普及率からみる魔法の起源

 魔法はファンタジー小説には必ずといっていいほど登場し、現実世界では考えられないような超常現象を引き起こします。主人公の武器にも枷にもなり、生い立ちに密接にかかわっているような描写をされることも多い魔法。

 魔法の扱われ方は、そのファンタジー小説の色を決めるといっても過言ではありません。


 それくらい魔法は小説の根幹に関わってくる要素なので、そのルーツを探ることで、そのファンタジー世界の歴史を考察できるかもしれません。


・人類のルーツと魔法のルーツ

・魔法を誰が使うか

・いつ魔法が生み出されたのか

・魔法をどうやって使うか

・ひとつの世界の歴史を作ってみる


--


・人類のルーツと魔法のルーツ


 ファンタジー世界の人類が魔法という技術を手に入れたとされるのはいつのことでしょうか。

 これは小説ごとに記述が違っており、説明がない場合も多いと思います。


 思いつく(思い出せる)限り列挙すると、神が与えた、古代文明の遺産、神代の種族に人類のルーツがある、進化の過程、文明の興りとともに発明された、修業を積んだ僧から普及したといった感じでしょうか。


 魔法やモンスターの存在は人類のルーツにかかわる点でもあります。

 現実世界の進化の過程で誕生しなかったモンスターという存在があるので、現実世界と同じように人間が猿から進化したかも定かではないのです。


 もしかしたら本当に天界の勢力が魔法という技術を持った人間という種族を地上に送り込んだのかもしれませんし、史実同様猿から進化してきて古代に突然魔法の技術が発現したかもしれません。


 しかしここでファンタジー世界の神と人間の関係について例を挙げ始めるときりがないので、とりあえず人類は現実世界と同じように進化したと仮定します。

 もとよりその技術を持ってないとすれば、どのタイミングで魔法の存在に気が付くのでしょうか。これを考えることで、魔法を行使する方法やその変遷も推し量ることができるでしょう。


 火熾し、巨大生物との戦闘、祭典、祈祷や精神統一、占いなど、人類の歴史には神秘的で謎めいた要素が沢山あります。これら行動を人類が起こし始めたタイミングで魔法という技術が発見された場合、どのような社会が構築されるのでしょうか。



・魔法を誰が使うか


 まず初めに見ていきたいのは、"どの社会階級に魔法が普及しているか"という事です。


 現代のようによほど身分制度に柔軟な社会でなければ、人々が従事する仕事は所属階級に対応します。農業には農民が、戦争には騎士や武士がという具合であり、これは封建制を採用する社会では特に顕著です。


 また、技術は発見された分野でまず発達し、のちに他の分野に伝播します。


 逆にいえば普及している範囲を見ることで起源を探ることがある程度可能であろうと考えられます。

 魔法を使っている階級がわかれば、使われている分野もわかり、そうすれば起源もわかるだろう、ということです。


 どの階級が魔法を利用しているかということについては、いくつかパターンがありますが、3つ例を挙げてみます。



・貴族にしか魔力がなく、魔法が扱えることが貴族の条件である。


 この設定を持っている世界の場合、魔法はごく一部の家系のみが扱えればよかったのでしょう。人間社会の暮らしや生存競争に、魔法の力はそこまで必要ではなかったのです。


 そして昔から民をまとめる位置にある家に伝わっていることから、祈祷や占いなどから発展していったのだと考えられます。


 当然生活に影響するほど魔法は浸透しておらず、そうなれば発展に関わる人数は自然と少なくなります。バリエーション豊かな魔法というのは望めないでしょう。

 そのような世界では、戦場には中世ロシアのように貴族のみで構成された、魔法による戦闘技術を磨く精鋭部隊が主役となって出ていくことになりそうです。



・すべての人間が魔法を扱える


 全ての人間が魔法を扱えるというファンタジー世界がある場合、神によって与えられたという可能性(設定)を排除するなら、"そうならざるをえなかった状況に社会があった"と考えられます。


 全ての人間がその技術を持っているということは、魔力を扱うのが割と容易だったか、もしくは早期に発見されていたと考えられます。


 魔法は原始社会の時からモンスターとの抗争で使われていたことでしょう。

 原始社会ではすべての男性が戦士となって防衛のために戦闘に参加しますので、そのような過程で魔法の技術が共有されたのです。もしくは蓄財のための壺や時計の役割を果たす水瓶といった日用品にまで、魔法の技術は使われていたかもしれません。


 貴族しか魔法を使えない社会と比べ、多様な魔法を有した社会が出来上がることでしょう。



・治癒魔法が宗教関係者にしか使えない


 治癒魔法が宗教関係者のような特定の集団にしか使えないというような社会はどうでしょうか。

 こういった事例は世界各地で確認できますが、神秘的な事象が権威の為に秘匿され続けるとこういうことが起こります。


 仕組み自体が普通の魔法とは違っていて、宗教団体の研究分野として技術が独占されているのかもしれません。呪術的な意味合いを持つところに発祥があれば、こうなる可能性があります。

