマのファランクスにしても銃器を持ったスペインの取った戦術にしても)騎馬部隊などに対して圧倒的でした。
ただ側面や背後からの攻撃に弱かったり方向転換ができないなどの欠点があります。小回りがきかず、現場での運用も大変でした。
軽歩兵は、そんな方陣戦術に機動力と射程で攻撃を仕掛け、分厚い壁を切りくず役目を負っていました。
ただ監視役がいる重歩兵での運用と違って、愛国心などの兵士に戦う理由がなければ脱走の危険があるので注意が必要でした。士気が低く自発的に戦争に参加する事がない場合、指揮官は集めた兵力をなんとかまとめて敵にぶつけることに心を砕きました。
古代ローマでは重装備を整えた市民が重歩兵として戦争に参加していました。
中世でははっきりとした区別はなかったようですが、馬対策のための長槍兵と相手方の歩兵を崩すための射撃兵が、中央に陣取っていました。
近世から近代初期ではずらっとマスケット銃兵を並べて運用する、戦列歩兵が主になりましたが、指揮範囲や地形の問題で、展開しづらくなってきます。
鉄道が開発されて一つの戦場に参加する兵数が増え、戦列歩兵の防御力が高かったのもあって、いくらかの兵士は新しい戦術で運用する必要が出てきました。
少数で有効打を与えられる兵器が開発されたのも後押しします。
そうして戦列歩兵という重歩兵に対して、機動力を生かした散兵戦術をとってその陣形を崩す、軽歩兵が登場するようになります。
現代の軽歩兵と重歩兵は装備が変わるというわけではなく、車両を装備している点かどうかで区別するようです。
・冒険者という軽歩兵
単数または少数のチームで行動し、それぞれが意思を持ってモンスターを殲滅していく冒険者のありかたは、軽歩兵に相当します。。
"自由を愛する個人主義"と描写されることの多い彼等の性格上、組織的な動きは期待できず、大規模な防衛戦になった場合でも、冒険者は地域のみ決めて、各々が防衛にあたるというのが理に適っています。
ゴブリンや人狼、マーマンにドラゴンと、多種多様な外敵を相手取らなければならないのがファンタジー世界の現状です。指導者にとって、私兵にマニュアルを教え込むのはとてもではありませんが現実的ではなさそうなので、こういった兵隊が領地に必要だったと考えることができます。
そんな冒険者達が、どのようなモチベーションを持って参加していたかは分かりません。これが、冒険者に関していくつかある"不可解な点"の一つです。
なぜわざわざ命の危険があるようなところに出かけていくのでしょうか。そういったことについて、納得のいく描写はあまり見かけません。例えば市民権を得るためには勲功を上げなければいけないだとか、税として賦役が課されているとかが考えられますが、あまり一般的ではないようです。
しかし多くのファンタジー世界で、モンスターとセットで登場しているところを見ると、突発的で数の多いモンスターの襲撃に対しては、彼らの存在はなくてはならないものだったのです。
・冒険者の装備に求められること
冒険者たちはどのような装備で戦闘を行っていたのでしょうか。
前提として、冒険者は数をそろえることができないので、物量で欠点を補うことができる武器を選ぶことができません。またそれに加えて、"物語の都合上"、旅をする必要がある、色々なタイプのモンスターを相手取る必要があるなどの条件も満たさなければいけません。
特殊な例を除けば、騎士は土地に縛られる軍人です。
したがって、担当する領地に生息する特定のモンスターにだけ対応できれば良く、装備は千差万別になっていることでしょう。対して冒険者はあらゆる敵の攻撃に対応でき、劣悪な環境でも行動しなければなりません。
各地を旅し様々な敵と戦わなければならないということは、冒険者に一般的に求められる要素です。
そんな冒険者の装備はどういったものでしょうか。
メンテナンスのしやすさや信頼性も重要で、専門知識や技術、高価な材料、設備がなくても修理できることが必要になってくるでしょう。そしてできれば持ち運びがしやすく、ある程度の状況に対応できるのが理想です。
そうすると全身鎧やコンポジットボウを装備するのは考えられません。金属の装備は何かしらの加工をしないのであれば環境に弱すぎるし、(史実の)コンポジットボウは環境や気候の変化に弱いのです。
これらを踏まえて各武器の特徴を見ていきましょう。
・武器の利点と欠点
冒険者の武器は剣が良さそうとファンタジー世界の住人は判断している状況にある、ということを近接武器の項で書きました。
