第6話 低き城のハイエルフ
「おやおや~ん? これはまた
どこからか、くぐもった声がする。
甲高い感じの、どこか癪に障る喋り方をする女の声だ。
声の聞こえ方からして、鏡の掛かった壁の向こうにいるらしい。
「どちら様っスかね?」
「灰色ネズミ殿を訪ねに参った。ボ……我の名はカラーン・スッカランと申す」
「うわぁ……バレッバレの偽名だぁ」
「ゴホンッ! 黙りたまえ。我が姉弟子、スッカラ・カラン!」
「へいへい。そういう設定ね」
ウサギは小声でそう呟き、肩をすくめた。
非協力的なウサギを放って、赤憑きは演技に熱を入れる。
「我ら
「いかにも、ここは灰色ねずみの“
「いかにも」
「あの四族殺しの赤憑き?」
「いかにも」
「あの
「いかに……おい、それ誰が言ってんだ」
「だって、あの殺し方はヘンタイッスよ。誰がどう見ても」
「あんたが発信源か……」
「ゴホッ、スラーン氏?」
ウサギにわき腹を小突かれ、赤憑きは再び演技に戻る。
「ま、まあその話は置いておくとして。赤憑き氏は近い内に、新たに大規模な計画を執り行う予定でな」
「大規模な暗殺計画ッスか。それはそれは……景気が良くて、ご愁傷様ッスねえ」
「良ければ、灰色ネズミ氏のご助力をたまわりたい」
「……はぁ~ん、分かりましたッス。クァガーテグニ……えっと、どうぞお入り下さいッス」
赤憑きたちの前の鏡の掛かった壁の一部が奥へと開き、小さな穴が現れる。
赤憑きはその薄汚い入り口を小さな身体をさらに小さくしてくぐり、明かり一つない暗がりの中、転びそうになりながら階段を降りた。
「うわぁ、こんな狭いとこ通って……こんな暗いとこ行くのかあ。ねえ、赤憑きさん、実は私って怖がりなんだけどさ?」
「ボクには関係ない。行くぞ」
「この薄情モンがぁ!」
ウサギの叫び声を無視し、赤憑きが耳を澄ませると、微かな水音が鳴っている。
こんな地下に水が流れている。それも結構な量だ。
「川……いや、下水道か」
「そうッス。下水道ッスよ。ネズミが暮らすなら、ここをおいて他にないッスよね」
少し手前の暗がりに、ランタンを持った女が浮かび上がる。
小汚くなった白いレースのネグリジェに、魔術師風のローブを羽織り、異世界から伝わったゲタとかいうのを足に履いている。
ちぐはぐな格好の女。
「あんたが噂の図面描き、灰色ネズミか」
「そういうあなたは、赤憑きさんご本人様……ッスよね?」
「バレてたか」
「バレバレッスよ」
真珠のように白かっただろうに、今は所々ヘドロで薄汚れている肌、ススで黒ずんだ銀色の長い髪、真っ青な瞳。
その瞳をパチクリさせた後、その女は何かにかじられて半分欠けている、種族の象徴たる長い……
長かっただろう右耳を、人差し指のない右手で触った。
さらにその後、鼻の上に乗せた小さな丸眼鏡を、見た目は正常な左手を震わしながら上にずらす。
「あーしは灰色ネズミっす。この下水城に住むハイエルフの図面引き。好きなものはドウジンシ」
「ん? ちょっと待て」
「声を聞いた限り、多分だけど会うのは初めてッスよね? ふへへっ、よろしくッス。赤憑き氏ぃ」
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