 治癒は不死や蘇生とつながる事柄ですので、それらは奇跡と結びつき、統治者の権威を高めるために利用されます。これは治癒魔法だけではなく、例えば王家のみに伝わる神託を受ける魔法とか、そういったものにも当てはまります。



 このようにファンタジー世界の中世において、魔法がどの階級で使用されているかをみれば、ある程度魔法のルーツを探ることができます。



・いつ魔法が生み出されたのか


 魔法のルーツは使用している層から推察することができますが、一方でその内容を見てみると、攻撃するための魔法が異様に発達していることが良くあります。


 竜巻を起こしたり雷を落としたりと、もはや自然を意のままに操るレベルにまで達している場合も多く、それは現代科学の域を容易に超えています。しかしながら、その技術はモンスターを殲滅することにのみ利用されています。


 こういった現象はその技術が発見されてから日が浅い場合によく見られます。

 優れた内容で大きな可能性を秘めていても、他の分野で応用されるにはある程度時間がかかります。


 そこで"戦闘魔法のみが発達した"という社会の成り立ちをいくつか考えてみます。



 まず一つ目は、魔法という戦闘技術を得るまでモンスターに安定して勝利を収められず、攻撃魔法を手に入れてからその研究に力をいれて生活圏を広げ現在に至るという世界です。


 この説はすこし無理があるでしょう。というのも、ファンタジー世界の文明は中世程度まで発達していなければならないのです。

 中世の水準を得るには、それ相応の余剰生産物がある社会が持続しなければなりません。常に生存が脅かされる状況では余剰生産物など生まれるはずもなく、ファンタジー世界レベルの多様性は生まれないでしょう。魔法のおかげでモンスターとの戦闘が安定するようになって中世になったのであれば、魔法が生まれてから相当長い期間が経っていることになります。


 そう考えていくと、先ほど述べた"技術が伝播する範囲は時間に比例するだろう"というものと反することになります。


 錬金術の研究によって魔法が発明されたとも考えられますが、その錬金術が発達するにも、まずは社会が安定しなければなりません。



 次に戦闘魔法がなくてもある程度文明圏は守ることはできていたが、モンスターの大規模侵攻の際、魔法が編み出されて瞬く間に発展したという設定を考えてみます。


 この説は、何故急に戦闘魔法が編み出されたのか、つまり何故今まで魔法を使えなかったのか、ということを説明できなければいけません。

 例えば魔法技術がすでに開発されていたものの、戦争に転用する発想がなかったのかもしれません。冷蔵や保温のような日常生活のための当たり前の技術として魔法が細々と存在していたとすれば、それを戦闘技術に使うことを思いついた時は人類にとってブレイクスルーに近いものだったでしょう。


 ただ、これでは前提である魔法が戦闘のみに使われている、という条件から少し外れてしまいます。



 最後に、ローマ帝国に相当する魔法が発達した文明が一度滅ぼされ、人類は暗黒時代に突入し、迫りくるモンスターの大群に対して必死に抵抗をつづけるかたわら、攻撃魔法の復旧を急いできたという設定はどうでしょうか。


 個人的にはこれを推したいとおもいます。

 始まりは何だったにしろ、魔法発見から長い時間を経て、ある程度生活全体に魔法が浸透した文明があって、それが崩壊したことで魔法技術のレベルが低下してしまったという説です。多くの技術者や書物がなんらかの理由で紛失してしまえば、技術は簡単に後退します。


 このように考えると、戦闘目的でのみ使用される魔法の説明が付きます。



・魔法をどうやって使うか


 またまた視点を変えて、今度は魔法の発動方法からルーツを考えていきたいと思います。


 魔法を使う人々は、どのような手法で魔法を操っているのでしょうか。

 魔法の発動方法には大まかにわけて3つのタイプを見ることができます。


- 体内の魔力を練って、外に放出する。

- 呪文を唱えて、望む事象を引き起こす。

- 何らかの方法で魔法陣を書き、そこに魔力を込めることで効果を得る。


 この3つの方法は似ているように見えて、全く違うルーツを考えることができます。


 まず1つ目の体内の魔力を練る方法は、己の中の状態を探るという瞑想や気功といったものに似ています。東洋的宗教や哲学に寄った考えでしょう。

 "瞑想をして世の真理を探ろう"と思いつくためには、ある程度社会が発達している必要があります。現代でメジャーである多くの宗教が古代から中世にかけて生まれています。



 次の呪文を唱える方法は、祈祷がルーツであると考えられます。

 というのも望む事象を得るために必死になって声にして出す、というのは雨ごいや神頼みの際の祝詞や真言に近いと考えることができるからです。タイミングとしては集落が形成されて指導者が誕生した後でしょう。史実でいえば太古に相当します。



