イベントとは?

第26話 王道のイベントは自身を滅ぼすだけである


「でたよー」


「お風呂ありがとうございます」


「おぉ上がったかー」




そう言って部屋に戻ってきた波子と波美の二人からはほんの少しシャンプーの匂いがした。


いつもの二人の匂いとは違って自分が普段使っているシャンプーの匂いだ。


自分の時は感じないのに女の子が同じものをつけるとちゃんといい匂いを感じるのは何故だろうかと素朴な疑問を持ったりした。




「ねぇ夢くん、さっき誰か来たの?」


「ん?あー瑠夏が帰ってきたんだよ」


「あ、瑠夏ちゃんか。でもずいぶん帰り遅いんだね?」


「うん、なんか体育祭が近いらしくてさ....あいつ陸上やってるからリレーの選手に選ばれたらしくて、でその練習があるって前に言ってた」


「そっかー、やっぱり瑠夏ちゃんすごいんだね!」


「いやいや、あいつからしたら大したことでもないだろ」


「そう?なの?」


「だってあいつの取り柄とか陸上しかないし、足だけは速いから」




ドン!!



突然隣の部屋から壁を叩く音が聞こえた。


たぶん今のが瑠夏に聞こえたのだろう。




「うるさいぞー瑠夏」


「◯ね!馬鹿兄貴!」


「◯ねとは失礼な、もっと兄を敬え!」


「なにが”敬え”よ!あんたなんて馬鹿兄貴で十分でしょ!」


「なっお前.....!!」


「まぁまぁ夢くんもその辺で、私の顔に免じてさ」


「ちぇ、まぁいいよ。波子が言うならもう辞めるよ」




そう言うと壁越しから聞こえてきた瑠夏の罵声が止んだ。



それから一度ため息をついて、今度は小鳥遊さんの方に目をやった。


相変わらずの可愛さと、そんな彼女がたまに見せる笑顔が俺の心を突き動かす。




「小鳥遊さんもそろそろお風呂入ってきたら?」


「あ、そうだね.....じゃあ入ろうか綾瀬ちゃん」


「えっ、私まだいいですよ?」


「えっとじゃあ....どうしよう」


「おいおい綾瀬、小鳥遊さんを困らせんじゃねぇよ!二人ずつなんだから早く小鳥遊さんと入ってこい」


「えー先輩とがいいですよぉ〜」


「それは却下!」


「ブー全く、先輩はなんてヘタレなんですか?」


「はいはい、ヘタレだから早く入ってこい」


「はぁ、分かりましたよ。入ってきます」




そう言いながら、嫌そうな顔を見せつつも小鳥遊さんと一緒に部屋を出て行った。




「はぁ」


「夢くんお疲れだね?」


「うん、今日は色々疲れたよ」


「でもため息はだめだよー....幸せ逃げちゃうから」


「幸せ.....ね。はぁ」


「だからため息つかないのー」


「はいはい」




そう返事をしたところで風呂の方から誰かの悲鳴が聞こえた。




「ちょっと、いや〜やめて〜」




かなり高い声を上げている。

実際声だけだったらどっちの声か分からなかった。

しかし綾瀬と小鳥遊さんの二人でどちらかが悲鳴をあげるとしたら小鳥遊さんしか考えられない。




「ちょっと〜工藤くん助けてー!!」




一階から声を上げているのにこんなにはっきり聞こえるなんて、よっぽど大きな声を出している。


小鳥遊さんがこんなに声を出すなんて珍しい。


しかも俺の名前を真っ先に呼んでくれたのだから少し嬉しいとか思ってしまう。





「小鳥遊さん大丈夫??」




少し早足で階段を駆け下り、小鳥遊さんの声のした部屋のドアを開けた。




一瞬時が止まったように俺と彼女たちの目が合う。


それから我に帰ったように二人は当然の行動を起こした。




「「キャーァアア!!」」




二人の悲鳴が家中に響き渡る。



それもそのはずで二人の体には布という布がなく、素のままの彼女たちだったのだ。



透き通るような肌に、少し膨らんだ胸、そして美脚と言っていい細い足。


一瞬だったのにその光景は俺の目に焼き付いた。




「ご、ごめん!!」




俺はそう言って慌ててドアを閉めた。





「先輩、見ました?」


「な、なにをだよ」


「私たちの裸です!」


「み、見てない!!」


「絶対嘘ですよね!今、人の身体を舐め回すようにエッチな眼差しで見てましたよね!?」


「そ、そんなことは......」


「先輩のスケベ!」


「工藤くんのバカ!」


「なっ........!」




小鳥遊さんそう言われ、俺は一生立ち直れるか分からないほどの大きな傷を心に負った。




「ご、ごめん.....」




そしてそっとその場を後にし自分の部屋に戻った。



ドアを開けると波子と波美が呆れた顔で俺を見ていた。




「やっちゃったね」


「とうとう本性を表しましたね」




二人は下で起こった出来事を察し、メンタルがズタボロの俺にさらに追い討ちをかけた。




「もう、なにも言わないでくれ」


「夢くん、ドンマイ」


「うっ、うぅぅー」




久々に泣きたいと思った。


いや、気づかなかっただけで泣いていたかもしれない。



俺は何も言わずにベットに入り、そして布団に潜った。


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ちょっとヤバめの後輩は好きですか? 美玲 @Ytk43200

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