第8話 精神病質―サイコパス



「それで、“大規模な計画”ってのは何なんスか?」

「ああ、影の勇者を殺したい……んだ」

「影の勇者ってあのクソサイコサディスト野郎ッスか?」

「何かもう、ハチャメチャな呼び方だな……おい。いや、否定はしないけど」



 赤憑きは大精霊の使者、転生勇者の暗殺を宣言した。

 それは儀式を執り行う白銀聖堂教会スワン観測班カラスに、ひいては王国軍、そしてアップルビー女王への反逆に等しい。


 そんな大事を宣言されたのに、灰色ネズミの反応はとてつもなく薄い。

 驚く素振りすら見せていない。



「……にしても意外だな」

「何がッスか?」

「赤憑きはもっと驚かれると思ったんだろ。例えば自分で“待ってた”って言ってた依頼が来たにも関わらず、思いもよらないって顔したときのようにね」

「うっせえ」

「んー……あーしは驚いてるッスよ。ただ人よりも表情が顔に出ないだけなんス」

「なのか? どうもそうは見えないけど……な」

「表情というか……正しい感情の出し方が分からないんスよね。あの人、なんであんな風に笑えるんだろう――とか、なんで泣けるんだろう、とか分からなくて」

「でも、さっきは笑ってたじゃんか。ね、赤憑き」

「ああ、ふへへっての?」

「へへ……そう見えたッスか」



 他人の感情が分からない。共感が出来ない。

 精神病質サイコパス。あるいはなにかトラウマによる後天的な後遺症の類だろうか。

 赤憑きは、かつて知り合いだった学者の竜人リザードマンの言葉を思い出していた。

 そして、他者への共感読心術を能力の一つとして、存分に使いこなす白ウサギを横目にちらりと見る。



「それで、報酬はいかほどッスか?」

「そういえば、ウサギ……お前に聞いてなかったよな?」

「何、報酬の話? てかさ、そういうのは最初に聞くもんじゃないかな、フツー」

「ボクは二人分の飯代さえ足りれば、そういうのは気にしねーんだよ」

「だから、赤憑きはいつまでたってもチビなのか」

「おまっ……てめっ!」

「やーい! この育ち盛りさんめ!」



そんな二人の微笑ましいコントを見て、灰色ネズミは、ただただ、じれウザったそうに口の端を歪めた。



「……それで、いくらなんスか?」

「そうだねえ……この国を丸ごと買い占められるくらい、かな」

「は? おま……サラッととんでもないこと言ってない? ちょっと」

「そっかぁ。なるほどッスねえ。こりゃあ驚いた!」



 ネズミはわざとらしく両手を広げた後、にっこりと笑った。

 それは張り付いたような笑顔だが、元の顔の良さのせいでかなりマシになっている。



「こちらとしては出来る限りのサポートさせて頂きますッスよぉ。ただ、あーしはメンバーだとか同士とかの一人とかとしては数えないで欲しいッス」

「つまり、作戦準備や作戦立案には協力してくれるけど、その実行には責任を持たない、と?」

「ギッタギタの正解ッス!」

「……一応聞くけどなぜ?」

「だって、そんな額の動く依頼なんてヤバすぎッスよ、フツーに考えて」

「ですよね」

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