第25話 心なんてすぐに変わってしまう
“好きな人”とは、その人に会いたい、その人ともっと話したい、などといった好奇心が膨れ上がり、少しのことでも恥ずかしくなったり、照りてしまったりとある一定の気持ちを動揺させる青春のまやかしである。
そして今、俺はそんなまやかしに引っかかり毎日のように悩み続けている。
それはあの時、あの場所で......
一人の女の子に出会ってしまったからだ。
今になって思えばあれがなければ純粋に1人の女子を好きだと思い込んでおわっていたかもしれない。
でも気持ちというのは日に日に変わっていくもので、気づいた時には俺は彼女のことが気になってしまっていた。
何度も自分に嘘をつき、彼女が好きだと言い聞かせて、そして気づいたその気持ちは自分が思っていたものとは大きく違い、そしてまた彼女が好きだと言い聞かせる。
そんな日々を毎日のように歩んできて、俺はようやく自分の心に蹴りをつけた。
そうだ、俺はやっぱり......
「それで、先輩の好きな人はやっぱり私ってことでいいんですか?」
「誰がお前なんか」
「先輩がです!」
「はいはい」
「認めました?」
「なにを?」
「先輩が私のこと好きだって」
「んなわけあるか」
「ぶー先輩のバカ!」
「なっ!」
何か言い返そう
そう思った俺だったが、この時は何故か言葉が続かなかった。
俺を入れて5人いるこの部屋でうち4人がメインヒロインになりうる女子。
そしてその中にいる俺の好きな人。
自分がラブコメの主人公だなんて一度も思ったことはなかった。
けれど改めて周りを見てみると、どこぞのラブコメ主人公に自分はなっているのだと自覚する。
「ねぇねぇ夢くん、好きな人ってやっぱりこの中にいるの?」
「えっ、いやそれは」
「いるんだー」
「さ、さぁな」
「だから、私ですよね?」
「それはない」
「えー」
「じゃあ誰がメインヒロインなんですか!?」
「んー誰だろうな」
「やっぱり私以外いないですよ!」
「それだけは100%ない」
「酷い、そんな言い切らなくてもいいのに」
「そこは譲れん」
「ほんと酷いです先輩は」
「じゃあ何で....」
「でも私は先輩のそういうところも好きなんですよ!」
「はいはい」
「あ、先輩顔赤くなりました?可愛いー」
「なってねぇし、それに先輩に可愛いとか言うもんじゃ....ないし」
「先輩、声小さくなってますけど、照れてます?」
「違うわ!」
先輩をおちょくる後輩はいつもより少しだけ可愛く見えて、そんな姿にちょっとだけキュンときたりしなくもない。
それでも好きという感情は彼女に対しては持つことができない。
それがプライドなのか?
ただ単に友達だからなのか?
後輩としてしか見ていないからなのか?
まだ俺には理解できていなかった。
「ねぇ夢くん、もうこんな時間だしそろそろお風呂とか入っておかないと」
「ん?あーそうだな」
時計に目をやると時刻はすでに18時20分をまわっていて、外も青空ではなくオレンジ色の夕日が出ている。
「じゃあ風呂にするか」
「イェーイ!」
「先輩、2人ずつ入りましょう!」
「あーそうだな、波美と波子、綾瀬と小鳥遊さんでいいか?」
「えー先輩と私じゃないんですか?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ私と波子、先にもらってもいい?」
「あーどうぞどうぞ」
「じゃあ入ろ波子!」
「えぇ」
そしてこのヒロイン揃いの賑やかな俺の部屋から波子と波美が出て行った。
「先輩、今日のご飯は私が作ってもいいですか?」
「え、やだよ」
「なんでですかー」
「おまえ下手そうだもん」
「そんなことないですよ!前にクッキーも作ったじゃないですか」
「お菓子は別だろ」
「もー、お菓子もご飯も変わりませんって!」
「そんなわけあるか!」
「ねぇねぇ工藤くん、私もお料理したい....かな」
「え、あぁもちろんいいよ。自由にキッチン使ってくれて」
「ありがとう」
「先輩私は!?」
「やだよ」
「先輩のけち!」
「そうだよ俺はけちなんだ」
ピーンポーン!
そう言い放った直後、家のチャイムがこの家に全体に響きわたった。
こんな時間に誰だ?
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