毒の味はいかが?-1

第32話 くらやみに、うめく。


彼らは死の危険を感じて。

カラスの軍団から逃がれようと穴へ落ちた。


そして、さらに落ちていく少年。穴を深く、深く。

彼は、白ウサギの手を左手に握って。

穴の壁に、右手をこすり付けて。



「止まれッ! 止まってくれ!」



そう叫ぶ赤憑き。無我夢中に。

彼は今、必死の形相で、右手を壁にこすり付けていた。

少しでも、落ちるスピードを落とそうと。


穴を落ち切るまでに。その底に着く前に。

右手を壁に当て、ブレーキを掛ける。



「スピードを落とさないと……少しでもッ」



落下のスピードを落とさないまま、底に到達すればどうなるか。激突し、その衝撃でミンチだ。


黒竜が落ちた後に、聞こえた水の音。

あれは着水音だった。

つまり、この穴の底には水がある。


水は、衝撃をある程度は吸収する。

けれども、このスピードではダメだ。

衝撃を吸収し切れない。


水面にぶつかって、死ぬ――!



「こういう時に出てこないってんだから……イヴァのヤツ!」



グチを吐きながら、赤憑きは刻印を使う。

右手を光らせ、こすり付けた右手――

その手にかかる摩擦力を大きくする。



「ッ……」



右手にかかる摩擦力を大きくする。

そうすれば、右手はブレーキとして、より役立つ。

落ちるスピードをもっと遅く出来る。


――まあ、めちゃくちゃ痛いんだけど


その手から、肉の焦げるような臭いがした。



「赤憑き、さ。誤解してない?」



赤憑きに手を握られた彼女。

その白ウサギが、ぽつりと言う。



「守られるばかりの少女じゃないぜ、あたし」



赤憑きの視界を遮る、青い炎。

白ウサギが出した炎。

彼女の両手から噴き出す、魔力の塊。


その魔力噴射を使い、落ちるスピードを完全に殺し――白ウサギは安全な着地をした。


その後に落ちてきた赤憑き。

その少年を両腕で抱え、受け止める彼女。



「いや、これ逆だろ……普通は」

「違うよ。これが正しいんだ」



お姫様抱っこ。男女逆転。体格相応。

さっき、どこかで見た光景の中で。

赤憑きがツッコミを入れると、白ウサギは満足げに笑う。

笑って、次に口を開く。暗い瞳で――



『グギギギ――ッ!』



その“鳴き声”に、赤憑きは目をまん丸くする。



「すげーな。今のってウサギ?」

「んな訳無いだろう」

「じゃあ、えっ……何の声だ……?」

「いや、そもそもコレ……声かい?」



白ウサギは腕の中の少年と、顔を見合わせる。



「はは、もしかすると、モンスターがいるとか?」

「いやーはは、そんなまさか……下水道だぞ?」

「だよね。こんな所にモンスターなんていない……いる訳ないんだ。ネズミならともかく」



彼女の言葉を遮り、バシャリ――! と。

大きく水が跳ねて。


“何か”が二人を横切り、水面を打ち鳴らし――

その後、赤憑きが水の上に投げ出されて。

ドサッ――と



「うッ……」



白ウサギがうめき、倒れた。

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