第23話 勇者の仲間を殺してやる


乱入者の出現。ぶん殴られたハイエルフの女。

この一連の出来事は、娯楽に飢えた観客の興味を、これでもかと引きつけた。



「何だ? 何が起こったんだ……?」

「俺にも見せろよ! 前を譲れッ!」

「おい、押すな! 殺されてえのかッ!」



ススだらけの観客が前の列に押し寄せる。

すると、その中で観戦していた白ウサギは揉みくちゃにされた。



「ちょっ! ざっけんな! 通せよ!」



叫びながら、ウサギが前へと行こうとする。

だが、群衆に揉まれて進めない。



「赤憑きィッ!」



白ウザキの二度目の叫び。裏返る声。

それを聞いて、赤憑きは覚悟を決めた。


今の状況に対し、白ウサギの“魔法”は相性が悪い。

周りを人に囲まれているのだ。

力で押し通れば、否応なしに目立つ。

そして、これ以上に目立てば観測班カラスが集まってくる……。

そうなれば、勇者の暗殺計画どころではなくなるかもしれない。


少しの間、一人で戦わなければいけない。

一人でみんなを守らなければいけない。


ならば、まず――



「よお、変態トカゲ。随分と面白い格好してんな」



――アレスの教え。

敵対者に対しての対処法2。

落ち着いて、相手と意思疎通のできる場合。


まず話をして、敵対者の戦意の程度、その性格……そこから、その戦い方を見定める。


話し方としては軽い調子でいくこと。

そうすれば自分を相手より格下と見誤らせることができる。侮らせることができる。


それに話の中で、敵対者の情報を探ってもバレにくくなる。



「面白いカッコーってどこがですー?」

「どこがって……どこもかしこもだろ」



赤憑きは対する相手の恰好をまじまじと見つめた。


所々ウロコのある筋骨隆々の肉体を上からぴちぴちの真っ白なウェディングドレスで締め上げている。


マッチョの女装は少年の目に毒だ。

足を晒しているのなら尚更。



「まず、その足……」



大男の着ている白いウェディングドレス……

そのスカート部分のシルクは、元は長かったろうに途中で無惨にも引き裂かれており、現状では膝の上から拳ひとつ分くらいの短さしかない。


いわゆる、ミニスカート丈だ。


お陰で太くてむさい脚が必要以上に露出していた。

太くて大きな、黒い尻尾も。



「そんでもって、そのティアラ……」



女装マッチョの頭の上に乗った銀色の物体。

それはティアラだ。純銀の王冠だ。


モジャモジャと長い、その黒髪の上に生娘みたいにティアラを載せている。

それも純銀製のいかにも高そうな逸品で、中心部にはピンクの宝石が入っているブツだ。


あまりにも、かわいいファッションをしている。

とてもマッチョの大男の趣味とは思えない。



「筋肉とが合ってないだろうが」

「あー……」



男らしい体格なのに、格好は女々しい。

あえて、その格好の内で男らしいアイテムを一つあげるとすれば、それは左目を隠すように付けられた、黒い布切れだけだ。


その眼帯だけが男らしく、格好の女らしさの統一性を逆に乱している。


そこさえ無視すればこの大男のカッコーは、全体的に女々しさの塊だ。



「竜人……リザードマンってのは何よりも男らしく生きたがる種族だと思っていたんだけど」

「そりゃそうでしょーね……でも、セッシャはその立場にはないから」

「はあ? 何じゃそりゃ」

「まー、これから殺す相手に聞かせる話じゃないでござるなー。セッシャ、反省ちゃんですよ。てな訳で――」



大男は先の黒い、尖った耳をぴくりとさせ、トカゲのような金色の瞳に強い光を宿す。



「覚悟しろよ」



そう言うと、自身の腰の辺りで、何か見えないモノを握るような仕草をした後、彼は素早く赤憑きへと駆けた。



「この黒竜こくりゅうが村の仇を討つ、めッ!」

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