 魔法陣を利用する方法は、記録や占い、もしくは数学がルーツでしょうか。やはりこれもある程度社会が発達してから開発される技術です。

 しかし象形文字や図面が偶発的に魔力的な反応を起こすさまは、想像しやすい事象ではないかと思います。

 その魔法の発動方法が、魔法文字によるのか魔法陣よるのかで、発生時期は大きく変わるでしょう。史実でも魔法文字であれば有史以前の遺跡から見つかっていますし、魔法陣であれば古代か中世どちらかの、その勢力が大きく力を持ったタイミングで発見されることと思われます。



 このようにどの層が、どういう分野で、どのような方法で魔法を使うかということを見ることで、魔法のルーツを考察できます。

 ただ大抵が古代初期に登場する文明が持っている技術にルーツがあるとすることができるので、魔法も大体そのころに開発されたとするのが妥当そうです。


 そうすると、もちろん設定によりますが、ファンタジー世界の中世に至るまではやはり古代文明の存在がありそれが崩壊した、と考えるのが説明が付く事が多いように思えます。


 なぜなら文化面においてあまり魔法が活用されていないからです。

 文化、つまり音楽や美術、スポーツなどに技術の恩恵が行き渡るには、社会にそれ相応の余裕と技術の発展が必要です。


 文化の発展に対する考察はこの後何回かすることになりますが、多くのファンタジー世界で文化的な要素に魔法の存在が見られないというのは、魔法の存在を考えるカギになることでしょう。


 古代文明崩壊後に一部の伝承技術と、必要とされた後発技術がごちゃ混ぜになった状況が、ファンタジー中世の魔法事情なのかもしれません。



・ひとつの世界の歴史を作ってみる


 さて、ファンタジー世界の中世において"貴族のみが魔法を使えている"という場合、近世までの歴史を作れます。

 以下は設定によるものなので、話半分に読んでほしいとおもいます。



 定住生活がはじまり農業技術が進歩したころ、指導者は豊作や治水について考えなければなりませんでした。

 雨が降らなければ雨ごいをし、気温が上がらなければ日照りを願い、氾濫が起きれば土地の隆起を祈る。そうして口にだして祈りをささげる行為が魔法の原点です。


 規模も効果も代償も桁外れなこの魔法は、原典魔法として伝わりました。指導者は命を賭して原典魔法を人類の発展に行使してきました。


 やがて社会に余裕が出てくると原典魔法は改良され、指導者は小規模ながらもより安全に魔法を使うことができるようになってきます。


 指導者の証がこの魔力の制御能力であり、指導者の血筋はその力を磨き、伝え、都市経営のために捧げてきました。それは巨大な繁栄をもたらし、帝国による平和は未来永劫続くかのように思えました。


 しかし、そんな淡い夢はモンスターの大規模侵攻によって霧散してしまいます。

 都市防衛をするために指導者は戦闘指揮の傍ら、秘儀とされていた原典魔法を扱うものの、多勢に無勢、帝国は滅んでしまいます。



 大規模侵攻を逃れた指導者の子孫は、各地に散らばった民を集め原住民と血を交わらせながらも、再び文明を興します。指導者の子孫達はやがて領主となり、魔力を扱う血筋が貴族階級を占めるようになります。


 継承権を持たない貴族の子弟は戦闘技術を磨き、略奪を仕掛けてくる蛮族やモンスターを倒す役割を担いました。


 こうして騎士階級は生まれます。その戦闘能力は絶大であり、またその地位を守るためにさらに攻撃魔法の研究に力を注ぐこととなります。


 しかし巨大な戦闘力を持つ騎士が持つ絶大な実行力を疎ましく思ったとある王は、その力を削ぐために力の源である魔力の制御方法を民衆に明かしてしまいます。



 騎士の権威の象徴として秘匿され続けてきた魔法は、民間人にも解放され広く研究されるようになっていきました。

 それは騎士の武力を削ぎ、直接領主の力を削ぐことになります。しかし、王には原典魔法という王家代々に伝わる魔法があります。


 領主は王に恭順せざるを得なくなりました。


 こうして封建制度の時代は終わり、絶対王政の時代に移っていったのでした。


 騎士は名誉階級となり、魔法に優れた者が騎士を名乗るようになります。


 そして現在。軍の精鋭である騎士を育成するための学校が王都にあるのです。

 騎士を目指す主人公は学園に入学しようと、生まれ故郷である農村を出て王都へやってきました。



 小説ごとに様々な歴史があるとは思いますが、魔法が使われている分野、魔法を使う階級、魔法の発動方法など、これらを並べることでその世界の歴史や起源をある程度考察し、設定できるのではないかというのが今回のお話でした。


 この章ではあまり深いことには触れることはできませんでしたが、このようにして本小説では現実とファンタジーのバランスを取りながら、ファンタジーの要素を考察していきます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る