第14話 ネズミは、灰の捧げを食らい尽くす。


焔よドゥーガ常闇を焼き払えクォカムス・イグニ



その時、突如、周りの視界が開けた。

真っ白な爆炎が輝いた後に、爆風が砂埃を吹き飛ばしたのだ。

間違いない。この詠唱は――



「魔法戦士……ッ」



視界が開ける。


砂埃が白き風に飛ばされる、その一瞬。

闇を焼く、その刹那。


閃光に照らされ、一面が真っ白になる中で……

燃える剣を振り上げる敵の1人が、赤憑きの視界に現れた。


さっき倒した剣士とは別の敵……顔も含む、全身をフルアーマーで覆っている。


こいつは魔鉱石を身に付けていない。

石を捨てていた。

光で位置を気取られないように。



「クソッ」



――忍び寄られていたのか


絶体絶命。赤憑きの笑みが顔面から消える。

ひとまず回避をしなければ。冷静に。

殺した剣士の死体の上から、身を捻り、横へと転がり落ちて……赤憑きは斬撃を避けようとする。


だが、このフルアーマーの女剣士は、赤憑き以上に状況判断が素早かった。

赤憑きの回避行動を見て、振り下ろそうとした斬撃を取りやめたのだ。


女剣士は前へとジャンプ。跳び上がって、一気に赤憑きとの距離を詰めてくる。



「安らかに死になさい」



すぐ前に迫る、フルアーマーの女剣士の刃。

それが少年の顔に突き刺さる――


それよりも速く……



「どーんっ!」



……弾丸みたいに飛んできた白ウサギが、フルアーマーの上半身を蹴り飛ばす。


空気を切り裂く打撃音、衝撃波。

まるで、プリンを掬うような軽い動作で切り飛ばされた人体。

その残骸が他の敵の騎士に当たり、衝撃でその騎士が石壁にめり込む。



「なあ。あたしを忘れてたろ、赤憑き」

「……忘れてねーよ」

「絶ッッッ対、忘れてた!」



セリフの後、白ウサギは血を浴びて赤くなった白髪をブルルと振るった。犬みたいに。



「ブルルァッ!」

「……今まで何やってたんだよ、ウサギ」

「怒るなって……反対側の2人を殺してたんだぜ」

「共闘って考え方はないの……?」

「赤憑きが暴れてくれたおかげで、気付かれずに後ろから“ねじって”殺せたんだ。これも共闘だよね。ねっ」

「……その間に、ボクは4人殺してたからな」

「あたしが今蹴り飛ばしたのと、それにぶつかって死んだのを含めてごらんよ。ねっ、あたしの勝ち!」

「うっっさ」



ウサギが4人を殺し、赤憑きも4人で(誤射で死んだのも含めれば)……計8人を殺している。

確か、最初にいた敵の数が計11人。


11人−8人=3人。今の敵は残り3人。


赤憑きがカウントしていた、その時だった――



「何だ……これは……」



カササッ――と何かが走る音がして、灰色が天井を埋め尽くす。


その灰色の小さな生物は天井の一か所へと集まり、逆さの山を作り出した後、ツララのように一つの肉に向かって垂れ落ちる。

1人の死体へと流れ落ちる。


一匹一匹が落ちるのを見て、その灰色の正体に赤憑きは気が付いた。

そして、目を見開く。



「ネズミ……?」



石床の上に、灰色の山が盛り上がって散り、その間に見えたのだ。



黒い白目――黒い結膜、それに白い瞳へと変わったハイエルフ。

彼女が長い銀髪をはためかせ、立ち上がる姿が。

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