とはいえ、例えばとびかかってくる動物を剣で倒す描写はよくありますが、200㎏前後の塊がこちらに向かって時速60km以上で吹っ飛んでくるとイメージすると、それに剣で殴り掛かるのはなんだかおかしく思えます。そもそも剣は人間の皮膚を切り裂くことを目的に設計された武器なのです。
槍の利点は相手との間合いが取れるので、リスクや恐怖心を抑えることができる点にあります。さらに敵の突進力を抑えるには一番の兵器といえます。金属部分や刃渡りが比較的小さいのも特徴で、メンテナンスの手間や重量、価格も抑えられることでしょう。
しかし騎兵や達人ともなれば話は別でしょうが、基本的に槍は集団で使用するものです。数に頼ることができない冒険者が扱っては槍の利点が一つ奪われてしまいます。
また、実際に騎兵の突進を槍兵軍団が迎え撃つ場合は、杭を打って備えたといいます。槍を効果的に使うならそれなりの工夫が求められるでしょう。
両手剣は現実世界でも多く作られていたようです。ヨーロッパ各地の博物館に行っても、両手剣は数多く陳列されています。儀式的な意味合いを持つものも多く、古くから力の象徴だったことでしょう。
しかし史実での両手剣は近距離に対応できない長槍兵の集団に、しかも横から突っ込むという、反撃が来ない状況を想定して使われたのです。もしくは馬上からの攻撃に用いられました。
単独で使用するにはリスクが大きすぎますので、防御を捨てても良い状況になれば、両手剣が活躍できると考えることができるでしょう。
遠距離武器は相手と十分に距離があることを前提としています。当然接近されたら終わりなわけで、つまり接近される前に敵を無力化するという目的を達成する必要があります。
遠距離武器のスタンスは三つあって、接近される前に倒す、接近されないほど遠くから攻撃する、接近される前に逃げる、というものです。
一つ目は小銃やクロスボウ、機関銃、二つ目はライフル銃やロングボウ、自走砲等、三つ目は弓騎兵や一部の装甲兵器がそれぞれ相当します。
更に、これらには当然命中率や威力という問題が付き纏います。よって数に頼むか、様々な工夫によってしっかりと命中させるしかありません。冒険者の弓使いはこれらの問題をクリアできるのでしょうか。
このように各武器には沢山の利点と欠点があります。そしてそれは運用方法や状況によって変わることでしょう。
先に書いたように、戦争では数を揃えて叩きつける方法が取られるので、それによって補われる欠点があることも忘れてはなりません。
逆に、対応する数が多いばかりにその利点が潰され、他の兵器にとって変わられたという武器もたくさんあるでしょう。
冒険者たちは試行錯誤しながら、最適な編成を編み出していったのだと思います。それに関する兵法塾などというのもあったかもしれません。個人の技量を鍛えることはもちろん重要ですが、それだけでは生存確率はあがらないのです。
単一の武器に頼ればどうしても対応できる状況に限りが出てきてしまうわけで、冒険者同士でチームを組んでモンスターと組む必要が出てきます。そして冒険者は一般的な騎士や兵士とくらべて、様々な点が違ってきます。
次回は編成と装備という面から、冒険者の性質を考えます。
・改訂版限定追記
当たり前ですが、史実とファンタジー世界の状況は違います。
魔法の存在や敵対生物が人ではない、戦う層が富裕層ではなく国の支援も受けられないなど装備する武器が変わる要因は様々です。
つまり、史実とは違う形状の武器が発達する、普及する可能性が高いということです。
繰り返しになりますが、中世物で一般的に武器として扱われるものの中で、出自も用途も戦闘に特化している剣は異質な存在です。ファンタジーで違う武器が普及するのは、まったく不自然ではないと思われます。
また、取り上げることはありませんでしたが、史実中世(銃器が普及する前)では世界各地で大量の"特殊な剣"が登場しています。ショーテルやカタールなどは有名ですが、地域の数だけ剣があると言っても過言ではありません。
それぞれの地域で、それぞれの状況で、それぞれの敵に対応するために、色々な発想のもとにユニークな形状の剣が登場したのです。
それらは銃器が普及すると一気に姿を消してしまったようですが、これは間違いなく、"ファンタジー世界で一般的に登場している剣"に人類が必ず行きつくわけではないということを示しています。
武器はどんな物語でも影の主人公です。
"テンプレ"から外れて少し変わった武器を頑張って描写し、活用させてみるというのも、オリジナル要素になるのではないかと思います。
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